性犯罪から子どもを守る「DBS」 有識者会議 報告書とりまとめ

子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないことを確認する新たな仕組み、「日本版DBS」
こども家庭庁の有識者会議は、学童クラブや民間の学習塾なども認定制を設けて対象となる事業者に含めるなど、制度のあり方についての報告書を大筋でとりまとめました。政府は報告書の意見も踏まえ制度化に向けた検討を進め、次の臨時国会への法案提出を目指す方針です。

就職希望者に性犯罪歴がないことを確認

政府が導入を目指す「日本版DBS」は、子どもを性犯罪から守るため、子どもと接する仕事への就職を希望する人に対し性犯罪歴がないことなどの証明を求めるもので、5日はこども家庭庁の有識者会議で、制度のあり方についての報告書を大筋でとりまとめました。

この中では制度の対象となる事業者の範囲について、学校や保育所、児童養護施設などについては利用を義務づけるとしています。

認可外保育施設や学童クラブ、民間の学習塾、スイミングクラブなどについては任意の利用としたうえで、認定制度を設けて国が認定を受けた事業者を公表することなどで利用を促していくべきだとしています。

また、確認の対象については、裁判所による事実認定を経た性犯罪の前科としたうえで、被害者の年齢は限定しないほか、期間については一定の区切りを設けるとしています。

一方で、条例違反については、都道府県ごとにばらつきがあることなどから、対象に含めることができるかさらに検討する必要があるとしています。

不起訴処分や行政による懲戒処分などは確認の対象に含めないとしています。

政府は報告書の意見も踏まえ制度化に向けた検討を進め、次の臨時国会への法案提出を目指す方針です。

教員・保育士・塾講師…省庁を超えて対策の必要

子どもに対する性犯罪や性暴力の対策についてはこれまで、教育現場と保育現場、それぞれを所管する省庁ごとに対策を進めてきました。

教員については、2021年に新たな法律が成立し、採用の際に、児童・生徒へのわいせつ行為による懲戒免職や教員免許の失効などの経歴を確認することが義務化され、ことし4月からデータベースの運用が始まりました。

また、保育士についても、2022年に児童福祉法が改正され、子どもへのわいせつ行為などを理由に保育士登録を取り消された場合、再登録ができないよう厳格化されたほか、教員同様のデータベースも近く運用される予定です。

しかし、こうした対策では、部活動の指導員や、学童の指導員、ベビーシッター、それに塾の講師など資格を持たない職種に対しては対応できず、省庁ごとの対策では不十分だという指摘がたびたびあがってきました。

また2020年には、マッチングサイトを利用していたベビーシッターが、預かっていた子どもへのわいせつ行為で相次いで逮捕されたことなどから、子どもに関わる仕事に就く際に性犯罪歴を確認する仕組みが必要だと訴える声が高まりました。

そしてことし発足したこども家庭庁は、イギリスの「DBS制度」を参考に、日本版の制度を作ることを基本方針として掲げ、ことし6月から5日まで5回にわたり、有識者による議論を重ねてきました。

報告書の詳細と論点は

日本版DBSの導入に向け、こども家庭庁が設置した有識者会議での議論の詳細です。

〈制度の必要性と留意すべき点〉

まず、子どもに対する性犯罪や性暴力は生涯にわたって回復しがたい有害な影響をもたらす上、子どもの立場の弱さに乗じて行われるため、第三者が気付きにくく被害が継続する可能性が高いと指摘。

このため、事業者は、子どもに対する性犯罪や性暴力を防止する責務を負っていて、性犯罪歴などを確認する仕組みを導入する必要性が高いとしています。

そして、子どもに対して支配的な関係に立ち、継続的に密接な人間関係を持つ業務などを対象にすべきとしていて、資格制ではない職種も含めるとしています。

また、国が性犯罪歴などの情報を提供できる仕組みを設けることが必要だとしています。

一方で、憲法で保障された職業選択の自由などを事実上、制限することになるとして、仕組みの対象をどこまでも広げることは許されず、必要性や合理性が認められる範囲でなければならないとも指摘しています。

また、プライバシーとの関係で、性犯罪歴などを知ることができる事業者は、情報が漏えいしないよう管理できる人であるべきだとしています。

〈論点1:対象とする事業者の範囲〉

その上で、論点となったのが、対象とする事業者の範囲です。

まず、学校や、認可保育所など児童福祉施設は、公的な関与が大きく、問題が起きた場合の監督の仕組みが整っているとして、すべての設置者に対し、性犯罪歴を確認することを義務づけるべきだとしました。

その上で、そのほかの事業者は、できるだけ広く対象に含めるべきではあるが、「監督の仕組みが必ずしもない」などとして、「認定制」を設けるのがよいとしています。

認定を受けた事業者は国が公表。性犯罪歴の確認が義務づけられ、違反した場合は、ペナルティを科すほか、性犯罪歴の確認を行ったことを定期的に報告させることも求めています。

認定を受けることができる事業者は、認可外保育所や、学童クラブのほか、学習塾やスイミングクラブ、芸能事務所なども想定していますが、そのすべてが対象ではなく、必要な安全対策を取ることができることなどを条件にするべきとしています。

