プーチン大統領とキム総書記会談へ 武器をめぐり話し合いか

ロシアと北朝鮮はキム・ジョンウン(金正恩)総書記が近くロシアを訪問し、プーチン大統領と会談すると発表しました。ウクライナへの軍事侵攻が長期化するなか、ロシアとしては武器の供与について話し合うねらいもあるとみられます。

“キム総書記がロシア訪問のため専用列車で出発”北朝鮮機関紙

北朝鮮は、キム・ジョンウン総書記が10日午後、ロシアを訪問するため首都ピョンヤンを専用列車で出発したと、12日付けの朝鮮労働党機関紙「労働新聞」などを通じて発表しました。

キム総書記の外国訪問は、新型コロナウイルスの感染拡大以降、これが初めてです。

公開された写真では、赤いカーペットが敷かれた駅のプラットホームに儀じょう兵が整列し、黒い人民服姿のキム総書記が、チェ・ソニ外相らとともに緑色の車体の専用列車に乗り込む様子が確認できます。

具体的な日程などは明らかにされていませんが、専用列車は北朝鮮北東部の国境を越えてロシア極東のウラジオストクへ向かうとみられています。

ロシアと北朝鮮 近く首脳会談と発表

ロシアと北朝鮮は、キム・ジョンウン総書記がプーチン大統領の招きで近くロシアを訪問し会談を行うと11日、発表しました。

ロシア大統領府のペスコフ報道官は、首脳会談は、代表団を含めた形式以外にも通訳だけを交えた1対1の会談も行われるという見通しを示しました。

韓国メディアは韓国政府関係者の話として、キム総書記を乗せたとみられる専用列車がロシア極東のウラジオストクに向けて出発したと伝えています。

プーチン大統領は、国際経済会議の東方経済フォーラムに出席するため11日からウラジオストクを訪問していて、近く首脳会談が行われるものとみられます。

キム総書記のロシア訪問は、2019年4月以来、4年ぶりで、プーチン大統領との会談は2回目です。

ロシアとしては、ウクライナへの軍事侵攻が長期化するなか、武器の供与について話し合うねらいもあるとみられます。

一方、北朝鮮は、アメリカなどに対抗するため、中国と並ぶ後ろ盾のロシアとの結束を誇示するとともに、原子力潜水艦や軍事偵察衛星などを保有するために必要な軍事技術の支援を求めるという見方が出ています。

両国の関係 ウクライナ軍事侵攻後 一層強まる

両国の関係は、去年2月、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、一層強まっています。

北朝鮮は、侵攻が始まった直後、外務省の談話を通じてロシアを全面的に支持する立場を表明し、去年10月には、ロシアによるウクライナ東部や南部の4つの州の一方的な併合を支持する談話を発表しました。

ことしに入っても、1月にキム・ジョンウン総書記の妹、キム・ヨジョン(金与正)氏が談話でアメリカによるウクライナへの戦車の供与を非難したほか、先月には、キム総書記がプーチン大統領に対し「両国の団結が、新時代の要求に即して共同の偉業を成し遂げる上で常に必勝不敗であると固く確信する」とする祝電を送っていました。

一方、ロシアも北朝鮮の立場に理解を示す動きを強めます。

去年5月、北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイルの発射を受けて、国連の安全保障理事会で北朝鮮に対する制裁を強化する決議案の採決が行われました。ロシアは、中国とともに拒否権を行使し、決議案は否決されました。

北朝鮮に対する安保理の制裁決議は、2006年以降、採択が続けられてきましたが、拒否権によって否決されたのは、はじめてでした。

その後も、ロシアは中国とともに北朝鮮を擁護する姿勢を示し、安保理として一致した対応をとることができないなか、北朝鮮は、核・ミサイル開発に一段と拍車をかけています。

北朝鮮のミサイル ロシアから技術協力か

ウクライナ侵攻の長期化と、北朝鮮の核・ミサイル開発の加速化のなかで、懸念が強まっているのが、両国の軍事面での協力です。

ことし1月、アメリカ・ホワイトハウスは、北朝鮮が、ロシアの民間軍事会社ワグネルに対してウクライナで使用する兵器を提供していると非難した上で、兵器を積んだとする貨物列車を捉えた衛星写真を公開しました。

北朝鮮が7月に再び発射実験を行った固体燃料式の新型のICBM=大陸間弾道ミサイル級の「火星18型」をめぐっては、アメリカのシンクタンクが、ロシアのICBMと形状や軌道のデータが一致しているとしてロシアからの技術協力の可能性を指摘しています。

