ロシア 統一地方選挙始まる ウクライナの4州でも強行

ロシアで8日、統一地方選挙の投票が首都モスクワなど各地で始まり、プーチン政権は来年3月の大統領選挙もにらみ与党の圧勝を演出したい考えです。一方ロシアが去年9月併合を一方的に宣言したウクライナ東部のドネツク州など4つの州でもロシア側の代表を選ぶ、選挙だとする活動が強行されていて、支配の既成事実化をいっそう進めるねらいがあるとみられます。

ロシアでは首都モスクワの市長のほか20の地域の知事などを選ぶ統一地方選挙が行われ、8日、ロシア極東から順次投票が始まりました。

モスクワでも朝から投票が始まり、市長選挙で、プーチン大統領の側近の1人で、現職のソビャーニン市長に投票したという男性は「この危機的な時であっても、プーチン大統領や今の政権は全体としてよく対応していると思う。ウクライナの4つの州もロシアの一部となったので、投票が行われるべきだ」と話していました。

また20代の男性は、「私は変化は必要だと思う。しかし、今のこの時期に、人々は変わることを恐れ、安定を求めていると思う」と話していました。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、政権にとっては、来年3月に行われる大統領選挙もにらみ、プーチン政権を支える与党「統一ロシア」の圧勝を演出したい考えです。

ロシア大統領府のペスコフ報道官は7日「プーチン大統領もモスクワの市長選挙で投票するつもりだ」と述べました。

投票は9月10日まで行われ、即日開票される予定です。

一方、ロシアが去年9月併合を一方的に宣言したウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州、南部のザポリージャ州とヘルソン州の4つの州でも、ロシア側の代表を選ぶ、選挙だとする活動が強行されています。

ウクライナ軍が反転攻勢を強める中、プーチン政権としては占領地域で支配の既成事実化をいっそう進めるねらいがあるとみられます。

米国務長官「占領地域で偽の選挙を実施しようとしている」

アメリカのブリンケン国務長官は7日、声明で、「ロシアはウクライナの占領地域で偽の選挙を実施しようとしている。ロシア政府はあらかじめ決められ、ねつ造された結果がウクライナの一部の地域を支配しているとする、ロシアの違法な主張を強めるものになると期待しているが、これはプロパガンダ以外のなにものでもない」と非難しました。

そのうえで、「ロシアの行動は国家の主権と領土の一体性を尊重する国連憲章の原則をあからさまに軽視するものだ。アメリカがウクライナの領土をめぐるロシアの主張を決して認めることはない」と強調しました。

松野官房長官「ウクライナ支援 引き続き取り組む」

松野官房長官は午後の記者会見で「ロシアが違法に併合したウクライナ国内で、いわゆる『選挙』を行っていることは承知しているし、決して認められない」と述べました。

そのうえで「わが国は1日も早くウクライナに公正かつ永続的な平和を実現すべく、G7をはじめ国際社会と連携し厳しい対ロシア制裁と強力なウクライナ支援に引き続きしっかり取り組む」と述べました。

“併合”ウクライナの4州の一部でも“選挙”とされる行動

ロシアの統一地方選挙に合わせ、ロシアが去年9月に一方的に併合を宣言したウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州、南部のザポリージャ州とヘルソン州のうちロシアが占領する一部の地域では、先月末から順次、選挙だとする活動が始まり、親ロシア派の議会議員などを選ぶとしています。

