高濃度のPFAS検出各地で 広がる健康への不安

一部の物質で有害性が指摘されている有機フッ素化合物・PFAS。
このところ、国内各地で国が設けた「暫定目標値」を超える濃度のPFASが相次いで検出されています。

ただ、国内ではまだ健康影響について十分な知見がないとされ、環境省は来年度から健康への影響について研究を本格化する方針です。
各地で何が起きているのか?どんな対策が考えられているのか?最新情報をまとめました。

PFASとは 健康影響わかっていることは

PFASとは1万種類以上ある有機フッ素化合物の総称です。水や油をはじき熱にも強いことから、フライパンや食品の包み紙など身近なものに使われてきました。
しかし、一部は分解されにくく、体に蓄積されることから有害性が指摘されていて、中でもPFOSとPFOAという2つの物質は、現在、国内で製造禁止となっています。

アメリカの学術機関は、PFASの血中濃度が高いほど、脂質異常症、腎臓がん、子どもの発育の低下、抗体反応の低下につながるおそれがあるとして注意を呼びかけています。

一方、国は、日本国内ではPFASによる健康影響について「確定的な知見がない」という立場です。このため来年度から、神経発達や生殖、免疫系への影響や発がん性などについて、本格的な研究を進める方針です。

濃度の基準はどうなっている?

健康への影響がはっきり分からない中、米軍基地周辺などで相次いで高い濃度で検出される事案が相次いだことから、環境省は2020年、河川や地下水など環境中に漏れ出したPFASの濃度について、PFOSとPFOAを合わせて1リットルあたり50ナノグラムという「暫定目標値」を設けました。

動物実験の結果から、体重50キロの人が生涯にわたって毎日2リットルの水を飲んでも悪影響がない水準だとしています。

一方、アメリカの環境保護局はことし3月、PFOSとPFOAの基準値をいずれも1リットルあたり4ナノグラムとする基準値の案を公表しています。日本政府も暫定目標値の取り扱いについて専門家による検討を進めています。

各地で相次ぐ 新たな“基準超え”

国や自治体による調査も進められ、ことし1月までに全国の139地点で暫定目標値を超える値が検出されました。
これらの地点をまとめたマップはこちらからご覧いただけます。

米軍基地で使われていた泡消火剤に含まれたり、工場で使われたりしていたPFASが流れ出たとみられる地点がもありますが、ほとんどは原因が特定されていません。
そして2023年1月以降も、各地で新たに高濃度のPFASの存在が明らかになる事例が相次いでいます。

「地下水の街」 熊本でも

地下水が豊富で、水道水のすべてを地下水源でまかなっている熊本市。一部の市民は井戸水を飲み水として使っています。
そうした中、昨年度、市内の39の井戸の水質を調査した結果、2か所から暫定目標値を超えるPFOSとPFOAが検出されました。

熊本市の地図

このため、2023年4月以降、この2か所の半径500メートルの範囲でさらに調査を行うなどした結果、7月末までに、調査対象となった211か所のうち30か所の井戸で、PFASの濃度が暫定目標値を超えたのです。

一方、水道水は暫定目標値を下回っていて、市はこれまでに健康被害があったという情報は寄せられていないとしています。市は発生源を特定するため、過去の住宅地図や航空写真を調べたり、周辺住民に聴き取りを行ったりしてきましたが、これまでのところ、発生源となる場所や原因に結びつく状況などは確認できていないということです。

熊本市環境推進部・永田努部長

「一部の市民が飲み水としている井戸で基準を超えたことは地下水都市の熊本市にとって非常に大きな問題だと考えています。市民からの相談で一番多いのは『地下水を飲むとどのような影響があるのか』というものだ。健康への影響は分かっていないので、基準を超えた井戸水はできるだけ飲まず、水道に切り替えるようお願いしています」

「孫に飲ませられない」井戸水使ってきた住民は

健康に影響は出ないのか、不安を感じている住民もいます。

熊本市で暮らす緒方孝典さん(66)と文子さん(65)夫婦です。
孝典さんは生まれた時から、文子さんは結婚してから数十年間、自宅近くの井戸から引いている水を飲料水などに利用してきました。

