宇宙への道 鳥取砂丘から

宇宙への道 鳥取砂丘から
「宇宙への道が鳥取砂丘から始まる」

プロジェクトに参加する地元企業は熱い期待を寄せます。

宇宙分野の実証実験を行う拠点施設が完成。

どうして鳥取砂丘なのか?

人口が全国で最も少ない鳥取県が力を入れるねらいは?

(鳥取放送局記者 大本亮)

鳥取砂丘と月が結びつく理由

7月7日、鳥取市の鳥取砂丘に、宇宙分野の実証実験を行う拠点施設が完成しました。

その名前は、「ルナテラス」。
「ルナ」は「月」を、「テラス」は「庭園」や「プラットフォーム」を意味するほか、「鳥取の未来を月が照らす」という意味も含まれています。

鳥取砂丘の西側にある鳥取大学乾燥地研究センターの敷地内に整備された、およそ5000平方メートルの「ルナテラス」。

平らな砂地をはじめ、砂の斜面などがあり、月面の環境を想定した実証実験を行えるようになっています。
では、なぜ、鳥取砂丘と月が結びつくのでしょうか。

月面の広い範囲は、細かい砂で覆われていることが知られています。

この細かな砂が、月面探査車をはじめ、さまざまな機械を詰まらせ、故障の原因などになるおそれがあるといわれています。

探査車が、月面の砂が降り積もった起伏のある場所を走行する場合、どのようにすれば安定して動かせることができるかが、月面開発において重要だと指摘されているのです。

鳥取砂丘は、起伏に富み、月面と似ている点があるといわれています。

こうした条件を備えた広い土地は国内にはほかにありません。

そこに注目した鳥取県が4000万円あまりをかけて整備を進めたのが「ルナテラス」です。

月面ではゴム製のタイヤは使用できない

鳥取県によりますと、すでに宇宙ビジネスに携わる複数の企業から「ルナテラス」を利用したいと依頼が来ています。

その1つが大手タイヤメーカーの「ブリヂストン」です。

すでに月面探査車に搭載するためのタイヤの開発を進めています。
タイヤの表面はゴムではなく、金属を編み込んだ特殊な加工が施されています。

昼は110℃、夜はー170℃と、200℃以上もの寒暖差があるとされる月では、ゴム製のタイヤは使用できないといわれています。

このタイヤメーカーでは、これまで広い砂地を備えた実験施設がなかったため、海辺などでテスト走行をしていました。

しかし、塩水で濡れたり、ゴミが落ちていたりして正確な実験データを収集することが難しかったといいます。

「ルナテラス」は、開発の大きな後押しになると考えています。
ブリヂストン次世代技術開発 石山誠 統括部門長
「試作品を完成させたら、実際のフィールドでわれわれの作ったタイヤがねらいどおりの性能を出せているのか試したい。こういうフィールドはこれまでなかったので開発が加速できると期待している」

期待を寄せる県内企業

地元企業からも期待の声が高まっています。

鳥取市にある従業員3人の金属加工会社「MASUYAMA-MFG」では、デジタル技術を使って高い精度で金属加工できる技術を強みに、3年前、宇宙関連ビジネスに進出。
これまでに超小型人工衛星のボディーや、国際宇宙ステーションで使われる顕微鏡などの部品製造に関わってきました。

「ルナテラス」の完成は、弾みになると期待しています。
MASUYAMA-MFG 益山明子社長
「ルナテラスを大手企業が使う中で設計の段階では確認できなかった不具合が発生することも想定されます。部品の提供に加え、不具合の解消につながる提案もできるかもしれないので、名だたる企業と仕事ができるチャンスに期待しています」

“鳥取発”月面探査車の開発を!

