経産省「賃上げ税制」延長や拡充を要望 来年度の税制改正

来年度 令和6年度の税制改正に向けた各省庁からの要望が出そろい、経済産業省は賃上げに積極的な企業の法人税を軽減するいわゆる「賃上げ税制」について期限の延長や内容の拡充を要望しました。

各省庁は、31日までに来年度の税制改正要望を財務省と総務省に提出しました。

このうち、経済産業省は「賃上げ税制」の延長や拡充を要望しました。

この税制は、企業の賃上げの取り組み状況に応じて、給与総額の増加分のうち大企業で30%、中小企業で40%を上限に法人税の税額から控除=差し引く減税措置です。

要望では、継続的な賃上げを実現するため、来年3月末までの期限を大幅に延長するとともに、中小企業については、給与の増加分のうち控除額の上限を超えた分を翌年度以降に繰り越すことができるよう求めています。

経済産業省と内閣府などは、国内に研究開発の拠点を誘致し、企業の競争力を高めるため、企業が国内での開発で取得した特許などの知的財産から生じた所得に、優遇税率を適用する新たな制度を設けることを要望しています。

国土交通省は、厳しい経営状況が続いている地方の公共交通の再編に向けて、鉄道事業者が保有する駅や線路といった設備や周辺の土地などを別の事業者に譲渡した場合、引き取った側が支払う登録免許税や不動産取得税の減税や免税を求めています。

このほか、厚生労働省は、法人税の算定の際に、企業が行う会食などの交際費を税務上認められる経費として算入できる措置について、このところの物価上昇をふまえ1人あたり1回5000円以下となっている上限の引き上げを求めました。

政府・与党は来年度の税制改正を年末までに決める方針です。

退職金への課税・高校生の扶養控除の扱いが注目

年末に向けた税制改正の議論では、各省庁からの要望項目のほかにも退職金に対する課税や、児童手当の拡充に伴う高校生の扶養控除の扱いが注目されます。

政府は、ことし6月に閣議決定した「新しい資本主義の実行計画」で退職金にかかる所得税の見直しを盛り込みました。

現在は、退職金を「一時金」として一括で受け取る場合、勤続年数が20年までは1年につき40万円が退職所得から控除=差し引かれます。

一方で、20年を超えた分は控除額が1年あたり70万円に引き上げられ、勤続年数が長いほど税負担が軽くなる仕組みになっています。

「実行計画」では、この仕組みが本人の選択による転職を抑制して労働市場の活性化を妨げているのではないかという観点から、「制度を変更した際に伴う影響に留意しながら税制の見直しを行う」としています。

ただ、終身雇用を前提とした働き方が広がってきた日本では、退職金を住宅ローンの返済や老後の生活資金にあてようと計画している人も少なくないと見られます。

控除額が大幅に減るような見直しが行われた場合、影響も大きいと予想され、年末に向けて具体的な議論が進むかが注目されます。

一方、政府が少子化対策の強化に向けて児童手当の支給を高校生まで拡大するのに伴って、親などの所得税や住民税の「扶養控除」の扱いも焦点となります。

現在、16歳から18歳までの親族を扶養している場合、課税対象の所得から所得税は年間38万円、住民税は年間33万円が控除されています。

一方で、児童手当の対象となっている中学生以下の子どもは、扶養控除の対象から外れています。

高校生が児童手当の対象となった場合、今の制度では手当と控除の両方のメリットを受けられることになりますが、こうした設計は妥当なのかという指摘も出ています。

政府はことし6月に閣議決定した「こども未来戦略方針」で「中学生までの取り扱いとのバランスなどを踏まえ、高校生の扶養控除との関係をどう考えるか整理する」としていて、今後の議論が注目されます。

防衛費増額の財源へ 増税の開始時期に焦点

年末に行われる税制改正の議論では、防衛費増額の財源に充てるための増税の開始時期も焦点となります。

政府・与党は、去年12月にまとめた税制改正大綱で、防衛力の抜本的な強化に必要な財源として、法人税・所得税・たばこ税の3つの税目の増税を決めた一方で、開始時期については「2024年以降の適切な時期とする」としました。

ただ、与党内では「増税の開始時期はできるだけ先送りすべきだ」という意見が根強く、ことし6月に閣議決定した「骨太の方針」では、「2025年以降のしかるべき時期とすることも可能となるよう、税金以外の収入なども踏まえ、柔軟に判断する」とされました。

自民党の宮沢税制調査会長も先月、党の税制調査会の幹部による協議が行われた際、記者団に対し「与党内での議論や関連法案を成立させるためのスケジュールを考えれば、増税開始は2025年以降になる」という認識を示しています。

また、自民党内では防衛費増額の財源をできるだけ増税以外で賄おうと政府が保有するNTTの株式の売却を検討する議論も始まっています。

年末の税制改正の議論では防衛増税の開始時期をどこまで具体的に決められるかが焦点となります。

後藤経済再生相「年内に詳細な指針策定」

後藤経済再生担当大臣は会議のあとの記者会見で「賃金の安定的な引き上げには中小・小規模企業の労務費の円滑な転嫁が必要だ。年内に発注者側のあるべき対応も含め詳細な指針を策定し、周知徹底を図っていきたい」と述べました。