リビア洪水 道路寸断などで被害全容わからず 救助や支援に課題

北アフリカのリビアで発生した洪水で地元のメディアは5000人以上が死亡し、数千人の行方が分かっていないと伝えています。被災した地域では道路が寸断されるなどしていて被害の全容はわかっておらず、救助や支援の活動をどのように行き渡らせるかが大きな課題となっています。

リビア東部では、大雨による洪水で大きな被害がでていて、東部の都市、デルナではダムの決壊もあり、広い範囲が水につかり、多くの建物が壊れたり流されたりしました。

地元メディアなどは、国の東部を統治している政府幹部の話として、5000人以上が死亡し、数千人の行方が分からないままだと伝えています。

また、国連は、デルナで少なくとも3万人が住まいを追われたと推計していますが、被害の全容は依然、わかっていません。

こうした中、被災した地域に向けてリビア国内や周辺のアラブ諸国などから医療物資や支援物資などが送られていますが、地元メディアによりますと、デルナなどでは道路が寸断していて、物資を行き渡らせることも難しい状態だということです。

また、デルナの住民によりますと、被害が大きかった市街地では、依然、がれきの下に多くの人が取り残されていて、重機なども流されているため、がれきの撤去や捜索は難航しているということです。

リビアでは国が東西に分裂し、長く混乱が続いていて、インフラも大きな被害を受ける中、救助や支援の活動を被災地にどのように行き渡らせるかが大きな課題となっています。

東部 デルナ 少なくとも3万人が住まい追われたか

リビア東部のデルナについて、IOM=国際移住機関は、市の人口の15%ほどにあたる少なくとも3万人が住まいを追われたと推計しています。

また、OCHA=国連人道問題調整事務所は、デルナに続く道路の多くが通行できなくなるなど、インフラにも大きな被害がでているとして、「人道物資の提供や捜索・救助活動といった、すべての災害対応に大きな困難をもたらしている」と指摘しています。

さらに、「被災地では、正確で信頼できるデータが不足し、大きな課題となっている」として、人道支援の調整や活動の厳しい現状を指摘しています。

専門家 “短時間で氾濫「フラッシュフラッド」の可能性”

北アフリカのリビアで起きた洪水被害について、現地の治水対策に詳しい京都大学の角哲也教授は、乾燥地帯特有の干上がった川に大量の雨水が集中し、短い時間で氾濫に至る「フラッシュフラッド」という現象が発生した可能性があると指摘しています。

北アフリカのリビアでは、東部の都市デルナの上流にある2つのダムが大雨の影響で相次いで決壊し、大量の水が市街地に流れ込んで深刻な被害が出ています。

「フラッシュフラッド」要因は

「フラッシュフラッド」が起きた要因として、角教授が挙げているのが、
▽記録的な大雨と、
▽乾燥地帯特有の干上がった川です。

このうち大雨については、公開されているデータから、わずか1日で年間の降水量に匹敵するか、それを上回る量の雨が降ったとみられるということです。

もう1つの、乾燥地帯特有の干上がった川は、「ワジ」と呼ばれています。

「ワジ」は、雨が降ったときに川になりますが、岩が多いため、水が地中にあまりしみこまず急激に水位が上昇します。

こうして「ワジ」で「フラッシュフラッド」が発生し、ダムの決壊につながったとみられています。

ダムの構造も影響か

さらに、角教授はダムの構造にも特徴があったと指摘しています。

2つのダムは、粘土の壁の周りを土や岩で固めて造られていて、こうしたダムでは、あふれると土や岩が水の力で削られるため、決壊しやすいということです。

ダムには、水があふれないよう放流する装置があったものの、今回は、雨の量がダムの能力を超えていたとみられています。

市街地周辺でも「フラッシュフラッド」発生か

2つのダムの決壊で大量の水が流れ下ったことで、角教授は、市街地が広がる「ワジ」の下流でも「フラッシュフラッド」が起きたとみています。

乾燥地帯では、市街地が地下水の流れる「ワジ」の周囲に形成されやすく、角教授は、こうしたことも被害の拡大につながった原因の1つだとしています。

「日本は技術的な貢献できるのでは」

今回の被害を受けて、角教授は「温暖化によって、乾燥地帯で想定を超える雨が降り被害が出るケースが増えているため、ダムの設計基準や、『ワジ』の洪水対策などを見直していく必要がある」と指摘しています。

そのうえで、「毎年のように洪水を経験している日本は、さまざまなノウハウを持っているため、技術的な貢献ができるのではないか」と話しています。

松野官房長官「必要な支援検討」

松野官房長官は午後の記者会見で「日本政府として、お亡くなりになられた方々や、ご家族に心からの哀悼の意を表し、負傷者の方々にお見舞い申し上げる。現時点までに邦人の生命・身体に被害が及んでいるという情報には接していないが、在留邦人の安全確保に万全を期すとともに、リビア側のニーズを踏まえて必要な支援を検討していきたい」と述べました。

デルナでは2200棟余が浸水か

国連の衛星センターは、リビア東部のデルナの上空から撮影した衛星画像をもとに、洪水の被害の範囲について調査を行い、デルナでは2200棟余りが浸水したと分析しています。

浸水は決壊したダムから市の中心部を含めて330ヘクタールに及んでいて市内の5か所の橋や、地中海に面した港も被害を受けたとみられるということです。

東西分裂続くリビア

北アフリカのリビアは、民主化運動「アラブの春」をきっかけに2011年に40年以上続いた独裁的なカダフィ政権が崩壊しました。

しかし、その後国は東西で分裂し、西部の首都トリポリを拠点とする暫定政府と、東部の軍事組織との間で内戦状態となりました。

2020年に国連などの仲介で停戦が実現したものの、その後も東西の分裂状態は解消されず、混乱が続いています。

今回の洪水で大きな被害がでているデルナなどは東部を統治する勢力の支配下にある地域です。

洪水の被害を受けて、西部の暫定政府の首相は、東部の主要都市ベンガジに医薬品などの支援物資の輸送や医療関係者の派遣を行ったとSNSで明らかにしています。

国連や各国による支援始まる

大雨による洪水で大きな被害が出ているリビアでは、国連や各国による支援が始まっています。

WFP=世界食糧計画は13日、東部のベンガジで数百世帯に対して砂糖や小麦、食用油などの配給を開始したほか、今後、ほかの地域も含めて5000世帯以上への支援を予定していると発表しました。

また、ロイター通信は13日、デルナの市長の話として、エジプト、チュニジア、UAE=アラブ首長国連邦、トルコ、それにカタールからの救助隊がすでに到着し、活動を開始したと伝えています。

このうちトルコの医療チームは、デルナに救護用のテントを設け、けがをした住民が次々と訪れていて、傷口の手当てなどを行っていました。

また、EU=ヨーロッパ連合は13日人道支援として50万ユーロ、日本円にしておよそ7900万円を拠出すると発表したほか、ドイツ、ルーマニア、フィンランドが発電機80台や、テント、毛布などの提供を表明しているということです。

このうち、ドイツでは寝袋や毛布など多くの支援物資が輸送拠点に集められ、今後、航空機などで被災地に届けられるということです。