一方、個人が一人で行っている事業者は、安全確保の措置をとることができないなどとして、対象とすることが難しいとしています。

〈論点2:対象とする性犯罪歴などの範囲〉

どのような性犯罪歴を確認の対象とするかについても論点となりました。

裁判所による事実認定を経た性犯罪の前科は対象とすべきとした上で、条例については、都道府県ごとにばらつきがあり、国が把握することに課題があるとして、さらなる検討が必要だとしています。

一方、検察官による不起訴処分については、「起訴猶予については対象とすべきだ」という意見もあったものの、裁判所による正確な事実認定がされていないなどとして、対象にするのは慎重であるべきだとしました。

また、懲戒処分などについても、処分の基準や考え方がまちまちで、対象にすべき内容か個別に国が判断する仕組みを設ける必要があるなどとして、現時点では含められないとしています。

〈論点3:誰が性犯罪歴を確認する?〉

また、性犯罪歴を誰が確認するかについては、本人の同意を得ることなどを条件に事業者に限るべきとしました。

本人が確認すると、子どもと関係しない事業に就職する場合にも、性犯罪歴の確認結果の提出を求められるおそれがあるためとしています。

〈今後の議論は?〉

有識者会議では、まずは現時点で可能な範囲で制度を導入した上で、今後、認定制度の普及状況などを把握して、制度の強化をさらに検討し、段階的に拡充をしていくことが必要だとしています。

有識者会議でとりまとめられた報告書を下に、こども家庭庁は、法案を策定することにしています。

参考にしたイギリスの制度とは

イギリスでは、子どもに関わる職業や活動を行う使用者が、子どもに対する性的虐待などの犯罪歴がある人を雇うことは犯罪にあたると定められ、就業を希望する人の犯歴を照会することが使用者の義務とされています。

そして2012年に今の「DBS制度」が確立しました。
(Disclosure and BarringService=前歴開示・前歴者就業制限機構)

使用者は、就業を希望する人の承諾を得て、DBSに犯歴などのチェックを依頼し、DBSは裁判所による有罪判決のほか、有罪にならなかった事案でも警察官が載せるべきと判断した情報、DBSへの通報などを元に独自に作成した子どもと接する仕事に就けない人のリストを照会し、証明書を求職者本人に郵送するとともに、犯歴などがなかった場合は、使用者にも通知します。

犯歴の照会をする対象は、子どもの教育や世話をする人だけでなく、子どものための車の運転をする人なども含め、一定の期間以上子どもと接する職業が含まれます。

娘が性被害受けた女性 “不起訴など広い範囲を対象に”

有識者会議のとりまとめで、対象とする性犯罪は有罪となったケースとし、不起訴処分や行政による懲戒処分などについては、確認の対象に含めない方向としたことについて、広い範囲を対象に網をかけてほしいと訴える声があがっています。

小学3年生だった娘が、担任の教員から性被害を受けたという女性です。

クラスの多くの子どもたちが日常的に教員から下着に手を入れられるなどの被害を受けていたことが発覚し、教員は懲戒免職処分となりました。

その後、複数の保護者が警察に被害届を提出して書類送検されましたが、本人が否認する中、「子どもたちの証言以外に客観的な証拠がない」などとして、不起訴処分となりました。

女性は、子どもが被害者となる性被害は、被害かどうかを認識することが難しかったり、周囲に相談できなかったりして発覚が遅れることもあり、刑事裁判で有罪となるケースは氷山の一角で、広い範囲に網をかけなければ被害者を救うことはできないと話しています。

女性は、「子どもたちにとっては被害届を出し、学校を休んで検察に行って証言することは大きな負担となったが、子どもたちの証言を証拠として認めてもらえなかった。有罪となったものだけではなく懲戒免職なども広く対象にし、子どもたちを本当に守れる制度にしてほしいです」と話していました。

教員から被害受けた女性 “DBSに期待”

中学生のときに教員から性被害にあった女性は、社会が子どもへの性犯罪を許さないという姿勢を示すためにも、新たな制度に期待すると話しています。

中学3年の時に、人間関係で悩んでいた女性に、いたわることばをかけてくれて優しく接してくれると思っていた教員から、性行為を強要されたといいます。

その後、教員は、別の生徒に対してみだらな行為をしたとして、青少年健全育成条例違反の疑いで現行犯逮捕され、罰金50万円の略式命令となり懲戒免職処分となりました。

しかし、懲戒免職後、ほどなくして塾を開業し、その塾は現在も続いているといいます。

女性は自分と同じような被害にあう子どもが二度と出ないよう、子どもと接する職業に就かせないようにしてほしいと望んでいます。

女性は、「加害者ではなく被害者の側が好奇な目線を向けられ、恥ずかしいという気持ちを持ちながら生きていくのはすごくつらく、傷つきが延々と続く人生だった。この気持ちを子どもたちに絶対に味あわせたくないです。DBS制度ができることは、社会の側が、子どもへの性犯罪を許さないという強いメッセージになると、期待しています」と話していました。