ところが、その井戸で暫定目標値の2倍以上を超えるPFASが検出。
市からは飲み水として使わないよう伝えられました。

そのため、いまは2日に1度、スーパーに水を買いに行っています。
飲み水としてだけでなく、米を炊くなど料理にも使っていて、娘や孫が来るときには、多い日で1日10リットルが必要になるときもあるそうです。

(緒方孝典さん)
「50年、60年と飲み続けてきたのに、いまさら飲むなと言われても戸惑ってしまいます。ただ、孫や子どものことを考えると井戸水を飲ませるわけにはいきません。上水道に切り替えることもできるのですが、経済的な負担もあるので悩ましい問題です」

水道水で基準超え 学校に浄水器も

一方、水道水からPFASが検出され、対応を迫られているのが岐阜県各務原市です。
市は、2020年11月以降の検査で、水道水を供給する水源地で、1リットルあたり最大130ナノグラムのPFOSとPFOAが検出されたことをことし7月に公表しました。県から指導を受け、公表を決めたということで、市は「義務ではなかったが、すぐに公表しなかったのは認識不足だった」としています。

この水源地は市民の半数、約7万2000人に水道水を供給しています。
市の公表後、住民からは自宅の水道水の水源地を尋ねる質問や健康影響などに関する問い合わせが1か月で約1000件寄せられ、不安が広がりました。

供給エリア内の家庭などからの要望を受け、小中学校、それに保育所など約50施設では、夏休みの間に一部の水道の蛇口に浄水器が取り付けられました。
浄水器の設置後、濃度は1リットルあたり5ナノグラム未満と、国の基準を大きく下回ったということです。

夏休みが明けた2023年8月28日、市内の小学校では、養護教諭がオンラインでの全校集会で「水道の水を飲むのが不安だったり、心配だったりする場合は浄水器の水を飲んでください」と児童に呼びかけました。

また市は、水源地そのものへの対策も行っています。8月から「曝気槽」と呼ばれる施設で、PFASを取り除くための活性炭の設置を始めました。

設置後の水質検査では濃度は暫定目標値の10分の1まで下がったということで、今後、効果がきちんと確認できれば、年内にも対策を行った水の供給を始める方針です。

高濃度のPFASが検出された原因について、市は「不明」としています。ただ、水源地の東側には航空自衛隊の基地があり、かつて泡消火剤を保有していたということで、市が基地内の井戸について検査を進めています。

対策は始まったものの、7万人あまりに暫定目標値を超える濃度の水道水が供給されている状態はいまも続いています。住民からは、早急な対策を求める声が上がっています。

(80代住民)「何十年もここに住んでずっと水を飲んでいますが、もっと早くわかっていれば、対処のしかたがあったかもしれません。安心して飲める水にしてほしいです」
(50代住民)「長年、飲んでいたと思うとすごくショックです。対策が講じられても、不安は完全には拭えないと思います」

不安解消へ 求められる対策

各地で基準を超えるPFASが検出され、不安が広がる中、国には何が求められるのか。
環境省の専門家会議のメンバーで、北海道大学の松井佳彦名誉教授は、こう指摘します。

北海道大学 松井佳彦名誉教授

「日本ではようやく各地でPFASの濃度が把握されてきたのが現状で、まだまだ未測定のところがある。まずはしっかり調査をして、濃度の高いところはすみやかに適切な処理を行うことが必要だ。できることなら水源を変えるというのも一つの方策だと思うし、諸外国の研究事例も交えて、どのような処理技術がいいのか検討をさらに進める必要があるだろう」

汚染はどれだけ広がっているのか。その原因は何なのか。そして、健康にはどんな影響があるのか。

PFASをめぐってはまだまだ多くのことが分かっておらず、そのことが不安につながっています。そうした疑問を一つ一つ解消していくことが求められています。