尖閣諸島 国有化から11年 中国の“北方配備船” 活発化

沖縄県の尖閣諸島が国有化されてから11年。
周辺の海域では中国海警局の船の航行が常態化しています。

NHKが船に搭載されたAIS=船舶自動識別装置が発信するデータを使って、海警局の船の動きを分析したところ、ここ数年、尖閣諸島の北側の海域での活動が大幅に増えていることがわかりました。

(社会部記者 山下達也)

尖閣諸島の北で活動する “北方配備船”

尖閣諸島周辺の海域では、去年、中国海警局の船が領海のすぐ外側にある接続水域を航行した日数が過去最多となりました。

さらに、接続水域のすぐ北側の海域でもここ数年、海警局の船の活動が確認されるケースが大幅に増えていることが関係者への取材でわかりました。

数年前までは活動が確認されない日もありましたが、このところ増えていて、ことしは4隻が同時に航行しているのが確認されたということです。

これらは接続水域を航行する船とは別で、すぐ北側まで近づいて活動するものの接続水域には入らないということで、海上保安庁内部では「北方配備船」と呼び、航行の目的を分析するとともに対応できる数の船を配備し、警戒を続けています。

複数の関係者によりますと「北方配備船」は、周辺を通る中国漁船の管理を通じて尖閣諸島付近での活動を増やしているとみられるほか、接続水域を航行する船をバックアップする目的もあるとみられるということです。

尖閣諸島の警備を担当する第11管区海上保安本部で、ことし3月まで本部長を務めた一條正浩さんは警戒が必要だと指摘します。

「何か意図があっての活動だと思うが、海上保安庁は惑わされず、いまの冷静な対応を継続していくことが必要だと思う。領海以外は航行自由なので国際法上の問題はないが、自分の家の前をうろうろしているような状態で警戒を怠ってはいけないと感じる」

尖閣諸島の北で何が起きているのか?

NHKは、船に搭載されたAIS=船舶自動識別装置が発信するデータを使って、中国海警局の船の動きを分析しました。

AISは、衝突事故の防止などのため、位置や速度の情報を自動的に電波で発信する装置で、通常、海上保安庁の船は警備業務などに支障が出るため作動させていません。

中国海警局の船もこれまで、日本のEEZ=排他的経済水域に入るとほぼ作動させていませんでしたがことし3月以降、尖閣諸島周辺で作動させ、位置情報などを発信するのが確認されていて、周辺海域での存在をアピールする狙いがあるとみられています。

今回、AISのデータを使って8月に尖閣諸島周辺の接続水域のすぐ北側と北西側を航行する中国海警局の船を確認しました。

※クリックすると動画が再生されます

分析では、付近を航行する海警局の10隻の船が発信した8月、1か月分の位置情報を地図上にプロット。

水色は海上保安庁が普段、発表している領海や接続水域に入った船で、色が濃く、接続水域での航行が常態化していることがわかります。

さらに、接続水域の北側と北西側にもオレンジ色などのプロットが多数あることがわかります。

これが、「北方配備船」と呼ばれる中国海警局の新たな動きだと見られます。こうした動きをしていた5隻にオレンジ色、赤色、黄色、茶色、ピンク色を付けました。

5隻は一貫して接続水域には入らず、水色の船とは別の動きをしていることが見て取れます。

オレンジ色に注目してみると、17日ごろに接続水域の北西側の海域に入ってしばらく航行したあと、19日ごろには北側の海域に入り、かなり頻繁に行き来しながら、時折、接続水域のラインに沿うように航行しています。

中国海警局の船“海警2101” 7月の動き

さらに、赤色の船は7月にも接続水域の北側の海域を頻繁に行き来するのが確認されました。

常態化する中国海警局の活動

尖閣諸島周辺の海域では中国海警局の船がほぼ毎日確認されています。

海上保安庁によりますと、接続水域で海警局の船などが確認されたのは国有化した2012年は91日でしたが、翌年の2013年には232日と大幅に増えました。

その後、一時的に減りましたが、2019年は282日、2020年は333日、去年は336日となり過去最多でした。

また、1回の領海侵入でとどまり続ける時間も増えていて、去年12月には72時間45分にわたったほか、ことし3月から4月にかけては、日本漁船の動きにあわせるように侵入し、その時間は80時間36分におよび、国有化以降、最長となりました。

海警局と向き合う現場の実態は?

第11管区海上保安本部の元本部長、一條さんに現場の実態を聞きました。

「本部長を務めているときは急激なエスカレートはなかったように感じていますが10年くらいの長いスパンで見たときには徐々に、少しずつ、エスカレートしているなと感じています。いまは大丈夫ですが、将来は、体制の強化、さらなる能力アップが必要だと思います。海保の現場は外交問題を解決する場ではないので、新たな外交問題を生じさせてはいけない、不測の事態が起きないよう私は現役時代、『引き分けキープ』という言葉を使いました。現状を維持するということです」

一條さんには現役時代、「脅威が増しているが海上保安庁は大丈夫か」という声がたびたび寄せられたということで、そのたびに高度な装備があり、その装備をフル活用できる海上保安官がいるなどと説明したうえで、「大丈夫ですから心配いりません」と伝えたということです。
そして、一條さんは沈着冷静に相手と向き合っていくことが大切だと指摘しました。

「何か技術的にこういう手法をとればいいということではなく、常に沈着冷静でいなければならないというところが現場の苦労だと思います。エスカレートするきっかけ、偶発的に何かが起きるきっかけを作ってはいけないというのがポイントで、予想外のことが起きた時のために、精神面での準備が大事になってくると思います」