同性カップル 扶養手当めぐる裁判 “規定に含まれず”札幌地裁

異性どうしの事実婚のカップルにも支給される扶養手当などが、同性であることを理由に認められなかったのは、法の下の平等を定めた憲法に違反するとして、北海道の元職員が道などに賠償を求めた裁判の判決で、札幌地方裁判所は「道などの規定では事実婚に同性間の関係は含まれない」などとして訴えを退けました。憲法に違反するかどうかは判断しませんでした。

札幌市に住む北海道の元職員佐々木カヲルさん(54)は、性的マイノリティーのカップルを事実上、公的に認める札幌市の「パートナーシップ宣言制度」も利用したうえ、同性のパートナーと一緒に暮らしていて、道の職員だった5年前、扶養手当の支給などを道と地方職員共済組合に申請しましたが、同性どうしであることを理由に認められませんでした。

佐々木さんは、異性どうしの事実婚のカップルにも手当が支給されており、法の下の平等を定めた憲法に違反するとして、道と組合に賠償を求めていました。

11日の判決で、札幌地方裁判所の右田晃一 裁判長は「同性どうしの関係への社会的な理解が広がっており、一部の自治体では扶養関係に同性も含み得ると解釈する例もある。しかし、道や組合の規定では『婚姻』は異性間に限られるとする民法の概念を前提にしており、事実婚に同性間の関係は含まれず違法や過失ではない」などとして訴えを退けました。

憲法に違反するかどうかは、判断しませんでした。

判決について佐々木さんは「性的マイノリティーだから特別待遇を求めたつもりはなく、他の職員と同様に、当たり前に取り扱ってほしかった」と話したうえで、「やれることは全部やった。これからは過去に縛られずパートナーや家族とともに自分の人生を大切にして生きていきたい」と話し、控訴はしない考えを示しました。

専門家「国内・国際社会の流れに反する判断」

判決について家族法が専門の早稲田大学の棚村政行 教授は「事実婚を男女に限って認める判決で、性的マイノリティーの権利を保護し性的指向に基づく差別を禁止しようという国内や国際社会の流れには反する判断だった」と指摘しました。

棚村教授によりますと、全国的には同性間のパートナーにも扶養手当を支給する自治体が増えているということで「どこに住んでいるかやどこで働いているかで格差が生じるということは適当ではない。同性カップルの法的な権利や地位を認めるよう、国が早急に検討すべきだ」と指摘しました。

同性カップルめぐる裁判 これまでは

同性カップルをめぐる裁判は各地で行われていて、同性のカップルに男女の夫婦に準ずる権利があると認める司法判断も出ています。

同性の事実婚のカップルが浮気が原因で別れた場合に慰謝料を請求できるかどうかが争われた裁判では、おととし3月、最高裁判所が上告を退け「男女の婚姻に準ずる関係にある」と認め、慰謝料の支払いを命じた判決が確定しました。

同性の事実婚を男女の場合と同じように法的保護の対象と認めた司法判断が確定したのはこれが初めてとみられます。

また、不法滞在で国外退去命令を受けた台湾人の男性が「日本人の同性のパートナーがいる」として退去命令の取り消しを求めた裁判では、4年前、裁判所の打診を受けた法務省が男性の訴えを認めて退去命令を撤回し、在留特別許可を出しました。

同性のカップルなどが結婚が認められないのは憲法に違反するとして国に賠償を求める集団訴訟も全国5か所で起こされていて、すでに1審の判断が出そろい、「違憲」が2件、「違憲状態」が2件、憲法に違反しない「合憲」が1件となっています。

このうち札幌地方裁判所はおととし3月、法の下の平等を定めた憲法に違反するという初めての判断を示しました。

唯一「合憲」とした去年6月の大阪地方裁判所も、今後の社会状況の変化によっては同性婚などを認める立法措置を取らないと憲法違反になりうると言及しています。

一方、同居していた同性のパートナーを殺害された愛知県の男性が、犯罪被害者の遺族に支給される給付金が認められなかったと県を訴えた裁判では、3年前、名古屋地方裁判所が同性のカップルについて「婚姻関係と同一視するだけの社会の考え方が形成されていない」として訴えを退けました。

去年8月の2審判決も訴えを退け、原告側が上告しています。