この金属加工会社と宇宙ベンチャー企業がタッグを組んで、“鳥取発”の月面探査車を開発する動きも始まっています。

東京・杉並区の宇宙ベンチャー企業「たすく」の古友大輔社長。
月面で探査車を走行させて、映像を最も早く地球に届けることを競う「月面探査レース」に参加した、日本チームの元エンジニアです。

かつて鳥取砂丘で走行実験をしたときから、砂丘が備える条件のよさに注目していました。

探査車の開発に乗り出すのにあたり、ボディーの加工を、鳥取に根づいた益山社長の会社に依頼することにしたのです。

試作モデルの走行試験では…

8月3日、「ルナテラス」で、探査車の試作モデルの走行試験が公開されました。

宇宙ベンチャー企業が開発した、縦横およそ50センチのボディーに、小型カメラが搭載された4輪車です。
実験のポイントは2つ。

1つ目は、探査車の操縦をどこまで簡単にできているかを確認することです。

月面探査では、地球から遠隔で操作することが想定されています。

このため実験では、2キロあまり離れたところから遠隔で操作。

また、開発に直接関わっていない企業の社員たちが、小型カメラの映像だけを手がかりにタブレット端末を使って操作します。
社員たちは実験が始まる前に15分間、操作方法の説明を受けただけでした。

それでも、障害物に接触したり穴に落ちたりせずに探査車を操縦することができました。

実験の2つ目のポイントは、どれだけ安定して走行できるかです。

起伏が激しい月面では、バランスを崩さずに走ることが求められます。

安定性を確認する1つの指標が、タイヤのわだち。

しっかりと土を捉えられていなければ、タイヤの跡に波打つようなゆがみが現れます。

実験では、ねらいどおり走行できていたことを示す、土を捉えたタイヤの跡が濃く、くっきりと残っていました。
長い距離を走らなければタイヤのわだちに異常がないかを確認することは難しく、こうした成果を確認できたのも広大な「ルナテラス」だったからこそだといいます。

走行実験の結果に月面探査車の開発に手応えを感じる内容でした。

今後は、最高時速60キロを目標に、砂や石の上をどれくらいのスピードで安定して走れるかを調べる計画です。

“鳥取発”の月面探査車開発は、来年秋ごろまでに、試験用の探査車の完成を目指しています。

そして3年後の2026年には、実際に月で運用できる水準に到達することが目標です。
たすく 古友大輔社長
「想像していたよりもしっかり走れたという手応えがあった。実証拠点が完成し、人が集まることでイノベーションにもつながるので月面探査車の走行実験を通じ、鳥取の宇宙産業の活性化につなげていきたい。日本の技術をしっかりと月まで届けていきたい」
MASUYAMA-MFG 益山明子社長
「鳥取県内にあるわれわれの会社を認めてもらえてうれしい。仲間がいれば今後も同じような思いを共感していけると思う。月面探査車の実証フィールドが完成し、宇宙への道がここから始まるのだなと感じています」

宇宙ビジネスにかける鳥取県

鳥取県が力を入れるのにも理由があります。

人口が53万8000人あまりと全国で最も少ない鳥取県では、若い世代の県外への流出が続き、深刻な人口減少に直面しています。

若い人たちが魅力を感じて働いてもらえる、新たな雇用の創出は、県の最重要課題の1つです。

こうした中、鳥取県は、年数%の成長率が見込まれるといわれる宇宙ビジネスに注目。

「鳥取砂丘月面化プロジェクト」という政策を打ち出し、県内に宇宙関連産業を創出する取り組みを始めています。

こうした鳥取県の取り組みに賛同する企業は100社以上に上っていて、県外に本社を置く宇宙ベンチャー企業が県内に事業所を構える動きもすでに生まれています。
鳥取県 平井知事
「拠点施設の活用が広がれば雇用が生まれたり、技術開発に携われたりするチャンスは県内にもひらかれてくる。若い人が地元に夢を持つことができるよう、魅力ある産業づくりを進める1つの核に宇宙産業を成長させていきたい」
鳥取砂丘の特徴をいかした「ルナテラス」の完成が、鳥取、そして日本における宇宙ビジネスの進展にどう貢献していくのか、期待が高まります。
鳥取局記者
大本 亮
2016年入局
大津局を経て鳥取局
県政と経済を担当