大阪・住吉区の願生寺でこの夏開かれた寺子屋。
ことしで2年目の取り組みで、小学生20人と地域の人たちが参加しました。
みんなが出会う寺子屋
大阪・住吉区のある寺は、時には「子ども食堂」に、時には「まちの保健室」として、人と人とを結ぶ場を開いていこうとしています。
ここで、この夏行われたのは、“みんなが出会う寺子屋”
令和の時代の寺子屋は「読み書きそろばん」だけでなく、大切な気づきを生む場になったようです。
(大阪放送局ニュースリポーター 小川真由)
寺子屋で夏を楽しむ子どもたち
子どもたちは寺子屋で、中学生や大学生に宿題を見てもらったり。
近所のおばちゃんたちと昼ご飯を作ったり。
スイカ割りにも挑戦し、地域の人と関わりながら、夏休みならではの体験を楽しみました。
寺子屋を開催したのは、住職の大河内大博さんです。
願生寺 大河内大博住職
「こどもは宝ですから。子どもがすくすく育ってくれるのを地域全体で支える、そんな交流の場がつむげたらいいなということで、去年から寺子屋をはじめています」
新しい友達が参加
寺子屋には、ある友達を招くことになっていました。
ふだんは特別支援学校に通っている、中学2年生の潮見邑果さんです。
脳性まひやてんかんがある邑果さんは、視力も弱く、医療的なケアが必要です。
もっと地域の子どもたちと関わる機会を作りたいと、去年から、お母さんと一緒にこの寺を訪れています。
邑果さんのサポート役に名乗りをあげてくれたのは、寺の隣の中学校の生徒たちです。
ふだん医療的ケアの必要な友達がまわりにいないという中学生たち。
障害のある邑果さんとどう接すればいいのか。
「いつも友達としゃべる感じでしゃべりかけていいのかな」
「なにかしてあげなきゃいけないことってあるのかな?」
考えるとわからないことばかりです。
住職に、以前邑果さんが寺に来たときのことなどを聞きながら考えます。
最後は「特別扱いするんじゃなく、小学生とも一緒に楽しく遊べたらいいな」という思いに落ち着きました。
邑果さんを知りたい!
そして。
寺子屋に邑果さんがやってきました。
ほとんどのこどもたちが邑果さんとは初対面。
仲良くできるかな。
最初は少し緊張した様子でした。
まずは、邑果さんのことが知りたいと、質問タイムが始まりました。
「食べ物は何が好きですか?」
お母さんが「白いご飯が好きです」と代わりに答えると、子どもたちからわーっと声があがります。
みんなといっしょです。
邑果さんが、どのように生活しているのか、何に興味があるのか、興味津々の子どもたち。
「好きな色は?」
「お風呂はどうやって入るの?」
「トイレは?」
次々に質問を投げかけます。
邑果さんの母親
「ふだんは地域の子どもたちと関わる機会はほとんどないんです。この子と関わることで、障害のある人のことについて、ちょっとでも興味を持ってくれたら」
邑果さんにも変化が
この日、邑果さんは、視線入力を利用した「お絵かき」に初めて挑戦しました。
こうした場に長時間いると疲れてしまうことも多いという邑果さんですが、この日は様子が違いました。
子どもたちが見守る中、カラフルな絵を描く邑果さん。
同席した障害児支援の専門家は、子どもたちの応援を受けた邑果さんがとてもうれしそうにしていると、弾んだ声をあげていました。
さらに、こどもたちと邑果さんは、オンラインの玉入れゲームを楽しみました。
2つのチームに分かれて、入った玉の数を競うもので、邑果さんも視線入力で参加します。
ゲームが大好きな、イマドキの子どもたち。
いっしょにプレーすることで一気に距離が縮まります。
これまでになく楽しそうな様子の邑果さん。
見守るお母さんの目には、うっすらと光るものがありました。
邑果さんと遊んでどうだったか、子どもたちに聞いてみると…。
「一緒に遊べて楽しかった」
「邑果さんは体とか言葉で表すことはできないけど、目とか表情で伝わってきました」
充実した時間をすごしたことが伝わってきました。
事前の準備をしっかりしてきた中学生たちも、邑果さんのそばで、手を握ったり、しゃべりかけたりして同じ時間を楽しんでいたようでした。
願生寺 大河内大博住職
「地域にはいろんな方がおられます。生活する場が違うとなかなか出会いにくいのですが、お互いに気をかけあったり、困ったときには助け合ったりするような地域づくりに、お寺として貢献できたらと思っています」
共に過ごす場があれば、みるみる距離を縮めていくこどもたち。
見えない壁や距離は、私たち大人が知らず知らずのうちに作ってしまっているのかもしれない…。
取材しながら、驚きと内省で胸がきゅっとなったのが、正直な感想です。
お互いを知ることで、安心感が生まれる、そのきっかけになる場所が、地域にあること自体がとても幸せなことだと感じました。