“博士課程の学生に多様な進路を”就職の不安に応えるイベント

博士課程に進学する学生の減少傾向が続く中、文部科学省は博士課程の学生に多様な進路があることを知ってもらおうと、さまざまな企業が参加した初めてのイベントを13日に都内で開催しました。

文科省 “博士が少しでも活躍できる社会を”

文部科学省によりますと、博士課程に進学する学生の割合はおよそ40年で半分近くに落ちこんでいて、進学を敬遠する理由の1つに就職への不安があるということです。

文部科学省では、博士号を取得した人材を求めている企業から学生が直接話を聞くことで、研究者以外にも多様な進路があることを理解してもらおうと、13日、初めてのイベントを東京・千代田区で開催し、製薬や化学などメーカーのほか、IT企業などおよそ30社が集まりました。

このなかで、分析機器メーカーの担当者は、博士号を持つ人は専門性に加えて、研究の中で開拓する能力を培ってきていると説明し、「プロジェクトの主役として欠かせない」とアピールしました。

またIT企業は、AI・人工知能の研究開発を進めていることを紹介し、月額50万円を支給するインターンを実施するなど博士人材の採用に意欲があることを説明しました。

参加した大学院生
研究者という道しかないと思っていたため、選択肢を多く知り視野が広がった。自分の能力が社会にどう生かせるか考えながら日々研究したい。

文部科学省 對崎真楠課長補佐
博士号を取得した人が徐々に多様な分野で活躍するよう変化しているが、学生や企業からはまだ見えていない面が多いので博士が少しでも活躍できる社会をつくっていきたい。

博士課程の学生 “就職・将来に不安”

13日のイベントに参加した博士課程の学生の1人は、就職や将来への不安について率直に話してくれました。

大阪大学大学院の朝山 晃さんは薬学研究科の博士課程2年生で、ゲノム編集の研究をしています。

同じ科の7割以上が修士課程修了後に就職しましたが、朝山さんは専門性を深めることに加え、海外の研究者と交流する経験などを増やしたいと、博士課程への進学を決めました。

しかし、博士課程の2年となって就職活動を始めたところ、博士課程と修士課程の学生を同じ採用枠で募集している企業もあって、企業側が博士号への評価をどのように考えているのか疑問に感じているといいます。

朝山さんは、「博士課程の学生に特化した採用募集があるのは研究職ばかりで、進学したことがかえって自分の可能性を狭めてしまっているのではないかと不安になる。博士が活躍できるフィールドがもっとあってほしい」と話しています。

その上で、「修士で卒業した同級生はさまざまな分野に就職していて経済的なリターンも大きく、そうした先輩の姿を見ると、博士課程に進学するとキャリアが狭まるので進学する必要がないと判断してしまう後輩も多い」と実情を明かしてくれました。

13日のイベントで朝山さんは、企業や国の担当者を前に、研究の詳しい内容だけでなく博士課程で学んだ学生を採用する魅力を伝えました。

朝山さんは、「想像以上に国や多くの企業が博士課程の学生に期待していると実感し、今がまさに転換期だと感じた。さらに多くの企業が博士人材をどう活用できるか考えるきっかけになってほしい」と話していました。

専門家 “博士号は問題解決できる能力の証し”

各国の科学技術政策に詳しい政策研究大学院大学の永野 博 客員研究員は、博士課程の学生が就職への不安を抱える背景について、「これまで多くの大学院では、教授の研究を引き継ぐ研究者を育てるという観点に重点が置かれてきたため、企業側としても、すぐに企業で働ける人材ではないと考えられる事が多かった」と指摘しています。

その上で、「海外で博士号は、自ら考え、問題を解決できる能力の証しと考えられている。博士課程の人材がどのように活躍できるのか、大学と経済界、政府がもっと考えていかなければならない」と話しています。