【詳しく】損保ジャパン会見 白川社長辞任 ビッグモーター問題

損害保険ジャパンの白川儀一社長が、去年、ビッグモーターによる不正の可能性を認識していながらいったん中止していたビッグモーターとの取り引き再開を促していた問題で、白川社長が責任をとって辞任することを明らかにしました。
会見は午後3時半から東京・新宿の本社で親会社のSOMPOホールディングスとともに開かれました。会見には白川社長やSOMPOホールディングスの櫻田謙悟グループCEOが出席し一連の問題の経緯や対応、それに新たな経営体制について説明しました。

※時系列で記者会見での発言をお伝えします。

白川社長の引責辞任を発表

損害保険ジャパンは、ビッグモーターによる保険金の不正請求問題への対応の責任をとって白川儀一社長が辞任することを発表しました。

白川社長は、去年7月の役員会議で、ビッグモーターによる不正の可能性を認識していながらいったん中止していたビッグモーターとの取り引き再開を促していて金融庁がこうした判断に至った経緯などについて調査を進めていました。

白川儀一氏とは

損害保険ジャパンの白川儀一社長(53歳)は、1993年に会社の前身である安田火災海上保険に入社しました。

2019年に執行役員経営企画部長、2020年に取締役執行役員となり、去年4月に社長に就任しました。
当時、51歳での社長就任は損害保険ジャパンの設立以来、最も若く、“37人抜き”の人事としても注目されました。

櫻田グループCEOが陳謝

SOMPOホールディングスの櫻田謙悟グループCEOは、会見の冒頭で、「ビッグモーター社による保険金不正請求に関し、お客さま、株主、各種関係者、代理店の皆様に大変なご心配とご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした」と陳謝しました。

白川社長「心よりおわび申し上げます」

白川社長は「このたびビッグモーター社に関する対応に多くのご指摘をいただいておりお客様、代理店の皆様、関係者の方々にご迷惑とご心配おかけし、心よりおわび申し上げます」と陳謝しました。

白川社長「再発防止策条件に入庫紹介再開を判断」

白川社長はビッグモーターとの関係や事案の経緯について説明し「昨年1月にビッグモーターの社員からの通報による保険金の不正請求疑義が発覚した。その後の調査により、ビッグモーター社において不正が発生している可能性があることを認識しながら、最終的に当社に提出された自主調査結果において、不正指示はなかったとする書類に通報者の署名がなされていたことをもって、私は昨年7月6日の役員会議でビッグモーター社の再発防止策の実行を条件として入庫紹介を再開する判断をした」と述べました。

白川社長「反発おそれ厳正な対処できず」

白川社長は「入庫再開は競合他社に取り引きが大きくシフトすると強い懸念を持っていたことも事実だ。その時点では現在報道されているような悪質な犯罪行為は把握できていなかった。こうした判断はビッグモーター社との取引関係を重視する一方、最も大切にすべきお客様への思いに至っていない、軽率な考えであったと深く反省している。また、当社の経営にとって重大なリスクであるとの認識に至らず、取締役会といった公式な場での議論をへずに、決めてしまった。親会社であるSOMPOホールディングスに報告できておらず、客観的な目線を入れて議論を行う必要があった」と述べました。

また「簡易調査は定期的な事後モニタリングを組み合わせることで、見積もりの妥当性を継続的に担保する制度だ。ビッグモーター社はモニタリングの結果が年々悪化している事実があり、その時点で簡易調査の対象外とするなどきぜんとして改善を確約させるべきだったが、大型代理店であるビッグモーター社からの大きな反発をおそれ、厳正な対処ができなかった。本来最も大切にすべきものが何かという観点での判断を経営みずからが正しく行えていなかったことが背景にあると考えている」と述べました。

白川社長 取り引き再開「適切な判断ではなかった」

白川社長は、去年の夏にビッグモーターへの取り引きを再開した判断について「今、振り返れば、当時の再発防止策は、十分な調査や芯のある原因分析に基づく内容には至っておらず、入庫紹介の判断は適切な判断ではなかった。また、お客さま保護の観点や社会に対する目線が欠けていた判断であったと深く反省している」と述べました。

また「入庫再開によって、私どもの売り上げを増やそうとは思っていなかった。ただ、同業他社の動向が真実であれば、われわれの取引が大きく減る可能性があると危惧していた。そういう意味で同業他社の動向を意識していたのは事実だ」と述べました。

櫻田グループCEO「現時点で辞任の可能性はゼロ」

櫻田グループCEOは、自身の責任について問われたのに対し「社外取締役からなる指名委員会などでガバナンスを強化してきたつもりだが、損保ジャパンでこのような事態が発生し、持ち株会社としてそれを代表する私も何らかの責任があると思っている。調査委員会の中で全役員の責任や全貌が明らかになった中で厳正に対処したい」と述べました。

