辺野古工事めぐる裁判 沖縄県の敗訴確定 最高裁が上告退ける

沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設先となっている名護市辺野古(へのこ)での軟弱地盤の改良工事をめぐり、工事を承認しない県に対して国が行った「是正の指示」が違法かどうかが争われた裁判で、最高裁判所は「国の指示は適法だ」として上告を退ける判決を言い渡し、沖縄県の敗訴が確定しました。辺野古への移設に反対してきた県は工事を承認する義務を負うことになり、今後の対応が焦点となります。
4日の動きを振り返ります。

裁判長 “国の指示は適法”

普天間基地の移設先となっている名護市辺野古沖では、区域全体の7割ほどを占める埋め立て予定地の北側で軟弱地盤が見つかり、国が地盤の改良工事を進めるため設計の変更を申請しましたが、県が「不承認」としたため工事が進んでいません。

このため国土交通省は去年、地方自治法に基づき県に承認を求める「是正の指示」を行い、県は取り消しを求める訴えを起こしました。

4日の判決で、最高裁判所第1小法廷の岡正晶裁判長は「国の指示は適法だ」として上告を退け、沖縄県の敗訴が確定しました。

判決は、国土交通省が「是正の指示」を出す前、工事を担当する沖縄防衛局の申請に基づき県の「不承認」を取り消す裁決をしていたことを挙げ、「取り消しの裁決がされた場合、都道府県知事は裁決の趣旨に従った処分をする義務を負う。仮に都道府県知事が裁決後も同じ理由で申請を認めないことが許されると、相手方が不安定な状態に置かれ、紛争の解決が困難となる」としました。

5人の裁判官全員一致の意見で、移設計画の大きな焦点である軟弱地盤の改良工事について最高裁が判断を示したのは初めてです。

確定により県は、国の指示に従い工事を承認する義務を負うことになり、判決を受けた県の対応が注目されます。

裁判までの経緯

アメリカ軍普天間基地の移設先となっている名護市辺野古。

長さ1800メートルの滑走路を2本建設することになっていて、南側では埋め立て工事が進んでいます。

移設計画をめぐって国と沖縄県の間ではこれまで13件の裁判が起こされ、3日までに県が埋め立て承認を取り消したことをめぐる裁判など6件で県の敗訴が確定。4件で和解が成立するか県が訴えを取り下げています。

今回、判決が言い渡されたのは、計画の大きな焦点となっている北側、大浦湾側での工事です。まだ土砂の投入は始まっていません。

軟弱地盤がみつかり、国は改良工事のため設計の変更を申請しましたが、沖縄県は「不承認」に。

このため、国土交通省は去年、地方自治法に基づき県に承認を求める「是正の指示」を行い、県は取り消しを求める訴えを起こしていました。

国側の今後の手続き 2週間後に「勧告」へ調整

4日の判決で、県は、国の「是正の指示」に従って工事を承認する義務を負うことになりました。

国土交通省によりますと、「是正の指示」は地方自治法に基づいていて、県が従わない場合、国が代わりに承認する「代執行」に向けた手続きができるようになるということです。

手続きは、国が県に承認を「勧告」し、従わない場合は承認を「指示」します。いずれの場合も承認の期限を設けます。

県が期限までに承認しない場合、国は高等裁判所に訴えを起こすことができ、裁判所は訴えを認めると、県に承認するよう命令する判決を出します。

そして、高等裁判所の命令を受けても承認しない場合には、国が県の代わりに承認する「代執行」を行うことができます。

複数の防衛省関係者によりますと、関係省庁間で今後の手続きについて検討を進めていて、判決からおよそ2週間後までに県が設計変更の申請を承認しない場合、国土交通省が県に「勧告」を行い、承認の期限をおよそ1週間後に設定する方向で調整しているということです。

さらに県が「勧告」に従わなければ、今度は承認を「指示」し、期限をおよそ10日後に設ける方向で検討を進めているということです。

そして、県が期限までに承認しない場合には、高等裁判所に訴えを起こすことにしています。

松野官房長官 “県は速やかに判決に沿った対応を”

