処理水放出1週間 中国の日本産水産物輸入停止で各地に影響

東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出が始まってから31日で1週間です。
中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止したことで、各地に影響が広がっています。

宮城 水産加工会社 “ホタテ約100トン 4億円相当”出荷できず 

宮城県内の水産加工会社の中にはホタテの出荷量が大きく減ったというところもあり影響の広がりが懸念されます。

今月24日に福島第一原発にたまる処理水の海への放出が始まったことを受けて、中国の税関当局は日本産の水産物の輸入を全面的に停止しました。

中国は日本の水産物にとって最大の輸出先で、輸出額の半数をホタテが占めています。

宮城県石巻市の水産加工会社「ヤマナカ」は週に1回、香港にホタテの貝柱を生の状態で出荷していましたが、放出後は出荷が止まっているということです。

また、国内向けとして市場に出しているホタテも放出日以降、買い手が付きにくくなったため、現在の1日の出荷量は放出前の半分から3分の2程度に減ったとしています。

こうした影響もあり、早めに仕入れていたホタテおよそ100トン、4億円相当が倉庫の中で出荷できない状態だということです。

千葉賢也社長は「保管するだけでも大きな負担ですが、この先も販売先がないのではないかと懸念しています。『放出前に水揚げしたホタテをお願いします』という話も聞こえてきていて、販売に制限がかかると、商売への影響は大きいと感じます」と話していました。

高知 水産事業者「長期的な影響は計り知れない」

中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止したことで、高知県内の水産事業者にも影響が出ています。

このうち大月町でマグロなどの養殖事業を手がける「道水中谷水産」は、中国に向けてクロマグロとハマチを輸出していますが、先月はじめに中国側の通関が滞るようになり、輸出を止めざるを得なくなったということです。

この会社の中国向けの出荷量は、クロマグロは全体の17%、ハマチは全体の10%をそれぞれ占めているということです。

唐澤薫社長は「中国本土だけではなく、香港やマカオへの輸出も止まっているため、養殖業全体への影響は大きい。クロマグロは例年10月ごろから出荷量が増えるので、長期的な影響は計り知れない」と話しています。

また、宿毛市でブリの養殖や加工・販売を手がけている「勇進」は、ことし初めて中国に輸出した「ブリのわら焼きタタキ」が好評だったため、来年は倍の3トンを輸出する予定だったということです。

しかし、輸出できるかが見通せなくなり、代わりの販売先が見つからなければ、およそ900万円の損失につながるということです。

福島 卸売市場で変わらぬ取り引き 高値の落札も

福島県いわき市の中央卸売市場では福島沖で水揚げされた魚が放出前と変わらない様子で取り引きされ、中にはふだんより高値で落札されるものもありました。

いわき市中央卸売市場では、31日朝6時ごろから取り引きが始まり、競り場には福島沖で水揚げされたタイやスズキ、それにヒラメなどの魚が並びました。

威勢のよい掛け声が響き渡り、「常磐もの」を代表するヒラメの中にはふだんより1割ほど高値で落札されるものもありました。

処理水の放出をめぐっては水揚げされた魚への風評被害が懸念されていますが、この市場によりますと、これまでのところ取り引き価格に大きな変化はないということです。

いわき市で水産仲卸会社を経営する鈴木孝治さん(62)は、「最初は不安でしたが、全国の人が買って応援してくれているので、売値に影響はありません。あすから底引き網漁が解禁され、市場に出回る魚も増えるので、さらに活気づいていくといいと思う」と話していました。

高知 レストラン 嫌がらせ電話や予約キャンセル相次ぐ

高知市のレストランでは、中国からと見られる嫌がらせの電話や中国人の団体客からの予約のキャンセルが相次いでいます。

福島第一原発で今月24日に処理水の放出が始まって以降、中国は日本産の水産物の輸入を全面的に停止したほか、全国の飲食店などには中国の国番号から始まる国際電話による嫌がらせが相次いでいます。

こうした中、高知市のレストランでも30日までに中国からとみられる嫌がらせの電話が相次ぎ、その数は、およそ20件に上っているということです。

このほか、高知名物のカツオのたたきなどを予約していた中国人の団体からのキャンセルの連絡も相次ぎ、店では、影響の拡大を懸念しています。

このレストランの常務は「中国からと見られる電話は、いまだにかかってきていますが、何もすることができない状況です。インバウンドが盛り上がっているので、おいしい料理を食べに来てほしいとです」と話していました。

中国の日本料理店“店の継続に不安”

中国にある日本料理店では、客が減るなどの影響が出ていて、店の継続に不安を募らせています。

このうち、上海中心部にある海鮮などが人気の日本料理店では、処理水の海洋放出に反対する中国政府が、日本産の水産物などの検査を厳しくする方針を示した先月上旬以降、日本の鮮魚を全く仕入れられなくなり、水産物は中国国内で水揚げされたものなどに代え、提供する料理も工夫して営業を続けています。