そのうえで「事業会社のガバナンスの健全な体制をつくるというのが持ち株会社のミッションだとすれば、もっと早く報告が欲しかった。報告を受けてから指示どおりに動いてくれればもしかしたら避けられたかもしれないという気持ちはあるが、報告が遅かったことも含めて私もじくじたる思いがある。私も責任なしとはしない」と述べました。

そのうえで、辞任の可能性について問われたのに対して「わかりません」と述べたうえで「少なくとも現時点で私の辞任の可能性はゼロである」と述べました。

白川社長 ビッグモーター「気をつかう部分あったのではないか」

白川社長はビッグモーターとは対等な関係だったのかと問われたのに対し「確かに私どもにとって大きな取り引きをいただいている先の1つであると認識している。したがって、代理店さんと私どもは非常に対等なパートナーという認識はあるが、現場からするとそれだけ大きな保険料をいただいている部分は、やはり気をつかう部分があったのではないかと推察する」と述べました。

白川社長「決定の体制に問題あると反省」

白川社長は「入庫再開を決めた会議は、数日後にビッグモーター社の社長が私どもの会社を訪問するのでその対応をどうしたらいいかという打ち合わせで始まり、営業部門と保険金の支払い部門が主体の会議だった。結局は、この会議で再開を決めるにまで至ってしまい、これほど重要なことをそうした会議の中で決めてしまった体制については問題があると反省している」と述べました。

そのうえで「私の下の役職の者が私に対して物が言いにくいという雰囲気があったのかどうかは、再開判断に至る原因調査の部分にも深く関わってくるため、現時点ではコメントできない。少なくともビッグモーター社が取引先としてよくないということが私の耳に入ることはなかった」と述べました。

櫻田グループCEO「ビッグモーター前社長に会ったことない」

櫻田グループCEOは、ビッグモーターの兼重宏行前社長と面識があったのか問われたのに対し「ビッグモーターの前社長、および息子さんにお会いしたことは一度もない。ビッグモーターが私どもにとって大きな代理店だと経済誌の記事が出た時に初めて知った」と述べました。

白川社長「不正は限定的という認識」

白川社長は「昨年6月に実施されたビッグモーター社の自主調査の中で内部通報があった一部の工場で、修理が不要な部分に板金塗装などを行い、水増しした修理費の保険金請求がされていた可能性が高いということは認識していた。私はここを『クロ』という言い方をした。ただ、不正は限定的なところで起こっているという認識で、組織的に、広域に、さらに常態的に行われているという認識はなかった」と述べました。

白川社長「信頼回復に一日も早い私の辞任が必要と決断」

白川社長は外部の委員会による調査結果が出る前に辞任を申し出た理由について「昨年7月、入庫紹介を再開するという大きな経営判断ミスをしたということに責任を感じ、お客様、代理店、社員の信頼を裏切り、不安にさせてしまったことに責任を感じていて、当社の信頼回復に向けた第一歩を明確にするためには一日も早い私の辞任が必要であると決断した」と述べました。

櫻田グループCEO「責任がないとは言っていない」

櫻田グループCEOは、持ち株会社としてガバナンスが機能していなかったのではという質問に対して「この問題は、損保ジャパンのトップ白川社長や関わった役員の責任のみならず、持ち株会社が実効性のあるガバナンス体制をつくることができていたのか、やるべきことをやっていたのかという議論はこれからなので、責任がないとは言っていない」と述べました。

白川社長「不正請求を見抜くことできずじくじたる思い」

ビッグモーターの経営陣が組織的な不正を否定していることに関連し、白川社長は個人的な見解としたうえで「工場長が他の店舗でも広域にわたって指示が行われていたと読めますので、私個人としては組織的な不正ということでビッグモーター社のレポートを拝見した。一方で、不正請求を見抜くことができずじくじたる思いがある」と述べました。

白川社長「保険料改定のため 信頼回復に努める」

白川社長はほかの損保各社が自動車保険料を値上げするなか見送った理由について「もともとは自動車保険の改定を予定していたが、この状況下では皆さまにご理解いただけないのではないかと思う。一方で、交通量の増加に伴って事故も増えていて、修理の単価も上がってきているなかで、自動車保険を安定的、継続的に運用するためには保険料の改定が必要だと思っている。そのためには、信頼回復に努めなければいけない」と述べました。

【記者会見のポイント】

1.辞任方針固めた理由 判断の理由

まず、損害保険ジャパンが白川社長の辞任の方針を固めた理由です。

白川社長は、去年7月の役員会議でビッグモーターによる保険金の不正請求問題について、「不正が行われていたと推測される」という見解を示しましたが、追加調査を行えばビッグモーターとはこれまでのような関係には戻れなくなるとして、工場への追加調査を行わずに取り引きを再開してはどうかなどと発言していました。

