米バイデン政権 動静不明の中国国防相 解任と結論か 英経済紙

中国の李尚福国防相の動静がおよそ2週間、伝えられていない中、イギリスの経済紙は、アメリカのバイデン政権は李氏が解任され、中国当局の調査を受けていると結論づけたと報じました。

中国の李尚福国防相をめぐっては先月29日に北京で開かれた「中国アフリカ平和安全フォーラム」で演説したと発表されたのを最後に、およそ2週間、動静が伝えられていません。

こうした中、イギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズは14日、複数のアメリカ政府当局者や関係者の話として、バイデン政権は李氏が国防相を解任され、中国当局の調査を受けていると結論づけたと伝えました。

アメリカ政府の当局者らはバイデン政権が、李氏が調査を受けていると結論づけた理由については、明らかにしなかったとしています。

李氏は有人宇宙飛行プロジェクトの総指揮や中国軍で兵器の調達などを担当する装備発展部長を歴任し、習近平国家主席の信頼も厚いとみられていてことし3月に国防相に任命されたばかりです。

中国では、外相を務めていた秦剛氏が1か月にわたって動静が公表されないまま、7月になって就任から半年余りで解任されています。

また、汚職の疑惑が取り沙汰された中国軍の幹部らも相次いで交代していることから、李氏が汚職などで調査されている可能性があると、臆測が広がっています。

米駐日大使『何かが怪しい』

アメリカのエマニュエル駐日大使は自身のSNSで、中国の李尚福国防相が予定されていたベトナム訪問に姿を現さず、シンガポール海軍総司令官との会談も欠席していると指摘しました。

その理由について、エマニュエル大使は「自宅軟禁のせいだろうか」としたうえで「シェイクスピアが『ハムレット』で書いたように『何かが怪しい』」と投稿し、李国防相の動静に高い関心を示しています。

中国外務省報道官「状況を承知していない」

李尚福国防相の動静がおよそ2週間伝えられず、中国当局の調査を受けていると報じられたことについて、中国外務省の毛寧報道官は15日の記者会見で、「状況を承知していない」と述べ、言及を避けました。

中国 李尚福国防相とは

李尚福氏は、65歳。
中国軍に入隊後、有人宇宙飛行プロジェクトの総指揮や、兵器の調達などを担当する部門のトップを歴任し、去年10月、中国軍を統括する「中央軍事委員会」の委員に就任しました。

ことし3月には国防相に就任するとともに、副首相級の国務委員にも選ばれ、習近平国家主席の信頼が厚いとみられています。

李氏をめぐっては、アメリカ政府が、ロシアからの兵器の調達にかかわったとして2018年から制裁対象にしています。

中国側はこれに反発してアメリカの国防長官との会談を拒否していて、李氏が国防相に就任して以降、米中の間で正式な国防相会談が行われない事態となっていました。

相次ぐ政府や軍高官の突如解任や交代

中国の習近平指導部では、このところ政府や軍の高官が、突如、解任されたり、交代したりするケースが相次いでいます。

このうち、習主席の信頼を得て、近い関係にあるとみられていた秦剛前外相は、1か月にわたって動静が公表されない状態が続いたあと、7月25日に解任されました。

就任から半年余りでの解任は極めて異例で、香港のテレビ局のキャスターの女性との関係や、駐米大使を務めた際のアメリカとの関係を問題視され、調査を受けているといった、さまざまな臆測が広がりましたが、解任の理由は明らかにされていません。

さらに、中国軍では、その6日後の7月31日に、核ミサイルを運用する「ロケット軍」のトップの人事が発表され、2人が同時に交代することになりました。

同時の交代は異例で、香港メディアは、2人が汚職などを摘発する部門の調査を受けていると伝えています。

中国国防省の報道官は、8月31日の会見で「中国軍は、腐敗問題は一切、容赦しない。事案があれば必ず調査し処罰する」と述べ、汚職に厳しく臨む姿勢を強調していました。

こうした中、李国防相の動静がおよそ2週間伝えられず、当局の調査を受けている可能性があるという臆測が広がっていました。

専門家「忠誠誓わないと消されるというメッセージ」

中国の習近平指導部で、このところ政府や軍の高官が、突如、解任されたり、交代したりするケースが相次いでいることについて、中国の政治や社会に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は「汚職に絡んだ更迭なのか、政治的意図があるのか、現時点では分からないが、異常な事態だ」と指摘しました。

そして、7月に外相を解任された秦剛氏も、李尚福国防相も習近平国家主席に取り立てられて昇進したという見方を示した上で「これだけ気に入られて出世した人物でも突然解任されるということは、忠誠を誓わないと突然消されるという、非常に強烈なメッセージになる。組織を統制する上で威嚇効果はかなりある」と述べ共産党や中国政府の高官らへの心理的な効果が大きいという見方を示しました。

さらに、興梠教授は「習近平体制になって、権力が集中すればするほど政策のぶれが大きく、予測可能性や透明性が下がっている。これは明らかに新しい懸念材料だ」と述べ、政治だけでなく経済面でも新たなリスクになっているという見方を示しました。