松野官房長官は午後の記者会見で、「変更承認申請を承認しない沖縄県知事の事務処理が違法で、承認するよう求めた国土交通大臣の指示が適法だという司法の最終判断が示されたと認識している」と述べました。

その上で、「政府としては日米で合意された在日米軍施設や区域の整理、統合、縮小をさらに進めていく必要があると考えている。今後とも地元への丁寧な説明を行いながら普天間飛行場の1日も早い全面返還を実現し、基地負担の軽減を図るため全力で取り組んでいく」と述べました。

また、記者団が「玉城知事が承認を拒み続けた場合、代執行の手続きを行う考えはあるか」と質問したのに対し、「コメントは差し控える。沖縄県において判決に沿った対応が速やかにされるものと考えている」と述べました。

一方、防衛省はコメントを発表し、「引き続き、地元の皆さまに丁寧な説明を行いながら、普天間飛行場の1日も早い全面返還を実現するため、辺野古への移設工事を着実に進めていく」としています。

国土交通省は、「最高裁判決に沿って沖縄県で適法に処理されるものと考えている」とコメントしています。

沖縄県 難しい判断迫られる

敗訴が確定したことで、県には国による工事を承認する義務が生じ、名護市辺野古への移設計画の阻止を目指す玉城知事にとっては、難しい判断が迫られることになります。

玉城知事が工事を承認しない姿勢を維持する可能性はありますが、国は、県の代わりに承認を行う代執行に向けた手続きを行う見通しで、工事を阻止するのは難しい状況となります。

また、自治体のトップが司法の最終判断に従わないことに対し、批判を受けることが予想されます。

一方、玉城知事が承認するとなれば、辺野古移設反対を公約に掲げているだけに支持基盤が大きく揺らぎかねず、県政運営にも影響が出るおそれがあります。

玉城知事は、近く知事を支える県議会議員などから今後の対応について意見を聞くことにしていて、県内の世論も見極めながら判断するものとみられます。

玉城知事会見 “極めて残念” 今後の対応 具体的に触れず

最高裁判所の判決について玉城知事は、4日午後6時半から県庁で記者会見を行い、今後の対応については具体的に触れず、判決内容を踏まえて検討する考えを示しました。

玉城知事は、県が敗訴したことについて、「地方自治の本旨を踏まえた公平・中立な判決を最後まで期待していただけに極めて残念です」と述べました。

そして、判決について、「地方公共団体の主体的な判断を無にするものであり、地方公共団体の自主性や自立性、ひいては憲法が定める地方自治の本旨をもないがしろにしかねないものであり、深く憂慮せざるを得ない」と述べました。

その上で、今後の対応については、判決内容を踏まえ、検討していく考えを示しました。

また、玉城知事は「判決が出ても、私が、沖縄における過重な基地負担の軽減、普天間基地の1日も早い危険性の除去、辺野古新基地の断念を求めるという意思に、全く変わりはない。引き続き、対話による解決を求め続けてまいりたい」と述べ辺野古移設反対の姿勢を維持する考えを示しました。

さらに、玉城知事は、「政治姿勢と行政の判断の整合性をどうとっていくのか、知事という仕事にとっては最も重要だ。公約で訴えたことをこれからも、ぶれずに、頑張っていきたい」と述べました。

今回の判決を受けて、県は国の指示に従い工事を承認する義務を負うことになりますが、仮に玉城知事が承認した場合、これまで一貫して辺野古への移設反対を掲げてきただけに、支持基盤が大きく揺らぎかねず、県政運営に影響が出るおそれがあります。

一方で、承認しない場合でも、国が県の代わりに工事を承認する「代執行」に向けた手続きを始めるとみられ、玉城知事にとっては、難しい判断が迫られています。

名護市長 “県と国の対応見て対応”

