海外パビリオン遅れに危機感 政府主導で準備加速の考え

再来年の大阪・関西万博をめぐり、岸田総理大臣は関係閣僚や大阪府の吉村知事らとの会合を開き、海外のパビリオン建設に遅れが生じていることなどに危機感を示したうえで、予定どおりの開催に向けて政府が主導して準備を加速させていく考えを強調しました。

再来年の大阪・関西万博に向けて岸田総理大臣は31日、総理大臣官邸で、岡田万博担当大臣ら関係閣僚のほか、大阪府の吉村知事や実施主体の博覧会協会でトップを務める経団連の十倉会長らとの会合を開きました。

岸田首相「成功に向け先頭に立って取り組む決意」

この中で岸田総理大臣は、資材価格の高騰などを背景に海外のパビリオン建設に遅れが生じていることなどに触れ「準備はまさに胸突き八丁の状況だ。極めて厳しい状況に置かれていることを改めて直視し、正面から全力で取り組んでいかなければならない」と危機感を示しました。

そのうえで「万博の成否は国際社会からの日本への信頼がかかっている。総理大臣として成功に向けて政府の先頭に立って取り組む決意だ」と述べ、予定どおりの開催に向けて政府が主導して準備を加速させていく考えを強調しました。

そして、博覧会協会の体制を強化するため、財務省や経済産業省などから局長級の幹部を派遣する方針も明らかにしました。

建設関係の団体 建物の仕様など情報提供求める声

再来年の大阪・関西万博で、海外のパビリオン建設に向けた準備の遅れが指摘される中、大阪府と大阪市、それに博覧会協会は31日、関西の建設関係の団体の代表者などと懇談会を開き、出席者からは、建物の仕様などに関してより詳細な情報提供を求める声が上がりました。

大阪・関西万博をめぐっては、海外の国や地域がみずから費用を負担して56のパビリオンを建設する予定になっていますが、準備の遅れが指摘されています。

大阪府と大阪市、それに実施主体の博覧会協会は31日、関西の建設業でつくる団体の代表者などとパビリオン建設の課題などについて意見を交換する懇談会を開きました。

懇談会は非公開で行われましたが、博覧会協会などによりますと、出席者からは工事に協力できるのかを判断するためにも、パビリオンの具体的な仕様やどのような工事が必要になるのかなどについて、より詳細な情報を提供してほしいという声が上がったということです。

出席した吉村知事は懇談会後、記者団に対し「非常に重要なのはやはり情報の共有だ。個別の情報も含めて、いかにうまく共有していくかが重要だ」と述べました。

海外パビリオン 当初は3種類を設定

博覧会協会は当初、海外パビリオンの設置について参加国が建物の形状やデザインを自由に構成する「タイプA」、協会が建物を建築して参加国が借り受け、単独で入居して内装や外装のデザインを決める「タイプB」、そして、協会が準備する建物に複数の国がまとまって入居する「タイプC」の3種類を設定していました。

「タイプA」は、みずからパビリオンを建築するため「B」や「C」と比べて独自性を表現しやすく、「万博の華」として注目される一方、費用の負担が大きく準備にも時間がかかります。

新たな選択肢「タイプX」とは

建設準備の遅れが指摘される中、協会は「タイプA」を予定している参加国に通称「タイプX」と呼ばれる新たな選択肢を提示しました。

「タイプX」は建設費用は参加国が負担しますが、組み立て式の箱形の建物を協会が建設して参加国に引き渡し、内装や外装のデザインは参加国が決めます。

協会は、敷地に合わせて▽300平方メートル、▽500平方メートル、▽900平方メートル、▽1200平方メートルの4つのパターンを提示しています。

また、外装の例として幾何学模様や木材を格子状にしたものなどを示しているということです。

工法や建物自体のデザインを簡素化するとともに協会が工事を行うことで準備を加速させ、再来年4月の開幕に間に合わせるのがねらいです。

協会は、必要な支援策などとあわせ、「タイプX」を含めてどのような形式で参加するのかを31日までに回答するよう求めていて、西村経済産業大臣は30日、複数の国が「タイプX」の採用を検討していることを明らかにしました。

「タイプA」各国の準備状況や今後の方針は

NHKは「タイプA」のパビリオンを予定している60か国のうち、31か国の大使館などに準備状況や今後の方針についてたずねました。

30日までに13か国から回答があり、このうち韓国、カナダ、イタリアなど5か国が予定どおり「タイプA」で建設を進めると明言しました。

すでに基本計画書を提出している韓国の関係者は「来月以降に工事業者と施工契約を交わし、10月以降にパビリオンのテーマを発表できる見通しだ」としています。

また、カナダの担当者は「秋以降に大阪市に基本計画書を提出する予定だ。準備は自国の計画に基づいて順調に進んでいる」としています。

一方で、回答を寄せた残りの8か国の中には予定どおり「タイプA」で進めるかについて明確な回答を避ける国があったほか、「差し控える」と答えた国もありました。

「タイプA」予定のイタリアは

「タイプA」のパビリオンを予定しているイタリアの責任者、マリオ・ヴァッターニ氏がオンラインでのインタビューに応じました。

イタリアは今月中旬、日本の建設会社を含む企業のグループと契約を交わしたということで、ヴァッターニ氏は「パビリオンのデザインと建設を一体で提案してもらう入札を行ったことで、困難なく契約に至ることができた。日本とイタリアの企業どうし協力はとてもうまくいっていて進捗に満足している」と述べました。

そのうえで「万博は各国の文化や世界の技術革新に直接触れられる機会であるのに加え、各国共通の課題への解決策を示すという意義がある。イタリアと日本は高齢化や資源の問題など共通の課題を多く抱えており、すでに一緒に取り組んでいることもあるため、パビリオンではそうしたものも発信していきたい」と述べました。

一方で、ヴァッターニ氏は懸念していることとして、会場となる人工島、夢洲への建設作業員の出入りや資材の搬入が滞らないかや、来年から建設業界での時間外労働の規制が強化されるいわゆる「2024年問題」の影響などを挙げ「現時点で具体的な問題が出ているわけではないが、大きな関心を持っている。検討すべき技術的な課題を日本側と密に連携して解決し、建設に取り組んでいきたい」と話していました。

海外パビリオン建設に向けた課題

海外パビリオンの建設に向けては、アクセスが限られている会場の人工島、夢洲に資材や建設作業員をどのように運ぶのかという点も課題になっています。

夢洲につながる道は、北にある人工島、舞洲とを結ぶ橋と南にある人工島、咲洲からつながるトンネルしかありません。

博覧会協会や大阪市は一日に最大でおよそ5100台の工事車両が通行すると想定し、混雑への対策として舞洲と結ぶ橋の車線を片側2車線から3車線に増やしました。

また、今後、混雑が予想される周辺の道路の車線を増やすほか、資材を船で夢洲に搬入するためのコンテナターミナルの態勢強化も検討することにしています。

しかし、建設の準備が後ろ倒しになって工事が集中すると、想定以上に道が混雑し搬入が滞るおそれがあります。

また、作業員についても広域から集めることになった場合の宿泊先の確保や、夢洲までどのように運ぶかが課題になっています。