ジャニーズ事務所 社名議論 再発防止・被害者救済 実効性は

ジャニー喜多川氏による性加害の問題をめぐり、ジャニーズ事務所は19日、取締役会を開き、社名の変更など今後の運営に関わる方向性を議論したことを明らかにしました。

来月2日には事務所の新体制が発表されることになっていて、今回の社名変更と合わせて再発防止や被害者救済にどこまで実効性を持って取り組むことができるのか注目されます。

取締役会で社名変更など議論

ジャニーズ事務所のホームページより

4年前に死去したジャニー喜多川氏の性加害問題をめぐり、ジャニーズ事務所は19日、取締役会を開き「今後の会社運営に関わる大きな方向性について」議論を行い、「向かうべき方針を確認した」とホームページで明らかにしました。

取締役会では社名変更や前社長の藤島ジュリー氏が保有する株式の取り扱い、被害補償の具体的な方策、それに所属タレントや社員の将来などについて、あらゆる角度から議論を行ったということです。

社名変更めぐる経緯は

ジャニーズ事務所の社名の変更をめぐる方針について、新たに社長に就任した東山紀之氏は今月7日、都内で開いた会見で「名前を変え、再出発した方がもしかしたら正しいのかもしれない」としながらも「今後はイメージを払拭できるほど、一丸となって頑張るべきだと今は判断している」などと述べて、直ちに変更する考えはないとしていました。

一方で、同じ会見で今後、社名の変更を検討する余地があるかを問われると「それもある」と答えていました。

こうした対応について被害を訴える人たちからは「会社名を聞くだけで当時を思い出して苦しい」といった声もあがっていました。

事務所ではこれまでに被害者救済委員会の設置や、外部からコンプライアンスを担当する責任者を置くことなどを明らかにしていて、今月中にはさらに具体的な再発防止策を、公表するとしています。

また来月2日には事務所の新体制が発表されることになっていて、今回の社名変更と合わせて再発防止や被害者救済にどこまで実効性を持って取り組むことができるのか、注目されます。

被害訴える元タレントからは社名維持に否定の声相次ぐ

社名を変更しない方針が示された際、被害を訴える元タレントたちからは否定的な声が相次いでいました。

このうち「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の一員で、アイドルグループ「忍者」のメンバーだった志賀泰伸さんは「ジャニーズ事務所という名前は変えるべきだ。世界的にみても人類史上例をみないような性的虐待が行われたというのにジャニー氏の名前を残すような事務所では存在していけないと思う」と訴えていました。

同じく当事者の会のメンバーで元タレントの二本樹顕理さんは「事務所を退所してからも『ジャニーズ』という言葉を聞くと、過去の被害体験がフラッシュバックしていた。ほかの被害者にもそうした人がいると思う。性加害を行った本人の名前を社名として掲げ続けるのはいかがなものか」と話していました。

また、当事者の会とは別に、被害を訴えてきた元タレントのカウアン・オカモトさんは事務所の会見の翌日「社名を変えないのはびっくりした。この問題が出てしまった中でジャニーズという名前を使い続けることはむしろマイナスなのではないかと思う」と懸念を示していました。

企業は事務所との関係見直しの動き

さらに、民間の信用調査会社の調査からは、ジャニー喜多川氏の性加害問題を受けて、企業の間で事務所との関係を見直す動きが出ていることが見てとれます。

帝国データバンクによりますと、ことしテレビCMなどの広告や販促物にジャニーズタレントを起用したり、これから起用を予定していたりする上場企業は9月13日時点で65社にのぼっています。

25%にあたる16社が「起用しない」方針を示していて、このうち6社が放映中のCMなどを「即時中止する」方針で、10社が契約期間満了後に「契約を更新しない」方針だということです。

