ユニーク研究などに贈られる「イグ・ノーベル賞」で日本人受賞

ノーベル賞のパロディーで、ユニークな研究などに贈られる「イグ・ノーベル賞」の受賞者が発表され、ことしは微弱な電気が流れる箸などを使って食べ物の味の感じ方を変える実験を行った明治大学などの研究チームが「栄養学賞」を受賞しました。
日本人の受賞は17年連続です。

「イグ・ノーベル賞」は、1991年にノーベル賞のパロディーとしてアメリカの科学雑誌が始めた賞で、人を笑わせつつ考えさせる研究に贈られます。

日本時間の15日、ことしの受賞者が発表され、明治大学の宮下芳明教授と東京大学の中村裕美特任准教授が「栄養学賞」を受賞しました。

2人はおよそ10年前、電気の刺激を舌に与えると味覚がどのように変わるか、調べようと、微弱な電気が流れる箸やストローを開発しました。

これを使って味覚の変化を調べて発表し、その後、塩味が増強されたように感じられるというスプーンなどの開発にもつながったということです。

主催者は授賞理由として、「電気が流れる箸やストローが味覚をどのくらい変えることができるのか、実験で確かめた」としています。

日本人の受賞はこれで17年連続です。

このほか9つの分野でも受賞者が発表されこのうち、
▽利用者の健康状態を素早く分析できるトイレを開発した、アメリカの研究者が「公衆衛生学賞」を
▽鼻毛の本数が左右で同じかどうか確かめた、アメリカなどの研究チームが「医学賞」をそれぞれ受賞しました。

ことしの「イグ・ノーベル賞」の栄養学賞を受賞した明治大学の宮下芳明教授と東京大学の中村裕美特任准教授の2人は、微弱な電気を発生させる箸やストローなどを使うと味覚を増幅させられると提唱し、2011年に論文として発表しました。

私たちが食べ物の味を感じるのは、舌にある細胞が甘みや塩辛さなどを感知するセンサーとして働き、脳に刺激を伝えているためです。

舌に直接電気を流しても味を感じることができ、これは「電気味覚」として以前から知られていましたが、2人はこれを応用して食べるときに使うと微弱な電気が流れる箸やストロー、それにフォークなどを製作し、食べ物の味がどのように増幅されるかを調べる実験を行いました。

宮下教授 「『食の未来が変わる』という気持ち」

今回、こうした一連の研究が評価され、「イグ・ノーベル賞」を受賞したことについて宮下教授は「今回の受賞をとても光栄に思います」と喜びを語ったうえで、「研究成果はどれもそうだと思いますが、未来を変える力があると思っていて、論文を書いたときは『これで食の未来が変わる』という気持ちがありました」と振り返りました。

そして「本当に変わるかどうかは多くの人が価値を認めてくれて、注目される必要があり、そうでないと新しい発見やアイデアは埋もれてしまいます。今回の受賞はこの技術の可能性について考える人たちを増やす契機になるのでありがたいと思います」と話していました。

2011年に論文を発表したあと、宮下教授は去年、大手ビールメーカーのキリンホールディングスとともに微弱な電気を発生させるスプーンやおわんを共同で開発し、発表しています。

このスプーンやおわんを使うと▼微弱な電気で舌が刺激され味を感じることに加えて、▼スプーンなどから食品に伝わる電気刺激で、食品に含まれる塩味のもととなるイオンの動きが変わり、塩味が増強されたように感じられるということです。

健康管理のために無理せず料理に使う塩分の量を減らすことにもつながると期待されていて、改良を加えたうえで早ければ年内にも販売が開始される見通しです。

宮下教授は「減塩に役に立つだけでなく、それ以外のアプローチや応用も考えられるので、新しい用途の開拓を積極的にやりたいです」と今後の抱負を述べていました。

受賞した2人は

ことしのイグ・ノーベル賞を受賞した明治大学の宮下芳明教授はオンラインで行われた授賞式で「皆さんは電池をなめようとしたことはありますか」と尋ねたあと、「私たちの研究はそういった体験からスタートしました。塩分を抑えた食べ物は健康にはいいのですが、必ずしもおいしいとは限りません。私たちの技術で、より塩味を感じるようにすることができます」と話していました。

続いて、東京大学の中村裕美特任准教授は「私たちの手法は食べる体験の充実と健康のバランスをとる一助になると思います。というのも、電気を使って味覚を変えても栄養成分は何も変わらないからです」と話していました。

イグ・ノーベル賞受賞は10分野

イグ・ノーベル賞を受賞したのは、あわせて10の分野です。

このうち「文学賞」では、1つの単語を何度も何度も繰り返して言い続けたとき、知っているはずの単語が急に知らないもののように感じられる現象について、研究した業績で、フランスなどの研究チームが受賞しました。

また「心理学賞」では、街で上を見上げている人が何人かいたとき、そばを通る人がどれくらい、つられて見上げるかを調べる実験を行ったアメリカの研究チームが受賞しました。

ほかにも、なぜ一部の研究者が岩石を好んで「なめる」のかを説明した「化学および地質学賞」などユニークな研究が受賞しています。