「待機児童」全国2600人余 5年連続で過去最少 こども家庭庁

保育所などの空きを待つ「待機児童」はことし4月時点で全国で2600人余りと、調査開始以降最も少なくなったことが分かりました。こども家庭庁は、保育の受け皿の拡大や就学前の子どもの減少などが要因だとしています。

こども家庭庁によりますと、保育所などの空きを待つ「待機児童」はことし4月の時点で全国で2680人でした。

去年と比べて264人減少し、調査を開始した平成6年以降で最も少なくなりました。

過去最少を更新するのは5年連続です。

都道府県別では多い順に
▽沖縄県が411人
▽埼玉県が347人
▽東京都が286人
▽兵庫県が241人
▽神奈川県が222人などとなっています。

待機児童がいなかったのは、青森、山形、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、岐阜、鳥取、島根、長崎、大分、宮崎の15の県で、去年から1県増えました。

待機児童の減少についてこども家庭庁は、保育の受け皿の拡大や、就学前の子どもの数が想定以上に減少し、申込者数が見込みを下回ったことなどが要因だとしています。

一方で、特定の地域で申し込みが集中するなど需要に偏りがあることや、保育士が確保できず定員が減少したことなどから待機児童が増加した地域もあるということです。

また、ことし4月の保育所などへの申込者数は減少したものの
▽共働き世帯の割合の増加や
▽コロナ禍の利用控えが大きく減少したことなどから、今後の推移を注視していく必要があるとしています。

こども家庭庁は自治体と連携しながら受け皿の確保に向けた支援などを続けるほか、今後は、保育所や保育士のもつノウハウを活用した子育て支援の取り組みを地域の中で行うなど、保育所などの多機能化も進めていくとしています。

専門家「安心して保育を提供できる状況になっていない」

保育の問題に詳しい日本総合研究所の池本美香上席主任研究員は、待機児童が5年連続過去最少となったことについて「施設の整備を進めた成果が出て、待機児童が減少しているともいえるが、一度ゼロになった後に再び増えた自治体もあり、地域差無く、すべての子どもが確実に保育所を利用できるという見通しが持てる状態にはなっていない」と分析しています。

そのうえで「現状では処遇の低さや配置基準の問題で現場の負担が大きく、事業者や働く人が先を見通して安心して保育を提供できる状況になっていない。保育所に求められる役割も増える中、やりがいをもって働くことができる環境に変えるとともに、今後の保育制度の在り方そのものを議論し、現場に方向性を示すべきだ」と話していました。

東京 文京区 「待機児童」初めてゼロに

「待機児童」が初めてゼロになった東京 文京区。

保護者からは入園しやすくなった状況を歓迎する声が聞かれました。

文京区では待機児童の数がおととしは1人、去年は2人と減少傾向で、ことし4月時点で初めてゼロになりました。

区立の認可保育園「本駒込保育園」では、0歳児から5歳児までの定員99人のうち、1日時点で0歳児は5人、5歳児は2人の空きがある状態です。

園によりますと、待機児童数が多かった10年ほど前は、0歳児から2歳児までの申し込みが多く、希望がかなわない保護者が目立ったといいます。

文京区によりますと、区の待機児童は平成21年以降、最も多いときで111人に上っていましたが、保育所の整備を進め受け皿の確保に努めてきました。

この保育園でも、ことし4月時点で0歳児の定員10人に対して入園したのは2人と、これまでで最も少なく定員に余裕があることから、1日からは新たに0歳児3人が入所することになり、保育士たちがロッカーに名前を貼り付ける作業などを行っていました。

ことし4月に1歳の子どもが入園した保護者は「1人目の時は4月に入れず、年度途中にようやく入れました。いまは定員割れの園もあると聞き、入園しやすくなってありがたいです」と話していました。

早川由美子園長は「以前は『0歳から入れないと保育園に入れない』と悩む保護者もいましたが、いまは選択肢も増えてゆとりをもって入園希望を出している印象です。一人ひとりの成長に合わせた関わりができていると思います」と話していました。

一方で、区の担当者は地域ごとにみると定員に余裕がない園もあるとしたうえで、マンションなどの建設が進めば今後、待機児童が再び発生する可能性もあり状況を注視したいとしています。

文京区幼児保育課の奥田光広課長は「待機児童がゼロになり、ひとまず安心しています。保護者のニーズを聞き取りながら保育サービスを展開していきたい」と話していました。

滋賀 守山 「待機児童」全国で最も増加

滋賀県守山市では、待機児童の数が去年より73人多い82人と全国で最も増加しました。

守山市によりますと、待機児童の数が特に増えているのが1歳から2歳の子どもで、
▽1歳児が去年より50人増えて52人
▽2歳児が去年より18人増えて25人と急増しています。

守山市は、京都市まで電車でおよそ30分という利便性から子育て世帯が相次いで流入していることや、一部の保育施設で保育士を十分に確保できていないことが要因とみています。