今回、辞任の方針を固めた背景には、このときの経営判断が問題視されていることがあるとみられますが、白川社長の発言が注目されます。

そして不正の可能性があると認識しながら取り引き再開を促したのはなぜなのか。

白川社長がこれについてどう説明するのかもポイントです。

2.辞任のタイミング

白川社長の責任を問うのがなぜこのタイミングなのかという点です。

金融庁は今月中旬にも損害保険ジャパンに対して立ち入り調査を実施し、経営管理や内部管理の体制に問題がなかったか詳しく調べる方針です。

法令に照らして、問題があれば厳正に対応するとしていますが本格的な調査はこれからという段階です。
また弁護士でつくる外部の調査委員会による調査もまだ終わっていません。

それにもかかわらず白川社長がこのタイミングで引責辞任する方針を固めたのはなぜなのか。この点も注目です。

3.親会社のガバナンスと責任

親会社のSOMPOホールディングスが子会社の損害保険ジャパンの経営をチェックする役割を果たしていたのかという点も焦点となります。

会見にはSOMPOホールディングスの櫻田謙悟グループCEOも出席しますが、ビッグモーターによる保険金の不正請求問題、そして不正の可能性があると認識しながら損害保険ジャパンだけが取り引きを再開したことについてどのような報告を受け、親会社としてどういった判断を示したのか。

そしてグループ企業の経営を監視すべき親会社のガバナンス体制や経営陣の責任についてどういった言及があるのか。

櫻田グループCEOの発言にも注目です。

損保ジャパンだけが取り引き再開した経緯

ビッグモーターが故意に車を傷つけるなどして自動車保険の保険金を不正に請求していた問題。

去年3月、損害保険防犯対策協議会を通じて不正請求の疑いがあるという情報が損保各社に寄せられたことをきっかけに各社は調査に乗り出しました。その結果、不正請求の疑いが強まると、去年6月に3社は相次いで、契約者にビッグモーターの修理工場を紹介する業務を停止しました。

ところがこの翌月、3社のうち損害保険ジャパンだけが、取り引きを再開しました。この理由について会社は、ビッグモーター側から、工場長の指示による不正はなく、過剰請求の原因は現場の連携不足による過失だったという報告を受けたためだとしていました。

ところがこの判断をめぐり、去年7月6日の役員会議で白川社長がみずから取り引きの再開を促していたことが明らかになりました。役員会議ではビッグモーターによる調査結果を一部の役員が疑問視し、追加のヒアリングや残りの工場への調査が必要だという意見も出ていました。

この会議で白川社長は、「不正が行われていたと推測される」という見解を示しましたが、追加調査を行えばビッグモーターとはこれまでのような関係には戻れなくなるとして、工場への追加調査を行わずに取り引きを再開してはどうかなどと発言していたということです。

そして、この会議の5日後に当時、ビッグモーターの社長を務めていた兼重宏行氏やその長男で副社長だった兼重宏一氏ら幹部が損害保険ジャパンの本社を訪れました。

ビッグモーター前社長 兼重宏行氏

この中で当時、損害保険ジャパンの専務執行役員を務めていた中村茂樹氏など担当者が、工場への追加調査は行わず、できるだけ早く取り引きを再開するという方針を伝えたということです。

これに対し、当時の兼重社長は、今後も最大のパートナーとして関係を続けていくと述べた上で、新たに開設する複数の店舗の保険ビジネスを損害保険ジャパンにお願いしたいと発言したということです。

当時、損害保険ジャパンの経営幹部が、取り引きを中止している間にライバルの会社がビッグモーターとの取り引きを拡大するのではないかと危機感を強めていたこともわかっていて金融庁は、取り引きの再開を急いだ経緯について詳しく調べる方針です。

損保ジャパンとビッグモーターとの親密な関係

損害保険ジャパンはビッグモーターとの間で互いの顧客を紹介し合う親密な関係を続けてきました。

事故にあった保険契約者にビッグモーターの修理工場を紹介すると、ビッグモーターは代理店として紹介された数に応じて、中古車の購入者に損保会社が手がける自賠責保険などを販売するという仕組みがあり、双方にとって収益源となっていました。

損害保険ジャパンはビッグモーターに2011年以降、あわせて37人を板金部門や営業部門に出向させ、なかには執行役員を務めた出向者もいました。

また、損害保険ジャパンは、2015年の時点でビッグモーターの株式の7%余りを保有する大株主だったほか、ビッグモーターの創業者の長男でことし7月に引責辞任した兼重宏一前副社長は2011年から1年あまりの期間損害保険ジャパンの前身企業の1つ、「日本興亜損保」に在籍していました。

こうした親密な関係が続く中、損害保険ジャパンは2019年、社内にビッグモーターに対応する専門のチームを設けて、修理する車の損害査定を簡略化していたことも分かっています。

ビッグモーターが修理の見積もりを作成して写真を送れば、損害査定の手続きを大幅に簡略化して保険金を決めることができるようにする仕組みで、金融庁は査定を簡略化していたことに問題がなかったか詳しく調べています。