ロイター通信が配信したドネツク市内の映像では、移動式の投票所に複数の市民が訪れ、投票用紙を箱に入れる様子がうつっています。

また、ロシア各地には今月4日まで会場が設けられ、自宅を離れている4州の住民が遠隔で参加しました。

プーチン政権は、去年、これら4つの州を対象に戒厳令を導入しましたが、ことし法改正を行い、選挙を実施できるようにしました。

プーチン政権としては選挙だとする活動を通じて支配の既成事実化を推し進めるねらいがあるとみられます。

国営メディアなどは「『新しい地域』で初めて行われる地方選挙だ」などとして、投票の模様を大きく伝えています。

一方、こうした動きについてウクライナ側は「偽の投票」と非難し、軍の無人機を使ってビラをまくなどして参加や協力をしないよう呼びかけています。

政権側 今回の選挙を弾みに来年の大統領選挙に臨むねらいか

ロシアの統一地方選挙は、首都モスクワなどへの相次ぐ無人機の飛来や、兵力不足を補うための動員、それに、民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏の死亡など、ウクライナ侵攻の長期化がもたらす様々な影響や課題が次々に表面化する中で行われています。

民間の世論調査機関「レバダセンター」が8月下旬に行った調査では、武装反乱を起こしたプリゴジン氏の活動について「肯定的」に受け止めている人は39%で、「否定的だ」とした37%をやや上回りました。

レバダセンターは「プリゴジン氏に対する評価が二分している」と分析しています。

自家用ジェット機の墜落で死亡したプリゴジン氏の葬儀は、非公開で行われましたが、プリゴジン氏を英雄視するような世論を抑えるために政権側が決定したとも伝えられています。

また、モスクワなど各地に無人機が飛来する事態が続く中、不安を抱える市民も増えていて、政権側は、世論の動向に神経をとがらせているとみられます。

「レバダセンター」の8月の調査では、ウクライナ侵攻を巡り期待することとして「軍事行動の継続」と考えている人が38%だったのに対し「和平交渉の開始」は50%に上るなど、外交による解決を望む人が上回っています。

ただ、調査では、プーチン大統領について「支持する」と回答した人は80%と、依然高い支持を保っているとみられ、侵攻の長期化を受けた国民の不満の矛先が大統領に直接向かないという傾向も続いています。

こうした中で迎える統一地方選挙についてプーチン政権は、政権を支える与党「統一ロシア」の圧勝を演出し、ウクライナ侵攻の継続に対しても国民から支持を得ていると強調したいものとみられます。

ロシアでは、来年3月に大統領選挙が控えていて、独立系メディアは、政権側はプーチン大統領の得票率の目標を80%以上に設定しているようだと伝えています。

政権としては、今回の選挙を弾みにして、戦時体制下での国民の結束を印象づけながら大統領選挙に臨みたいねらいもあるとみられます。

「レバダセンター」は、プーチン政権から「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも、独自の世論調査活動や分析を続けています。

専門家「動員も含めた戦時体制の強化図るねらいも」

ロシアで投票が始まった統一地方選挙についてロシアの外交や政治に詳しい専門家は、プーチン政権としては、ウクライナ侵攻を強く支持する政治家を各地で当選させることで動員も含めた戦時体制の強化を図るねらいもあるとして「非常に重要だ」と指摘しています。

ロシアでは8日から各地で州知事や議会議員などを選ぶ統一地方選挙の投票が始まりました。

この選挙についてロシアの外交や政治に詳しいフョードル・ルキヤノフ氏は、NHKのインタビューに対し「ウクライナへの対応が共通の課題となるなか非常に重要だ」と指摘しました。

その理由に関連してルキヤノフ氏は、「予備役の動員などは地方の政治家にかかっている」と述べプーチン政権としては、ウクライナ侵攻を強く支持する政治家を各地で当選させることで動員も含めた戦時体制の強化を図るねらいもあると分析しています。

また、ロシアが一方的な併合を宣言したウクライナの4つの州でも選挙だとする行為が行われていることについて「住民に対して自分たちはロシアの法律や原則に基づいて生活していると印象づける必要がある」としていわゆる「ロシア化」を進めるねらいだと説明しました。

一方、ルキヤノフ氏は、プーチン大統領が9日から行われるG20=主要20か国の首脳会議への出席を見送ったことについて「ロシアと外交ができる国は減っている。残った国に対して新しい活動を模索することが重要だ」と述べ、プーチン政権は、関係を維持している国々との結びつきを強めることに力点を置いていると指摘しました。