これを踏まえて、守山市は予算を確保し、0歳から2歳までに限って受け入れる保育施設を来年春に新たに2か所開設するほか、民間の保育施設に対して常勤の保育士を1人採用するごとに20万円から30万円交付することを決め、こうした施策によって待機状態の解消を目指すとしています。

守山市で0歳児を育てている40代の女性は「ことし6月に保育園をさがしましたが、どこもいっぱいで入れませんでした。来年には職場に復帰したいのですが、見つかるか不安です」と話していました。

守山市こども政策課の頴娃隼人係長は「市の人口は今後も増加し、保育を必要とする子どもの数は横ばいか微増で推移すると見込んでいます。保育士不足の解消と子どもの受け皿の確保に一層取り組んでいきます」と話していました。

さいたま 「待機児童」増やさない取り組み進む

保育施設の利用者が全国で最も増加した一方で、待機児童の数は2年連続でゼロとなったさいたま市では、既存の幼稚園を活用するなど待機児童を増やさないための取り組みが進められています。

さいたま市は、人口の増加にともなって保育施設の利用者が2万8769人と去年から1271人増加して全国で最も多くなった一方、待機児童の数は2年連続でゼロとなりました。

さいたま市では土地を確保して新たな保育施設を建てることは難しいとして、夕方まで預かり保育を行う幼稚園を増やすことで保育の受け皿とする取り組みを進めています。

このうち、市内の浦和つくし幼稚園では、13年前から始めた預かり保育の時間をことし4月から最長で午後6時45分まで延長していて、午後から時差出勤する専属の職員も配置しています。

今では380人余りの園児のうち3分の1近くが利用しています。

さらに、さいたま市では駅から離れた幼稚園でも通えるように、駅の近くに複数の幼稚園バスが立ち寄る「送迎保育ステーション」を設置しました。

ここでは、朝、保護者が園児を送り届けてバスが到着するまでと、夕方、幼稚園が終わって保護者が迎えに来るまでの間、保育士が子どもたちを預かる仕組みで、ことし4月までに市内の3か所に整備しました。

こうした取り組みから、さいたま市で預かり保育を実施する幼稚園の数は令和元年度は市内に17と全体の幼稚園の16%でしたが、今年度は48と30ポイント増えて46.6%となっています。

この仕組みで3歳の子どもを幼稚園に通わせている30代の父親は「駅から遠い幼稚園は通えなかったが、預かり保育と送迎ステーションがあれば通わせられます。本当に助かっています」と話していました。

さいたま市幼児・放課後児童課の浅野泰弘課長補佐は「都内に働きに出る人のニーズが集まる便利なエリアには、簡単には保育施設を確保できない事情もある。近年は共働きの人が増えていて幼稚園も保育の受け皿になるよう取り組みを進めたい」と話しています。

東京 日野 人手不足などが課題

東京 日野市では、ことし4月の時点では待機児童が33人と去年から倍以上に増加していて、このうちの大半が1歳児だということです。

市では待機児童の解消に向けて市内の保育園に要請し、1年限定で1歳の子どもの一部を受け入れてもらっていて、このうち「わらべ日野市役所東保育園」では定員のほかに4人を受け入れています。

1歳のクラスでは、国の配置基準よりも手厚くした市の独自基準にしたがって子ども5人に対し1人となるように保育士を配置していますが、おやつや食事の時間でつきっきりでの対応が必要な子どもがいるほか、感染対策や熱中症対策の水分補給などの業務もあり、余裕がある状況ではないといいます。

また人手不足も課題で、園ではほかの年齢でも国の配置基準よりも多く人員配置ができるよう保育士を雇用していますが、常時募集しているもののことしは新卒の採用ができませんでした。

また、これまでに仲介業者の紹介で2人を採用したということですが、紹介料の負担が必要で、園ではこれ以上の定員の枠を上回る受け入れや地域からの要望がある一時預かりは現状では難しいとしています。

佐藤順子園長は「月齢の差で発達段階が違うので子どもにあわせたサポートをするためには国の基準を上回る数の保育士が必要ですが、連絡帳の記入など事務的な業務もあり、現場の保育士一人ひとりの負担は大きいと思います」と話していました。

そのうえで「職場環境や待遇の問題で保育士を志望する人が少ないことや、資格はあるけれども働いていない人もいると思います。手厚い保育をするためにも保育士の配置基準を見直してほしいですし、国や行政には保育現場の状況を知ってほしい」と話していました。

松野官房長官「支援 さらに強化」

松野官房長官は午後の記者会見で「待機児童数は着実に減少しており、これは令和3年度からスタートした『新子育て安心プラン』に基づく保育の受け皿整備が各地方自治体で適切に進められた結果などによるものと考えている」と述べました。

そのうえで「引き続き、待機児童の解消に向けて地方自治体と連携しながら地域の実情を踏まえた支援をさらに強化するなど全力で取り組んでいきたい」と述べました。