8月に新発見の「西村彗星」太陽に最接近へ 観測できる?

先月静岡県のアマチュア天文家が新たに発見したすい星「西村彗星」が、日本時間の今月18日にかけて太陽に最も接近する見通しで、すい星の「尾」が伸びた状態で観測できる可能性があるとして注目を集めています。

太陽に最接近へ 観測できるか?

「西村彗星」は先月13日に静岡県掛川市のアマチュア天文家、西村栄男さん(74)が観測したもので、国際天文学連合に申請したところ新たなすい星として認定されました。

国立天文台によりますと、発見時は肉眼では見えない明るさでしたが、今月中旬にかけて太陽に近づく中で明るさを増していて、日本時間の18日には太陽に最も接近すると見込まれています。

接近に伴って、明け方や日の入り後の空にすい星の「尾」が伸びる様子が観測できる可能性があるということで、各地の愛好家が撮影を試みています。

田代貞さんが9月2日朝に撮影

ただ、高度が低く空が明るいため肉眼で見つけることは難しく、今月23日以降は望遠鏡や双眼鏡を使っても当分の間、日本からの観察はできなくなるということです。

国立天文台の担当者は「すい星の活動によっては見やすくなる場合もあり、カメラを適切な条件で設定すれば撮影できる可能性はあるので、得意な方はチャレンジしてみてほしい」としています。

「西村彗星」の特徴は

国立天文台によりますと、すい星は、本体の大きさが数キロメートルから数十キロメートルの小さな天体で、およそ8割が氷でできているということです。

「西村彗星」は太陽の周りをおよそ470年の周期で公転していると考えられていて、太陽に近づくとその熱で少しずつ溶けて崩壊しガスやちりと一緒に放出されることから、ぼんやりと淡い光に包まれるように見えます。

写真ではすい星に含まれるガスの成分が輝いて見えることから緑色っぽくうつることがあるということです。

今後の見通しは

「西村彗星」は今月9日から12日にかけては肉眼でも見える4.5等級から3.5等級の明るさになると想定されていますが、空に昇っても高度が低く、日の出のすぐ前や日の入りのすぐあとで空が薄明るい状態になるため、望遠鏡や双眼鏡を使っても観察が難しいこともあるということです。

その後、14日から23日にかけては、夕方の日の入り後わずかな時間に空の低い位置で観察できたり、写真に撮ることができたりする可能性があるということです。

発見者の西村さん すい星探しに捧げた60年

「人類がまだ見えていない、新しい星があるんじゃないか」

静岡県掛川市の西村栄男さん、74歳。

アマチュア天文家として、過去にも2つの新たなすい星を発見し、今回の発見で3度目となりました。

西村栄男さん(以下の画像は本人提供)

1947年生まれの西村さん。すい星探しの情熱は中学生の時に始まりました。

1963年、アマチュア天文家の池谷薫さんが新たなすい星を発見したという報道に触れ、学校の先生からもらった本からすい星を探す方法を学ぶと、天体観測の魅力にとりつかれました。

進学先の高校が決まっていたにもかかわらず、西村さんは当時の校長に対し、「星を観測したいから高校進学をやめて働きます」と宣言。西村さんの家では望遠鏡を買う経済的な余裕がなかったといいます。

驚いた校長や担任の教諭から諭されたものの決意は固く、結局進学はせずに就職。初任給をつぎ込んで望遠鏡の部品を購入し、自作した機材で天体観測に臨みました。

鳴り止まない目覚ましをかけながら

それから、JA掛川市の職員として働きながら、毎日のようにすい星を探し続けてきました。

仕事が終わり家に戻って眠ったかと思えば、夏場は午前1時に目を覚まし、晴れていればそのまま出かけて午前4時半ごろまで撮影しました。

若いときは鳴り止まない目覚ましを買って、眠い目をこすりながらも通い続けました。

しかし、新たなすい星は見つからず、それから30年の月日が過ぎました。

発見の瞬間は

最初の発見は1994年のことでした。

専用の双眼鏡で観測中に、新すい星を発見。

同じ時期に他の人も見つけたため、「中村・西村・マックホルツ彗星」と名付けられました。

まわりの人が活動を理解を示し、職場の人がサポートしてくれることも増えました。

「中村・西村・マックホルツ彗星」を記念する石碑

しかし、この頃から公的な機関によるすい星探索が活発化し、アマチュア天文家が新たな発見をするのが難しくなったといいます。

2000年以降は、突発的に現れる「新星」を31個見つけるなどしていましたが、すい星の発見には20年以上、縁がありませんでした。

2年前、ついに初めて単独で新たなすい星を発見しました。今までない感動があったといいます。

「次は一生かかっても見つからないだろうな」

だから、その日の朝は自分を疑いました。

2023年、8月13日午前3時43分。

雲の切れ間に緑がかったもやっとした天体が70ミリ弱のカメラレンズにうつり込んでいました。

画面中央の天体が新たに発見した「西村彗星」

「ちょっと明るすぎないか?本当に新しいのか?」

パソコンにあった過去の画像と比較してみると、以前にはない天体であることが分かりました。

国立天文台に報告し、世界中の観測者が確認観察を行ったところ、この天体が新すい星であることが認められました。

西村さんは取材に対し、こう語ってくれました。

「あの朝に観測していなかったら…とこれまでの日々を今思い返しています。と同時に、私は運がよかったし多くの人に支えられながらここまでやってきました。これからも宇宙も日々姿を変えます。これ以上すい星を見つけるのは難しいでしょうが、もう1個見つけるのが次の夢ですね」