プライム上場企業が暴力団員に利益供与の衝撃【経済コラム】

東証のプライム市場に上場する「三栄建築設計」の元社長が暴力団員に金銭を供与していたとされる問題は、関係者に大きな衝撃を与えています。プライム市場といえば、高いガバナンス水準を備えた企業のみが上場を許される東証の最上位の市場です。

それにもかかわらず、なぜ経営トップが長年、暴力団員と関わりをもっていたことを見抜けなかったのか。そしていまだに会社自身の説明責任が果たされておらず、東証からも再発防止に向けたメッセージが発信されていないのはなぜなのか。日本を代表する市場で起きた前代未聞の不祥事を検証します。

経営トップが20年以上にわたって暴力団員と交流

三栄建築設計は8月15日に弁護士5人で構成する第三者委員会の調査報告書を公表。この中では、創業者の元社長が「小切手が暴力団員に渡ることを認識しつつ、これに協力したと認めることができる」と結論づけています。

第三者委員会は、元社長と暴力団員は20年以上のつきあいがあったとした上で、「元社長が反社会的勢力との間で長年にわたり関係性を継続し、秘密裏に担当者を定めてその応対をさせるなどしてきたことは、上場企業のトップとして決して許されるものではない」と厳しく指摘しました。

この会社には、プライム上場企業の多くが整備しているコンプライアンス関連の規程や反社会的勢力に対する基本方針が設けられていますが、なぜ長年にわたって暴力団員との関係を断ち切ることができなかったのか。そもそも、元社長と暴力団員との関係を社員はどこまで知っていたのか。

第三者委員会の報告書によると、元社長と暴力団員との関係が始まったのは、遅くとも2000年。会社が暴力団員の自宅の設計や建築を請け負ったころにさかのぼります。

このころは、元社長と暴力団員の関係性を認識していた役職員が少なからず存在していたとのことですが、2006年の上場後は、暴力団員向けの業務がいわば特命案件となり、元社長と暴力団員との関係を知る人もかなり少なくなったということです。

ことし6月に就任した千葉理恵社長は、会社が売却した建物の買い主が暴力団員である疑いがあり、設計などを担当する従業員がメンテナンスなどの対応をしていると、会社が上場する前に認識していたということです。

ただ、その後、元社長にこうしたメンテナンスなどの業務をやっているか確認したところ否定されたため、元社長と暴力団員との関係性は遮断されたと思っていたと第三者委員会の調査に答えています。

第三者委員会の報告書は、「元社長と担当となった3人の従業員を除き、暴力団員と直接関わり合いをもった役職員は認められなかった」としています。

一方で、元社長に対して反対意見を述べることができない社内風土が元社長のワンマンな経営体制を許したとし、「元社長と暴力団員との関係性を一定程度認識しつつも、その解消に向けて行動できなかった役職員がいた事実は、元社長の影響力が絶大であったことを考慮に入れたとしても、コンプライアンス上の問題がなかったと評価することはできない」と指摘しています。

東証の対応に問題はなかったか

三栄建築設計の上場を審査した東証の対応には問題がなかったのか。

東証は、2011年の新規上場、そして2012年には東証1部銘柄への指定にあたってこの会社の審査にあたりました。

この際、会社は元社長名で、反社会的勢力と交流をもっている事実はないという確認書を提出していましたが、東証は虚偽の確認書を出して株主や投資家の信頼を損ねたとして、8月29日、上場規程に基づき、会社に違約金1000万円の支払いを求めると発表しました。

上場後も10年以上にわたって経営トップが暴力団員と関係を続けていたこと。そして、それを見抜けなかったことを東証は重く受け止める必要があります。

去年4月、「プライム市場」など新たな3つの市場で取り引き開始

今回の問題は、プライム市場の信頼性を大きく損なうものです。それにもかかわらず、東証は、ことし6月に問題が発覚してからこれまでに再発防止や信頼回復に向けた対外的なメッセージを発していません。

ある市場関係者は、「これだけ長期にわたって暴力団との関係を許すなどガバナンス体制に問題があった企業が、本当にプライム市場の銘柄としてふさわしかったのか考えなければならない。暴力団とのつながりがないかをせめて役員だけでも詳しく調べる仕組みを東証などが検討すべきだ」と指摘しています。

三栄建築設計の説明責任は

一方、三栄建築設計の対応にも疑問が残ります。

第三者委員会の報告書が公表された翌日、不動産大手の「オープンハウスグループ」が三栄建築設計を買収する方針を発表。三栄建築設計のある社員は、「これで一段落ですよ」とほっとした様子でした。

しかしこの会社は、第三者委員会が報告書で元社長による暴力団員への利益供与を認定してから一度も会見を開いていません。

その理由について会社は「報告書は非常にデリケートな内容で、会社からコメントをすることは適切ではないとの判断から、現時点においては記者会見を開催する予定はございません」とコメントしています。

会社はその後、9月11日になって、経営責任を明確にするため、社長など3人の取締役が役員報酬の一部を自主的に返納すると発表しています。

これまでの会社の対応について、コーポレート・ガバナンス=企業統治に詳しい専門家はこう指摘します。

青山学院大学 八田進二名誉教授
「会社は社会的公器でもあり、上場している以上、説明責任がある。第三者委員会の報告書について会社がどう受け止めたのか、今後会社はどうしていくのか、会見を開いて株主や従業員、取引先など広い範囲に対して説明すべきだ」

東証は徹底的に検証し、再発防止策を

会社の第三者委員会は、報告書の最後をこう締めくくっています。

「元社長のみに原因がある特殊の事案であり、元社長が役員を辞任し、取締役の構成も変わったことをもって足りると安易に考えるのではなく、反社会的勢力との関係をもってしまうことが企業としての存立を危うくしかねない極めて深刻なリスクであることを痛感し、将来にわたり反社会的勢力との一切の関係遮断を実現しなければならないという強い意志を持ち続けていく必要がある」

ここで指摘されているように、長年にわたって暴力団員と関わりをもったことが、会社にとって「存立にかかわる極めて深刻なリスク」であるという危機感をもつことが重要だと思います。

それはプライム市場を運営する東証にとっても同じです。見抜く手だては本当になかったのか。メインバンクや幹事証券会社も全く知らなかったのか。

東証は、経営や上場に関わった当事者から話を聞くなど問題を徹底的に検証し、再発防止策を講じる必要があります。

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