都立高校 男女別定員の撤廃 “歓迎すべきも 遅かったのでは”

都立高校の男女別の定員が来年度の入試から撤廃されることについて、教育現場のジェンダーに詳しい専門家は「教育機会が均等ではなかった実態が是正されることは歓迎すべきだが、遅かったのではないか」と指摘しました。

教育現場のジェンダーについて研究してきた、日本女性学習財団の村松泰子 理事長は、都立高校の全日制の普通科の入試では男女別の定員が設けられ、女子がより高い点数をとらないと合格しにくい傾向にあったことについて「これまでは教育機会が男女で均等ではなく、女性のほうが不利となる実態もあった。都内の教育マーケットは複雑で、私立高校とのバランスを考えての対応だったとも言えるが、経済的な事情で都立にしか進学できない生徒は女子にもいるので、定員で差別するのは不平等だったと思います」と話していました。

そのうえで、都が来年度の入試から都立高校の男女別の定員についてすべて撤廃すると決めたことについては「対応が是正されることは歓迎しますが、遅かったのではないかという思いです。定員という枠組みそのものがようやく平等になるので、今後はさらに学校教育の中で男女の役割といった無意識の男女差別がないか点検していくなど、中身の部分で変革していく努力が求められると思います」と指摘していました。

男女別定員の背景は戦後から続く事情

全国の公立高校で唯一、全日制の普通科の入試で設けられていた都立高校の男女別の定員。

この仕組みが残っていた背景について、都の教育委員会は「東京ならではの事情がある」と説明しています。

都内では、現在およそ30万人いる高校生の半数以上を私立高校が受け入れていますが、そのうち3割は女子校です。

戦後、女子の教育の機会を保障しようと多くの女子校がつくられたことが主な理由です。

このため、私立高校の男子の枠は、女子より少ない状態になっていて都立高校の男女別定員がなくなり都立に入る女子が増えると、都立に入れなかった男子を私立が受け入れきれないおそれがあるとして、70年以上にわたって、この制度が残されてきました。

しかし、この制度では、仮に同じ点数をとっても、男子生徒が合格となる一方、女子生徒は不合格となるケースが相次ぎ、女子の合格最低点が男子より高くなっていて、「不平等だ」と指摘する声があがっていました。

これを受け、都の教育委員会は、男女別定員の撤廃に向けた議論を平成26年から本格的に始めました。

そして、おととしからは「一気に制度を変えると混乱が起きる可能性がある」として、段階的に男女合同の定員を導入していて、令和4年度の入試では都内すべての学校で定員の10%を男女合同の定員とし、令和5年度の入試では、定員の20%に拡大していました。

都教育委員会で、前回の入試をもとに男女合同の定員とした場合の結果を推計して合否を比較したところ、都立高校108校のうち92%に当たる99校で同じ結果になり、男女別定員を完全に撤廃した場合の影響は限定的だと分析しました。

一方で、残る9校では、最も差が大きい学校では、男女別定員の場合に比べて女子生徒の合格者は23人増えるとされ、男女の合格最低点の差も51点となるところもあり、女子生徒が依然として不利な立場になっているケースがあることが分かりました。

これらの分析の結果、都教育委員会は「なるべく早く対応する必要がある」として、来年度の入試からすべて撤廃することを決めたということです。