さらに、海洋放出が始まった今月24日以降は、中国人の客が8割ほど減り、売り上げにも大きな影響が出ているということです。

また、店のオーナーシェフ、谷口義忠さんによりますと、この1週間、知り合いの料理店の中には嫌がらせの電話を受けたり、日本の水産物を仕入れていないか当局による抜き打ちの検査が行われたりしたところがあったということです。

上海で料理人として20年近く働いてきた谷口さんは「この1週間、店が今後どうなるのか不安で眠れない日もありました。厳しい状況ですが、季節が感じられる日本料理をなんとか伝えていけるよう前向きに頑張ります」と話していました。

日本人の客は「中国の人たちも日本料理を好きになっていたので、残念です。日本の立場が伝わるような情報発信をしてほしいです」と話していました。

埼玉 ラーメン店“激励や謝罪の声”を寄せる中国人も

東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の放出をめぐって中国からとみられる国際電話による嫌がらせが各地で相次いでいる問題で、埼玉県春日部市の飲食店では、嫌がらせの一方で日本への好意を伝える声も寄せられています。

埼玉県春日部市のラーメン店「会津ラーメン和」では処理水の放出に関する報道があった今月19日ごろから中国の国番号「86」から始まる国際電話がかかりだし、これまでにおよそ150件の着信があったということです。

電話はいきなり罵声を浴びせるなどの内容で、昼夜問わずかかってきたことから店主の西條剛さんは「当店『会津ラーメン』だからなのでしょうか…当店にも時間を問わずイタ電が続いています」と店のSNSなどで状況を訴えました。

すると、激励のメッセージが相次ぎなかには中国から「すべての中国人がそうではない」とか、「日本が大好きだ」などのメッセージが電話やダイレクトメールで数件寄せられたということです。

また29日は、中国人だという若い男性が来店し、食事をしたあと、「中国人がご迷惑をおかけし、申し訳ない」と西條さんに声をかけてきたということです。

これについて、西條さんはSNSに「お心ある振る舞いに心が潤います。日中友好です」と感謝の気持ちを記しました。

店主の西條さんは、「嫌がらせの電話には困惑したが回数は減ってきていてこうやって激励や謝罪の声を寄せてくれる中国の方もいます。今回のことで日本人も中国人に対する偏見を抱くべきではないと感じました」と話しています。

高知 団体客を乗せた中国船寄港もツアーの一部が変更に

中国が反対する中、31日、中国からの団体客を乗せた豪華客船が放出が始まって以降初めて高知市に寄港しましたが、ツアーの一部を変更するなどの影響も出ています。

31日、高知新港に寄港したのは中国の豪華客船「チャイナ・マーチャンツ・アデン」です。

中国からの乗客などおよそ300人が乗っていて、今月27日に中国・上海を出港して日本各地を巡っています。

この船が高知に寄港するのは6回目ですが、処理水の放出が始まって以降では初めてとなります。

乗客に尋ねたところ「『核汚染水』の排出はやっぱりよくないと思う」とか「中国人は反感を持っていると思う。日本がこういう選択をするときは、慎重になってほしい」と話す人もいました。

一方で「中国の方針が私たちの方針だが、私個人としては科学を信じたい。もしそんなに深刻なら、原子力発電所は必要ないと思う」とか、「今回の旅行には影響はないと思う。高知では焼き魚を食べたい」という人もいました。

乗客たちは船をおりた後バスに乗り込み、高知県内の観光地に向かっていました。

中国人のツアー担当者は、NHKの取材に対し「前回までは魚が含まれているプランがあったが、今回は魚のプランはキャンセルした」とツアーの一部を変更したことを明らかにしましたが、処理水の影響かどうかという問いに対しては「答えられません」と話していました。

海外からの豪華客船の誘致を進めている、県港湾振興課は「今のところ高知新港への寄港を取りやめたいという船の連絡は入っていない」としたうえで、「今後、影響があればできることはしていきたい」話しています。

水産物輸出会社経営の中国出身男性“日本のイメージ悪化懸念”

福島第一原発にたまる処理水の海への放出が始まったあと、中国で誤った情報をもとに日本の食品などを危険視する声が広がっていることについて、東京で水産物の輸出会社を経営する中国出身の男性は、日本に対するイメージの悪化を懸念し、心を痛めています。

東京の豊洲市場から香港や台湾などに水産物を輸出する会社を経営する高岩豊さんは、中国・青島出身で、2003年に留学で来日し、おととし日本国籍を取得しました。

学生時代に築地市場でアルバイトをしていたことをきっかけに水産物の流通業界で人脈を築き、2013年に輸出会社を設立したということです。

処理水の放出開始後、中国で、SNS上の批判的な投稿や誤った情報などから、日本の食品などを危険視する声が広がっていることについて高岩さんは、「自分のアクセスを増やすために完全なデマをどんどん流して、無責任なことを言っている人が多い。日本の食品を食べるかどうかだけでなく、日本に対するイメージが悪くなる可能性もあり、とても悲しい。日本にいる中国人の人たちはみんな同じだと思う」と話しています。