そして7月には、朝鮮戦争の休戦から70年の節目に合わせて、ロシアの代表団が中国とともに首都ピョンヤンを訪問し、キム総書記は代表団を率いたショイグ国防相と会談しました。

キム総書記は、ショイグ国防相と最新兵器の展示会を一緒に見て回ったほか、軍事パレードを並んで観覧するなど、厚遇ぶりが目立ちました。

北朝鮮を訪れたショイグ国防相について韓国の情報機関は今月、中国も加えた3か国による合同軍事演習を提案したという見方を示し、ショイグ国防相も今月4日、北朝鮮と合同の軍事演習を検討していると認めました。

ロシアの元外交官 武器売却が合意される可能性も示唆

北朝鮮のピョンヤンに駐在経験のあるロシアの元外交官でロシア科学アカデミー東洋学研究所のアレクサンドル・ボロンツォフ氏はNHKのインタビューに対し、ことし7月にショイグ国防相が北朝鮮を訪問した際に、キム総書記のロシアへの訪問を打診したのではないかと指摘したうえで、「ウクライナに対する特別軍事作戦の開始以来、北朝鮮はロシアへの断固たる支持を打ち出してくれている。ロシアはそれを高く評価していて、北朝鮮の重要性がとても大きくなった」という見方を示しました。

一方、北朝鮮については「ロシアとの対話をより高いレベルに引き上げる準備ができているという意図を示していた」と述べ、両国の間で首脳会談に向けた機運が高まっていたという見方を示しました。

そのうえで、首脳会談では、▽ロシアと北朝鮮の安全保障問題、▽欧米への制裁に対抗した2国間の経済協力などが主要な議題となるとの見方を示しましたが、ウクライナへの軍事侵攻を巡りプーチン大統領が北朝鮮に武器の売却を求めるのではないかとの指摘があることについては「多くの臆測はあるが、ロシアは要求していないというのが公式な立場だ」と明言を避けました。

ただ、先月中旬にアメリカ、ワシントン郊外にある大統領専用の山荘、キャンプ・デービッドで日本とアメリカ、韓国の首脳が会談を行ったことがロシアと北朝鮮への大きな圧力となった可能性があると指摘し「これまではやりたくなかったこともやらざるを得なくなった。合意してもおかしくない」として、会談で武器の売却が合意される可能性もあると示唆しました。

一方、ボロンツォフ氏は「北朝鮮は多くのものを必要としていて、ロシアは経済面で支援できるだろう」としてロシアとしては、見返りとして小麦などの食料を提供するという考えを示しました。

経済分野でも関係強化の可能性

北朝鮮はことしに入り、国境管理を厳しくした新型コロナウイルスの感染対策を段階的に緩和する中、今後、経済分野での関係も強化する可能性があります。

去年12月にはロシアから北朝鮮への石油の輸出が2年ぶりに再開したことが国連の統計で確認されたほか、先月にはピョンヤンとウラジオストクの間を結ぶ北朝鮮国営のコリョ(高麗)航空の臨時便が3年半ぶりに運航されました。

北朝鮮にあるロシア大使館は、今月7日、新型コロナの感染拡大で出国していた外交官らが戻ったと明らかにし、北朝鮮との外交活動を本格化するとみられます。

ロシア報道官「敬意を表し公式な食事会も予定」

ロシア大統領府のペスコフ報道官は日本時間の12日未明、国営ロシアテレビの記者がSNSに投稿した動画の中で「近日中に行われるだろう。敬意を表し公式な食事会も予定されている」と明らかにしました。

そのうえで「北朝鮮は隣国でありわれわれは良好で互恵的な関係を築く義務があるだろう」と述べ、両首脳が2国間関係の強化について話し合うという見通しを示しました。

米「武器供与 国連安保理の複数の決議に違反」

アメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議の報道官は11日、声明で「北朝鮮のキム・ジョンウン総書記によるロシアへの訪問中に、両国の間で武器の供与についての協議が行われるとみられる。北朝鮮はこれまで、ロシアに武器を供与しないと公言しており、アメリカは北朝鮮が約束を守るよう求める」とけん制しました。

また、国務省のミラー報道官は記者会見で「北朝鮮からロシアに対するいかなる武器の供与も国連安全保障理事会の複数の決議に違反する」と強調したうえで、新たな制裁も辞さない考えを示しました。

さらに国防総省のライダー報道官は記者団に対し「キム総書記がロシアに向けて出発したという情報を得ている」と述べたうえで会談を注視していく姿勢を強調しました。