児童虐待 児童相談所が対応の件数 昨年度21万9170件 過去最多

子どもが親などから虐待を受けたとして児童相談所が相談を受けて対応した件数は、昨年度、21万9000件余りで過去最多となったことが、こども家庭庁のまとめでわかりました。

こども家庭庁によりますと、昨年度、18歳未満の子どもが親などの保護者から虐待を受けたとして全国の児童相談所が相談を受けて対応した件数は、速報値で21万9170件でした。

内容別では
▽子どもの前で家族に暴力を振るうなどの「心理的虐待」が最も多く、12万9484件と、前の年度から4700件余り増え、全体のおよそ6割を占めました。
次いで
▽殴るなどの暴行を加える「身体的虐待」が5万1679件
▽育児を放棄する「ネグレクト」が3万5556件
▽「性的虐待」が2451件でした。

相談の経路は、
▽警察などが11万2965件で全体の半数を占め、
▽近隣の知人が2万4174件
▽家族や親戚が1万8436件などとなっています。

虐待の相談件数は統計を取り始めた平成2年以降増加傾向が続いていて、昨年度も前の年度より1万1510件増えて、過去最多となりました。

相談件数の増加は、家庭内に子どもがいる状況で家族に暴力を振るう、いわゆる「面前DV」が増え、「心理的虐待」として警察から通告される件数が増加していることや、関係機関の児童虐待防止に対する意識や感度の高まりなどが要因とみられるということです。

こども家庭庁は、
▽増加傾向にある相談件数に対応できるよう、全国の児童相談所などの体制を強化するとともに、
▽妊娠期からリスクを拾い上げて必要な支援を行うなど、
児童虐待の予防策を強化していくとしています。

令和3年度は虐待で50人死亡 こども家庭庁が検証結果公表

こども家庭庁は令和3年度に親などから虐待を受けて死亡した子どもの専門家による検証結果を公表しました。

それによりますと、令和3年度に親などから虐待を受けて死亡した子どもは、心中を除くと全国で50人でした。

内容別では、
▽「身体的虐待」が21人(42%)
▽育児を放棄する「ネグレクト」が14人(28%)などとなっています。

また、「実の母」から虐待を受けていたのが20人で全体の4割を占めました。

年齢別では「0歳」が24人と最も多く、次いで「1歳」と「3歳」がそれぞれ6人などとなっています。

また「0歳」のうち、月齢0か月の新生児は6人でしたが、このうち5人が児童相談所や市区町村など関係機関の関与がありませんでした。

検証結果では、虐待の予防や早期発見のために妊婦の状況にあわせた伴奏型の支援を行うことや、インターネットやSNSなどを活用して多角的な情報発信を行うことなど、妊娠期からの保護者への支援を強化する必要があると提言しています。

専門家「“予防的支援”が非常に重要」

虐待対応にあたる自治体職員の研修などを行っている子どもの虹情報研修センターの増沢高 副センター長は、「虐待が起きてからでは、幼い子どもの場合は死の危険につながるし、そうではなくても、虐待通告を受けてから家庭に介入すると、保護者の抵抗感もあって支援につなげることが難しくなってしまう」と指摘しています。

その上で、「虐待の背景には貧困や孤立、若年などの子育てを難しくしている要因がたくさんある。子どもの保護だけでは解決に至らないこともあり、もっと手前のところでより効果的な支援をするために『予防的支援』というのが非常に重要だ」と話していました。

孤立で追い詰められた母親は

6歳、4歳、2歳の3人の子どもを育てる37歳の女性はおととし4月、コロナ禍で第3子を出産しました。

夫は仕事で不在がちで、遠方に住む母親が認知症になるなど周囲に頼れる人がおらず孤立を深めたといいます。

出産後に子どもの心臓の病気がわかり体調を崩しがちな上に、上の子ども2人もコロナの影響で保育園に登園できないなどさまざまな出来事が重なり、出産から4か月たったころ、突然、体が動かず、涙が止まらなくなったと言います。

当時の状況について女性は「この子を守らなければという緊張状態が続き、疲れを感じる暇もなかった。ある時プツンと糸が切れてしまったようにもうダメかもとピークが来て、涙がずっと止まらない状況が続いた」と話していました。

女性はすがる思いで、インターネットで探しあてたNPOに連絡をとり、子育て経験があるボランティアによる訪問支援を受けました。

訪れたボランティアスタッフが、子どもの世話のほか、仕事や母親の介護のことなど女性のさまざまな話に耳を傾けてくれたことで救われたと言います。

「母親として24時間、臨戦態勢だったので、大人との会話が喜びとなり、訪問の日が毎回楽しみだった。あの時、相談できていなかったら、ぞっとする結末を迎えていたのではないかと、今振り返っても怖い」と話していました。

NPOでは、乳幼児がいる家庭に1回2時間で6回まで無料で訪問し、家事や育児をサポートする「ホームスタート」と呼ばれる取り組みを行っています。

昨年度はおよそ120の家庭から依頼を受けてのべ900回以上訪問しました。

夜間や休日にも対応できるよう、さらにボランティアの養成を進めるということです。

NPO法人「こうとう親子センター」でボランティア派遣を担当する磯野未夏さんは「ちょっとした悩みがあっても誰に相談していいか分からず、ひとりで頑張っていると孤立感や育児負担から子どもをかわいいと思えないことにつながることもある。『ママ少し休んでいいよ』と誰かが家庭に入ることで大きな問題にならないようにすることが大事だと思う」と話していました。

問題が起きる前から支援に取り組む自治体も

妊娠期から母親に寄り添い信頼関係を築くことで早期の支援につなげようとする自治体の取り組みも始まっています。

東京都では特に子育ての不安を抱えやすい、25歳以下の初産の妊婦を対象に、妊娠期から出産後まで定期的に家庭を訪問する支援を一部の自治体で始め、問題などが起きる前からの支援に取り組んでいます。

このうちこれまでに40ほどの家庭への訪問支援を行っている墨田区では、訪問を重ねて関係作りを進めたことで、出産後に経済的な不安の相談を受け、区の生活相談の窓口に同行したり、最初は面談を拒否していたけれども継続してアプローチしたことで子育ての相談につながったりしたケースがあったということです。

ただ、連絡をとることが難しい家庭も一部あり、電話のほかにスマホにメッセージを送ったり、手紙をポストに届けたりと、さまざまな手段で接点を探っているといいます。

墨田区子ども・子育て支援部副参事の梅原和恵さんは、「最初は『困っていることはない』という人もあとからいろんなことが出てくることを実感するので、関係性を切らずに保つことが大切だ。行政に相談するというハードルを下げ、さまざまな職種が連携して支援できる体制を作っていきたい」と話していました。

東京都では先行の取り組みの効果を検証し、来年度からすべての自治体で実施したいとしています。