岸田首相襲撃事件で木村隆二容疑者を起訴 殺人未遂などの罪

ことし4月、和歌山市で選挙の応援に訪れていた岸田総理大臣の近くに爆発物が投げ込まれた事件で、逮捕された24歳の無職の容疑者について、和歌山地方検察庁は岸田総理大臣などに対する殺人未遂や爆発物取締罰則違反など5つの罪で起訴しました。

起訴されたのは、兵庫県川西市の無職、木村隆二被告(24)です。

検察などによりますと、ことし4月15日の午前11時半ごろ、和歌山市雑賀崎の漁港で、衆議院の補欠選挙の応援に訪れていた岸田総理大臣や聴衆などに対して手製の爆発物を投げ込んで爆発させ、2人にけがをさせたうえ街頭演説を妨害したとして、総理大臣などに対する殺人未遂と爆発物取締罰則違反、それに公職選挙法違反など5つの罪に問われています。

和歌山地検は刑事責任を問えるかを調べるため、およそ3か月にわたって専門家による精神鑑定を行った結果、責任能力があると判断し、勾留期限の6日、木村被告を起訴しました。

検察は認否を明らかにしていませんが、警察の調べに対して黙秘していたということです。

今後、裁判員裁判で審理されるとみられ、事件の経緯や動機がどこまで明らかになるかが焦点となります。

起訴の5つの罪 詳細は

検察によりますと、木村被告は、現職の総理大臣などに対する殺人未遂の罪など、5つの罪で起訴されました。

【1 総理大臣への殺人未遂など】
ことし4月15日の午前11時半ごろ、和歌山市雑賀崎の漁港で、衆議院の補欠選挙の応援に訪れていた岸田総理大臣や聴衆などに対して殺意を持って手製の爆発物を投げ込んで爆発させ、聴衆1人と警察官1人にけがをさせたうえ街頭演説を妨害したとして
▽総理大臣などに対する殺人未遂や
▽爆発物取締罰則違反の爆発物の使用、
それに
▽公職選挙法違反の罪に問われています。

【2 手製の爆弾所持、火薬の所持、刃物の所持】
また、警察官らに現場で取り押さえられた際、
▽黒色火薬が入った別の手製のパイプ爆弾1つを手に持っていたとして爆発物取締罰則違反の爆発物所持の罪、
▽小瓶に入った黒色火薬およそ4グラムを持っていたとして火薬類取締法違反の罪、それに
▽刃渡りおよそ13センチの包丁をリュックサックに入れて所持していたとして、銃刀法違反の罪に問われています。

【3 爆発物の製造など】
このほか、去年11月ごろから事件当日までの間に、被告の自宅やその周辺で黒色火薬およそ560グラムを製造し、事件で使われたパイプ爆弾など2つの爆発物を製造したとして火薬類取締法違反と爆発物取締罰則違反の爆発物の製造の罪に問われています。

これまでの捜査は

現職の総理大臣などを被害者として、殺人未遂罪が適用されるに至った今回の事件。
これまでの捜査で明らかになったことをまとめました。

兵庫県川西市にある木村隆二被告の自宅の捜索では、黒色火薬の成分を含むおよそ530グラムの火薬が押収され、火薬の原料は、去年11月ごろからインターネットで購入していたとみられています。

警察の現場検証で、被告が製造したとされる爆発物は、投げ込まれて爆発したあと、破片の一部が現場から60メートル余り離れた場所から見つかったことなどが分かりました。

警察が鑑定を行った結果、爆発物は手製の「パイプ爆弾」で、殺傷能力が認められたということです。

また、現場で取り押さえられた際に被告が持っていたもう1つの筒についても、黒色火薬が入った手製のパイプ爆弾だと確認されました。

警察が被告の自宅から押収したパソコンを解析したところ、自民党のホームページを繰り返し閲覧した履歴があったことが分かっています。

警察は、事件前日に選挙応援の日程を知り、以前から準備していた爆発物を使って事件を起こすことを決め、バスや鉄道を利用して、和歌山市の演説会場に入ったとみています。

【動機は不明 選挙制度への不満か慎重に捜査】

一方、動機については明らかになっていません。

警察によりますと、木村被告は、ことし4月に逮捕されてから調べに対し、黙秘を続けていたということです。

事件前の去年6月には、被告は、法律が定める被選挙権年齢や供託金の規定は憲法違反だと主張して国に損害賠償を求める訴えを起こしていました。

神戸地方裁判所に提出した準備書面では、岸田内閣は安倍元総理大臣の国葬を閣議決定のみで強行したと主張し「このような民主主義への挑戦は許されるものではない」などと訴えていました。

神戸地裁は、去年11月、年齢要件や供託金制度は合理性があるなどとして訴えを退け、ことし5月、2審の大阪高等裁判所も訴えを退け、判決が確定しました。

警察は、1審で訴えが退けられた去年11月ごろから火薬を製造していたとみて、選挙制度への不満が動機だったのかどうか、慎重に捜査を進めてきました。

現場には今も爆発の穴が残る

事件のあった和歌山市の雑賀崎漁港では、当時、演説会場に漁業組合の関係者などおよそ200人の聴衆がいました。

警備をしていた警察官も含め、総理大臣におよそ10メートルの距離まで近づいていた被告に気付かないまま爆発物が投げ込まれました。

現場からおよそ60メートル離れたコンテナには、事件から5か月がたった今も爆発物の破片の一部がぶつかってできた穴が残されています。

付近は日常を取り戻していて、演説会場だった場所では6日も漁業者たちが水槽を修理する姿が見られ、団らんなどで使うためのいすがいくつも並べられていました。