「授乳したいのに…多目的室が使えない」特急列車でなぜ?

赤ちゃんを連れてのお出かけ。
慣れないところに行く時だと、授乳やおむつ交換が安心してできる場所があるかどうか気になりますよね。

新幹線や特急列車にある「多目的室」という設備は、授乳などに使うことができます。

ただ、私たちのもとに、子どもを連れて特急に乗ったという人からこんな情報が寄せられました。

「多目的室で授乳やおむつ交換をしたかったんですが、使えなかったんです」

いったい何があったんでしょうか。

(機動展開プロジェクト 記者 岡本潤)

「多目的室が使えない」何が起きた?

NHKの情報提供窓口「ニュースポスト」に寄せられた投稿とJR東日本への取材をもとに、何が起きたのかを振り返ります。

情報を寄せてくれたのは、都内に住む女性です。
それによると、ことし7月、帰省先から戻るため、JR東日本の特急「ときわ」を利用しました。生後3か月の息子と2人きりでした。

乗車中、授乳やおむつ交換をしようとした女性。
5号車に設置されている多目的室に向かったそうです。

「多目的室」は広さが1畳ほど。
ベッドにもなる折り畳み式のいすなどが設けられています。
体調を崩した人が休憩する時に使うほか、授乳やおむつ交換のために利用することも可能です。

一部の新幹線の多目的室は、車いすを利用している人については事前に予約ができますが、JR東日本の特急列車は予約はできません。

ふだんは鍵がかかっていて、利用したい時に車掌に声をかけ、そのつど、鍵を開けてもらう仕組みです。

女性は車掌が巡回してくるのを待ちましたが、なかなか来ませんでした。

そのため、5両離れた最後尾の車両にある乗務員室まで行き「多目的室を使わせてほしい」と車掌に伝えたといいます。

しかし、車掌からこう告げられました。

「ここから離れられないので、多目的室の鍵を開けられないんです」

女性は多目的室を使うことを諦めざるをえませんでした。

女性からの投稿には、こう記されていました。

「安全確認のため離れられないのだと思いますが、そうであれば、自由に動ける車掌さんはどこにいるのでしょうか。利用できるはずの多目的室が使えず、長時間授乳ができなかった私は、なんとか家にたどりついたあと、体調を崩してしまいさんざんでした。赤ちゃんは車内で泣き叫び、精神的にもとても苦痛でした」

なぜ、車掌は乗務員室を離れられなかったのでしょうか。

JR東日本は私たちの取材に対し「機器類の一部に不調が見つかり、対応する必要があった」としています。

この列車には車掌が1人しかおらず、ほかに対応できる人はいませんでした。

JR東日本は「不便と不快な思いを感じさせてしまい大変申し訳ない」と陳謝しています。

授乳・おむつ交換は親にとっては一大事

今回の件、小さい子どもを持つ親の皆さんはどう受け止めるんでしょうか。

都内で聞いてみると、公共交通機関を使うとき、授乳やおむつ交換にはかなり苦労や工夫をされているようでした。

6歳と2歳の子どもの母親
「多目的室があるのは知っていましたけど、車掌さんに伝えてから使わないといけないので、違う方法で済ませてしまうことが多いですね。授乳するときは座席で、夫に壁になってもらって周りから見えにくいようにします。あとは、哺乳瓶でミルクをあげるか」

6か月の子どもの母親
「出かけるときには、おむつを替えられる場所がどこにあるかを調べてから行きますし、外ではなるべくミルクをあげます。どうしてもおむつを替える場所がなければ、ベビーカーの上で替えることもありますよ。だって、我慢してとは言えませんからね」

9か月の子どもの母親
「事前にその授乳できる場所を探しておいて、着いたら行くことにしていますが、予定を立てるのが毎回大変です。多目的室でいえば、ボタンで車掌さんを呼べればありがたいですね」

そもそも、なぜ施錠が必要?

ただ、そもそも気になるのが「なぜ、ふだん多目的室は施錠されているのか」ということです。

その疑問に答えてくれたのが小田急電鉄。
東京・新宿と箱根とを結ぶ特急列車に、多目的室が設置されています。

ここでも、ふだんは施錠されていて、使いたいときに車掌に声をかけることになっています。

会社によりますと、施錠されている理由の一つは、誰もが勝手に利用することができるようにしてしまうと、体調を崩した人が休んだり、授乳やおむつ交換をしたりと、本当に必要な人が必要なタイミングで使えなくなってしまうからだそうです。

もう1つが、保安上の理由です。

多目的室は外から中の様子が確認できないため、車掌が不在の時に利用されると、誰がどのように使っているのかを把握できません。

これも大きな理由だそうです。

この会社でも特急列車の車掌は1人だけで、発着時のドアの開閉や車内の巡回などさまざまな業務がある中、すぐに対応できない可能性はあるとしています。

そのため「多目的室を使うかもしれない」と思ったら、事前に伝えてほしいと呼びかけています。

小田急電鉄 海老名乗務所 主任車掌 葉山昌亨さん
「車掌としてはなるべく早く使っていただきたいと思っています。そのため、一つ一つの業務が終わったら、お客様に声かけするよう努めています。授乳やおむつ交換で使用する可能性があれば、乗車時などに車掌にお声がけいただければご案内しやすくなりますので、お気軽にご相談ください」

新幹線ではより使いやすくする取り組みも

保安上の観点などを踏まえれば施錠が必要なのはよくわかりますが、赤ちゃんを連れて長時間列車に乗る人のことを思うと「使いたいときに、すぐに使えればいいのに」と思います。

そうした中、少しでも多目的室が使いやすくなるようにと、東海道新幹線ではこの秋、新たな取り組みが始まります。

11月からは、すべての列車で多目的室の入り口にQRコードが貼り付けられます。

スマホで読み取れば、乗務員が離れた場所にいても利用したいことが伝わり、鍵を開けてもらえるというものです。

ほかに希望者がいる場合、何人が待っているかも確認できるようになるそうです。

小さな子どもを持つ人にとって、さまざまな困難がある公共交通機関での移動。
せっかくある設備ですから、少しでも使いやすいものにしてほしいと思いました。

身近な困りごとの情報お寄せください

NHKでは、ふだんの生活で皆さんが直面した困りごとなどについて、ニュースポストに寄せられたもとに、取材を展開しています。

なんとかしてほしい“半径5メートル”の困りごと、子育ての困りごとなどこちらのニュースポストにぜひ、情報をお寄せください。