沖縄県の敗訴が確定したことについて、アメリカ軍普天間基地の移設先となっている名護市の渡具知武豊市長は、「判決は県と国に対して示されたものであり、これを受けて県や国から今後、何らかの対応が示されるものと考えているが、判決の内容について詳細を確認していないため、これ以上のコメントは差し控えたい。県と国の対応が明確化する時点において、今後の名護市としての対応をとっていきたい」と述べました。

宜野湾市長 “普天間返還 大きく動くのでは”

沖縄県の敗訴が確定したことについて、普天間基地を抱える宜野湾市の松川正則市長は、裁判の当事者ではないのでコメントは難しいとした上で、「宜野湾市ではさまざまな事故を経験し、1日も早い普天間飛行場の閉鎖・返還や返還までの危険性の除去を求めてきている。今回の判決によって大きく動くのではないかと期待しています」と話しました。

共産党 小池書記局長 “極めて不当な判決 将来に禍根”

共産党の小池書記局長は記者会見で、「自民党政権による県民の民意も地方自治も無視した基地の押しつけを追認する、極めて不当で重大な判決で、将来に禍根を残すものだ。岸田政権は県民の民意を正面から受け止め、普天間基地の即時運用停止、閉鎖撤去に取り組み、辺野古新基地建設をきっぱり断念すべきだ」と述べました。

住民からは賛否

今回の判決について、辺野古の商工会の理事を務め、条件付きで移設を容認している玉利朝輝さん(64)は、「移設工事が進んでいるなか、今回の判決は妥当だと思います。県はこれ以上、国と争うのはやめて、国と名護市と一体となって辺野古周辺の地域にメリットのある振興策を考え、推進していってほしいです」と話していました。

一方、辺野古沖から4キロほど離れた大浦湾に面した安部地区に住む比嘉敏光さん(72)は、移設に反対の立場で、「残念な判決となりましたが基地ありきで物事が進んでいるので沖縄県が国に勝つとは思っていませんでした。豊かな海を埋め立て、1度失われた自然は元に戻らないことを全国の人に知ってほしいです」と話していました。

抗議活動続ける人たちから 落胆の声

沖縄県が敗訴したことを受けて、キャンプ・シュワブのゲート前で抗議活動を続ける人たちからは、落胆の声が聞かれました。

抗議活動の中心になっていた浦添市の瀬長和男さん(60)は、「また門前払いかという思いだ。国は県民に丁寧に説明すると何度も言ってきたにも関わらず一度も説明していない。私たちは戦争につながる一切のことを受け入れない。沖縄戦の体験から戦争に反対している県民の声はどうやったら届くのだろう。新基地建設の疑問は誰が解決してくれるのだろうという思いが今日の判決で、ますます高まった」と話しました。

また、宜野湾市の屋良朝敏さん(74)は、「沖縄県の意向や課題を無視してこういう判決となるのはどう考えてもおかしい。国土面積の0.6%しかない沖縄に全国の7割のアメリカ軍の専用施設があり、沖縄はアメリカ軍の金網だらけだ」と話していました。

集まった人たちは、キャンプ・シュワブに工事車両が出入りする場所で座り込みをし、命の大切さや未来の子供たちへの思いなどを込めた歌を歌っていました。

そして、機動隊に退去を促されて座り込みが解除されると、抗議の間、基地内に入れずにいた10台以上のトラックが次々と基地の中に入っていきました。

専門家 “国と地方は対等の関係 地方の意見 十分に聞く必要”

4日の最高裁判所の判決について、総務省の元官僚で地方自治に詳しい片木淳弁護士は、「地方分権の改革で国と地方は対等の関係にあると位置づけられているが、今回の判決は沖縄県やほかの自治体関係者にとって納得がいくのか疑問に思う。県民投票や選挙で示されてきた沖縄県民の意思には大きく反する結果となり、玉城知事は苦渋の決断を含めてさまざまなことを考えなければならないだろう」と話していました。

また、国に対しては、「この問題に限らず、地方に関係する事業を進める場合には地方の意見を十分に聞いて進めていく必要がある」と指摘していました。