米 サンフランシスコ オフィス空室率高く小売店も“集団脱出”

アメリカではコロナ禍の影響が長引き、オフィスの空室率がこの30年で最も高い水準になっています。主要都市の中で空室率が最も高いサンフランシスコの中心部では人流の低下に加え、治安の悪化も重なって、小売店が相次いで撤退し、「集団脱出」と呼ばれる事態が起きています。

オフィス空室率は31.6% 主要都市で最悪水準

不動産会社が今月12日に発表した報告によると、全米のオフィスの空室率は18.2%と、コロナ禍で定着した在宅勤務などの影響で、この30年で最も高い水準になっています。

西部カリフォルニア州のサンフランシスコでは、オフィスの空室率がコロナ禍前の2020年が4%だったのに対し、最新の数字は8倍近い31.6%になり、アメリカの主要都市で最悪の水準となっています。

こうした中、オフィスワーカーが減った街の中心部では小売店の撤退が相次ぎ、町の一等地や大通り沿いも空き店舗だらけになっています。

地元メディア「サンフランシスコ・クロニクル」によりますと、中心部のある地域では営業している小売店が2019年に203店舗だったのに対し、2023年5月には107店舗に減少したということです。

先月27日には、ショッピングモールで35年間営業してきた大型デパートの旗艦店も閉店し、アメリカのメディアがサンフランシスコの状況について、小売店の「集団脱出」と呼ぶ事態となっています。

アメリカの不動産サービス大手CBREのアナリスト、コリン・ヤスコウチさんは「オフィスワーカーが以前のように職場に戻っておらず、中心部の小売業は顧客の激減で営業の継続が難しくなっている。また、犯罪の増加やその他、多くのことが街に影響を及ぼしている」と指摘しています。

テック企業が集積 大半の従業員は在宅勤務に

ヤスコウチさんはテック企業が集積する街の特殊事情を指摘します。

「従業員のリモートワークに最も積極的で、従業員の大半を在宅勤務に送り出したのはテック企業だ。テック企業の多くは自宅からでも仕事ができるよう商品やサービスを開発してきた当事者で、『このようなライフスタイルが可能だ』と宣伝することに利益を見いだしている」

ヤスコウチさんは、テック企業がリモートワークからオフィスへの出勤に大きくかじを切ることは考えにくいという見方を示しました。

そのうえで、「従業員がオフィスに来て共同作業をしないことで生産性やイノベーション、企業文化が損なわれていることに多くの企業は気付いている。オフィスに戻ってくる人は増え始めている。この傾向は今後も続くと思うが、おそらくゆっくりと時間がかかるだろう」と指摘しました。

治安悪化で小売店の撤退に拍車

小売店の撤退に拍車をかけているとされるのが治安の悪化と窃盗被害です。

家賃の高騰が主な原因でカリフォルニア州はホームレスが増え続け、政府の統計ではアメリカ全体の30%が集中しています。

サンフランシスコの中心部では歩道にテントが張られて、ホームレスが暮らしている光景や薬物中毒者とみられる人が地面に突っ伏していたり、声を上げていたりする姿が、人通りの多い通りからあまり離れていない場所でも少なからず見られます。

また、非営利のシンクタンク「カリフォルニア公共政策研究所」が今月発表した分析によりますと、サンフランシスコ周辺では人口当たりの商業施設での万引きや強盗の件数が、この数年で大幅に増えています。

カリフォルニア州では州の法律で、盗んだものが950ドル相当、日本円でおよそ13万9000円相当以下の場合は軽犯罪に分類されることになっていて、犯罪を助長しているという批判も出ています。

サンフランシスコで80年以上続く、家族経営の雑貨店では万引きが恒常的に起きていて、一日に5人が商品をとっていったこともあるということです。

このため、店では多数の監視カメラを店内に設置し、不審な客がいないか監視を続けています。

また、店の入り口に従業員を配置して、入ってくる人にさりげなく声をかけて、万引きの抑制を試みているということです。

取材中も大きな酒の瓶とふとんを持ったホームレスとみられる男性が、店に入ろうとする様子が見られました。

店主のテリー・ベネットさんは「小売業は1ドルの商品から1セントの利益しか出ないので、商品を一つ盗まれたら100倍売らなければ取り返せず、心が折れます」としたうえで、小売店の撤退が続いていることについては「私は地域のために商売をしています。万引きを恐れて商売のしかたを変えるということは考えられません」と話していました。

にぎわい回復目指し遊園地設置も

サンフランシスコ市は中心部のイメージアップやにぎわいの回復を目指して、先月24日から3日間、薬物の売買が頻繁に行われていた広場に移動式の遊園地を設置しました。

初日にはブリード市長みずから広場を訪れ、地域の子どもたちとアトラクションを楽しんでアピールしました。

ブリード市長は中心部の再生のために、こうした公共スペースの活用に加えて、新しいビジネスに対する優遇策などの支援や警備体制の強化、建物の用途に柔軟性を持たせ、オフィスビルを住居用のビルに変えるなどの施策を打ち出しています。