その上で、「正しい情報をこちらから発信しないといけない。新聞やテレビは信用しないかもしれないので、市場で放射線を測って、数値がゼロだったので大丈夫だといったことを、SNSで中国にどんどん発信しようかと思っている。私たちの影響力はほとんどないが、東京の市場で仕事をしている中国出身者として、正しい発信をしていきたい」と話していました。

高岩さんの会社では、香港への輸出が売り上げの3分の1ほどを占めているということですが、処理水の放出開始を受けて香港政府が東京や福島を含む10の都県からの水産物の輸入を禁止したこともあり、注文が4分の1ほど減っているということです。

また、輸出可能な水産物についても現地の取り引き先から安全性の証明を求める依頼が多く来ているということで、会社では、仕入れた魚を自主的に検査機関に送って放射性物質の検査を行っているということです。

高岩さんは、「私自身は処理水の安全性に不安はないが、取り引き先からは、『本当に大丈夫か』と聞かれるし、現地の飲食店や客の不安の声も多い。何とか頑張ってやっていきたい」と話していました。

福島 郡山 意見交換会で放出中止求める声相次ぐ

東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出について、30日夜、福島県郡山市で地元の住民グループが国と東京電力との意見交換会を開き、住民からは「理解が十分得られていない」として放出を中止すべきだという意見が相次ぎました。

意見交換会は、住民グループの求めに応じて30日夜、郡山市の施設で開かれ、およそ150人が参加しました。

はじめに、国と東京電力の担当者が、処理水は放射性物質の濃度が基準を下回るように薄めてから放出していることや、原発周辺の海水のモニタリングを継続して行っていることなどを説明しました。

参加した住民からは、「環境中に放射性物質を出すこと自体が間違いで、市民に寄り添った結論の出し方がなされていない」などと、放出計画についての理解を醸成する取り組みが不十分だとする意見が出ました。

これに対し、国の担当者は、漁業関係者などさまざまな団体に説明を繰り返してきたとして、「処分の必要性や安全性には一定の理解を得られたと考えている」と答えました。

しかし、住民からは「一定の理解では納得できない」などとして、放出を中止すべきだという意見が相次ぎました。

主催した住民グループによりますと、意見交換会はことし6月から求めていましたが処理水を放出したあとの開催になったということです。

福島県漁連会長「放出状況を冷静かつ真剣に見守りたい」

東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出が始まってから1週間となる31日、放出後としては初めてとなる福島県内の漁協の組合長が集まる会議が開かれ、県漁連の野崎哲会長はこれまで魚の取り引きに問題は出ていないとした上で「放出の状況を冷静かつ真剣に見守りたい」と述べました。

福島第一原発にたまる処理水を薄めた上で海に放出し始めてから1週間となる31日、福島県いわき市で開かれた会議には県内の漁協の組合長のほか政府や東京電力などの担当者が出席しました。

はじめに、県漁連の野崎会長が「放出されたことは苦しいが、漁業を存続させるために冷静かつ真剣に放出の状況を見守りたい。漁業者には苦労をかけるがなんとか頑張っていきたい」とあいさつしました。

その後、政府の担当者が、海水や魚の検査の結果、トリチウム濃度は検出できる下限の値を下回っていることや、中国の全面禁輸で影響を受けている事業者に支援をすることなどを説明していました。

これまでのところ県内で水揚げした水産物の取り引きは放出前と同様に行われているということで、野崎会長は「この1週間は大きな問題はなく進んでいるので少し安心した。漁業者には引き続き頑張って魚をとりましょうと呼びかけたい」と話していました。

北京 冷静な対応呼びかける声も

首都・北京では改めて放出に反対する声が聞かれた一方、日本各地で中国の国番号から始まる国際電話による嫌がらせが相次いでいることについて冷静な対応を呼びかける声も多く聞かれました。

このうち、40代の男性は「日本は完全に自分の利益しか考えていない」と海洋放出に反対する一方、嫌がらせについては「そんなことをする必要はなく正しい方法ですべきことさえしていればいい」と話していました。

また、20代の女性は「嫌がらせは理解はするが支持はしない。痛快かもしれないが実際には何の進展ももたらさない。冷静になるべきだ」と話していました。

さらに、30代の女性は北京にある日本大使館の敷地にレンガの破片が投げ込まれたことについて「社会の治安を乱す行為は慎み、特に大使館のエリアでは大国としてのそぶりを保つべきだ」と述べたうえで「海洋放出は心配だが私は突然、日本製品や日本料理店をボイコットするような過激なことはしない。中国自身の経済に影響するだけだ」と話していました。

一方で30代の男性は「トリチウムの濃度が低いかどうかは重要ではなく、原発から出てきたものは当然よくない。迷惑電話も一般市民の心の声であり嫌がらせではない」と話していました。