また、東京商工リサーチによりますと、ジャニーズ事務所やそのグループ会社と取り引き関係にある企業は、間接取り引きを含めて226社にのぼります。

東京商工リサーチは「日本を代表するエンターテインメント企業のジャニーズグループは、大手企業との取り引きの割合が高いので、会社のイメージダウンなどをおそれ、今後、取り引き見直しの動きが加速するのではないか」としています。

日本商工会議所会頭「未成年者への犯罪だと認識」

日本商工会議所の小林会頭は20日、記者会見でジャニー喜多川氏の性加害の問題について「これは病気とかではなく、未成年者に性加害をした犯罪と私は認識している。しかも、その犯罪をした方がトップであった企業で、後継者も含めてそれを認識していたということで、コンプライアンス上、非常に問題だと思う」と述べ、厳しく批判しました。

さらに、この問題を受けて企業の間でジャニーズ事務所に所属するタレントのCMをとりやめるなど関係を見直す動きが広がっていることについては「企業経営者として自分たちのレピュテーションも考えれば考えうることだと思う」と述べ、理解を示しました。

一方で小林会頭は「個々の企業の判断だが私はタレントは悪くないと思う。企業がタレントと契約をして事務所を変えてもらうなどの措置もしうるわけで、いろいろと検討したらいいと思う」と述べ、タレントの起用のあり方を模索すべきだという考えを示しました。

TBS社長「改善の状況を見たうえで評価 判断」

TBSの佐々木社長は、20日開かれた記者会見で、先週、会社としてジャニーズ事務所に対し、被害者への救済や補償などに関する具体的な施策を公表し、実施すること、人権に関する行動指針を策定し、対外公表することなどを要望したことを明らかにしました。

会見で佐々木社長は「近いうちに話し合いをもって進捗を確認し、取り組みが足りなければまた要望していく。改善の状況を見たうえでさまざまな評価、判断をしていきたい」と述べました。

そのうえで、番組などへのタレントの起用について問われたのに対し「現在の契約をしているタレントの出演は、変わりないということだ。今後どうするかは、どう着実に進んでいくか注視しながら、適正に判断していきたい」と述べ、今後の改善状況を確認して判断する考えを示しました。

ジャニーズに詳しい専門家「”社名残す” 世間の理解得にくい」

ジャニーズに詳しい江戸川大学の西条昇教授は、タレントたちにとってジャニーズという名称自体がみずからのアイデンティティーになっていると指摘しています。

そのうえで「ジャニーズという名称は個人の名前にとどまらず、今やジャニー氏が作ったエンターテインメントそのものを指すことばにもなっている。東山新社長はもともとジャニーズのタレントでもあり、自分たちが信じてきたエンターテインメントから決別できずこうした判断につながったのではないか」と話しています。

一方、会見後に社名の変更が議論されていることについては「社名を残したいという彼らの思いは世間の理解を得にくく、変えざるを得ない状況になったのだと思う」と話していました。

企業統治の専門家「“脱創業家”をはっきり示す必要がある」

企業統治に詳しい高田剛弁護士は「前回の会見で発表した事務所の方針に、世間からの理解を得られず、契約を見直す企業の動きもいっそう加速していることもあり、創業者との精神的な決別を示す意味でも、社名変更は不可欠だという考え方になったのではないか」という見解を示しました。

そのうえで「海外への展開も考えると、同じ名前を使い続けることはマイナスイメージを継続的に与え続けることになり、ビジネス上も大きな損失だ。新しい社名にするのであればファンに選んでもらうなど、新生会社をクリーンなイメージにするために“脱創業家”というところをはっきり示す必要がある」と話していました。

そして、事務所が10月2日に進捗内容を具体的に公表するとしていることについて「被害の補償という部分と、今後のタレントの活躍の場の確保という2つの観点の両立のため、株式の保有に関しては非常に難しい対処が問われる。補償を行う会社と、芸能事務所の機能を有する会社に、分離をはかることも考えられる。今後新しい事実が出てくる可能性もある中、来月2日の事務所の発表では外部の企業から理解されるはっきりした道筋を示す必要がある」と指摘しています。