ポーランド ベラルーシからの違法越境が急増で警戒強化

ポーランドでは、ことしに入って隣国のベラルーシから国境を違法に越えようとする人たちが急増していて、ポーランド政府は、ベラルーシが移民を意図的に越境させ国境地帯を不安定化させようとしていると警戒を強めています。

ポーランドはベラルーシとおよそ400キロにわたって国境を接していて、2年前、ベラルーシ側にヨーロッパを目指す中東やアフリカの人たちが大勢集まって越境しようとし混乱に陥りました。

その後、ポーランド政府は国境地帯のあわせて190キロにフェンスを設置しました。

国境警備隊によりますと、ことし1月から先月までの越境の件数は、未遂も含めて2万件を超え、去年1年間をすでに5000件近く上回っています。

国境地帯には川や沼などでフェンスがない場所も広範囲にわたり、国境警備隊は数十機のドローンを使って上空からのパトロールを強化しています。

国境警備隊の広報担当者は、NHKの取材に対し、監視カメラの映像などから、ベラルーシ軍が移民を車で運び越境しやすい場所を教えるなど越境を支援している証拠があると主張しています。

さらにポーランド政府が懸念しているのは、ベラルーシが受け入れたとされるロシアの民間軍事会社ワグネルの戦闘員の存在です。

ポーランド政府は戦闘員が越境しようとする人に紛れて何らかの工作活動を行うことを懸念していて、先月、国境警備を増強するため、新たに1万人規模の兵士の派遣を決めました。

ポーランド政府の主張についてベラルーシのルカシェンコ大統領は否定しています。

「ハイブリッド攻撃」のおそれも

2年前、ポーランドとベラルーシの国境にヨーロッパを目指す中東やアフリカの人達が大勢集まって越境しようとし、混乱に陥りました。

この事態をめぐり、ポーランドを含むEU=ヨーロッパ連合は、ルカシェンコ政権が偽情報の拡散やサイバー攻撃など非軍事的手段も組み合わせて相手国の不安定化を狙う「ハイブリッド攻撃」に移民を利用したと非難しました。

欧米メディアでは「移民の武器化」などとも呼ばれました。

ポーランド政府は、ことし、違法な越境が急増していることを受け、ベラルーシが再び移民を利用しようとしていると警戒しています。

さらに、モラウィエツキ首相は、ことし7月、ロシアの民間軍事会社ワグネルの戦闘員がポーランドとの国境地帯に向けて移動しているとの情報があるとし、戦闘員が「ハイブリッド攻撃」に利用されるおそれがあると懸念を示しました。

ポーランド政府は、ロシアが同盟関係にあるベラルーシの背後で国境地帯の不安定化を画策しているとみていて、先月、ブワシュチャク国防相は「軍事的に見ればベラルーシがロシアの一部であることは周知の事実だ。『ハイブリッド攻撃』がロシア側で調整されていることは間違いない」と述べ、ロシアをけん制しました。

一方、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、移民の利用を否定していて、先月末、ワグネルの戦闘員についての懸念に関しても「根拠がなくばかげたことだ」と述べるとともに、ポーランドが国境周辺へ軍を派遣して緊張を作り出していると批判しました。

安全保障の専門家「ロシア 突きつける脅威とみるべき」

ポーランド政府が国境警備を強化していることについて、安全保障政策に詳しいポーランドのシンクタンクのヤロスワフ・コチシェフスキ氏は「ポーランドは選挙モードに入っている。政府は国境の問題を利用しようとしているように見える」と話し、来月の議会選挙を前に国の安全に取り組む姿勢をアピールするねらいがあると指摘します。

その一方、「『ハイブリッド攻撃』だけでは他国を侵略することはできないが、弱体化させることはできる」とも話し、ベラルーシ側の動きには対応する必要があると説明します。

そして、「大局的に国境地帯で起きていることは、ロシアがヨーロッパの中部と東部に突きつける脅威とみるべきだ。ロシアがウクライナにとどまらず活動を広げようとするならば、ベラルーシを利用する。ポーランドやバルト三国はそれを懸念している」と話し、NATO=北大西洋条約機構に加盟するポーランドなどとロシアの同盟国ベラルーシが国境を接するこの地域の情勢に注視する必要があると強調します。