社会

“法定速度の大幅超過 危険運転致死の罪に” 被害者の会が要望

法定速度を大幅に上回るスピードで走行し死亡交通事故を起こしても危険運転致死傷罪が適用されないのはおかしいとして、交通事故の遺族などが被害者の会を結成し、ことし2月に宇都宮市で起きた事故について法律の適用の見直しを求める要望書を30日、検察庁に提出しました。

宇都宮地方検察庁に要望書を提出したのは「高速暴走・危険運転被害者の会」です。

法定速度を超えるスピードで走行していた車による事故で家族を亡くした宇都宮市や大分市の遺族など7人が、連帯して法律の運用の見直しを求めていこうと7月、結成しました。

要望書では、ことし2月に宇都宮市の国道でオートバイに乗っていた佐々木一匡さん(当時63)が後ろからきた車に追突されて死亡した事故について、車を運転していた20歳の被告が時速160キロを超えるスピードを出していたのに過失運転致死の罪で起訴されたのはおかしいとして、より刑の重い危険運転致死の罪に問うよう求めています。

会の共同代表で、事故で亡くなった佐々木さんの妻の多恵子さんは記者会見で「私たちの声を重く受け止めてもらいたいという思いで被害者の会として要望書を出しました。起訴の内容を変更してもらい、裁判を闘う土俵に上げてほしい」と述べました。

被害者の会では「異常な高速運転をしても危険運転が適用されないケースが各地で相次いでいる」として今後も署名活動などを行い、“法律の壁”に立ち向かっていきたいとしています。

時速160キロ超で追突 被告は過失運転致死の罪で起訴

要望書を提出した佐々木多恵子さんの夫、一匡さん(当時63)が事故に遭ったのはことし2月、会社から帰宅する途中でした。

宇都宮市の国道新4号バイパスをオートバイで走行中、後ろから来た車に追突され死亡しました。

車を運転していた20歳の被告は過失運転致死の罪で起訴され、宇都宮地方裁判所で裁判が行われています。

車は法定速度を100キロ上回る時速160キロを超える速さで佐々木さんのオートバイに追突したとされ、被告は起訴された内容を認めています。

法律の適用の見直し求めて署名活動

法定速度を大幅に上回るスピードで走行していたのになぜ、より刑の重い危険運転の罪に問えないのか。

多恵子さんは検察から「直線道路なのでスピードを出していても車が制御困難だったとはいえず危険運転にはあたらない」と説明されたということです。

やりきれない思いを抱えた多恵子さんは法律の適用の見直しを求めてインターネットや街頭で署名活動を行い、開始から3週間でおよそ5万筆が集まりました。

さらに、同じような思いを抱える各地の遺族とつながり、被害者の会に参加。

共同代表として活動を進めることになりました。

多恵子さんは「夫は人一倍、交通事故に気をつけていました。こんな理不尽なことがあっていいのか、夫も無念だと思います」と話しています。

そのうえで「車が制御できなかったから追突したと思っています。時速160キロのスピードまでアクセルを踏み続けるという行為は過失ではなく本人の意思だと思うので相応の罪をつぐなってほしい」と訴えています。

「危険運転致死傷罪」とは

「危険運転致死傷罪」は、故意に危険な運転をして人を死亡させたりけがをさせたりしたドライバーを処罰するため2001年に設けられました。

危険運転にあたる行為として、▽飲酒運転や、▽制御困難な高速度での走行、▽赤信号の無視、▽あおり運転のような「妨害行為」などが処罰の対象とされています。

刑の上限は懲役20年で、懲役7年の「過失運転致死傷罪」と比べ大幅に重くなっています。

制定のきっかけとなったのは、1999年に東京の東名高速道路で飲酒運転の大型トラックが乗用車に追突し、3歳と1歳の幼い姉妹が亡くなった事故です。

大型トラックのドライバーは当時の法律で業務上過失致死などの罪に問われ懲役4年の判決が確定しましたが、遺族は「刑が軽すぎる」として悪質な運転に対する罰則強化を求めて署名活動などを行いました。

賛同する声の高まりを受けて刑法が改正され「危険運転致死傷罪」が設けられたのです。

罰則が重く適用には慎重な判断

しかし、2011年に栃木県鹿沼市でクレーン車が小学生の列に突っ込み児童6人が死亡した事故や、2012年に京都府亀岡市で小学生の列に車が突っ込み10人が死傷した事故などで危険運転致死傷罪の適用が見送られることが相次ぎ、遺族は適用範囲の拡大などを国に要望しました。

そして、2014年に「自動車運転死傷行為処罰法」が施行され、条件が厳しいと批判が出ていた「危険運転致死傷罪」はそれまでより幅広く適用できるようになりました。

さらに、2017年に神奈川県の東名高速道路であおり運転を受けて停止したワゴン車が後続のトラックに追突され一家4人が死傷した事故などをきっかけに、3年前には妨害目的で車を停止する行為も処罰の対象に追加されました。

悲惨な事故の被害者や遺族の訴えによって見直しが進められてきた一方で、罰則が重いため適用にあたっては慎重な判断が行われます。

おととし大分市で起きた死亡交通事故では、時速194キロで運転していた会社員が当初、過失運転致死の罪で起訴されましたが、検察の再捜査を経て危険運転致死の罪に変更されるなど、遺族の要望などを受けて改めて捜査や検討が行われ危険運転での起訴や罪名が変更されるケースも各地で起きていて、適用の難しさが浮き彫りになっています。

専門家「法律に課題 立法による解決が必要」

なぜ法定速度を大幅に超えていても危険運転にはあたらないとされるのか。

元検事で危険運転致死傷罪について研究している昭和大学医学部の城祐一郎教授は、いまの法律には課題があると指摘します。

法律では、「制御困難な高速度」で運転する行為は危険運転に該当するとされています。

しかし、城教授によりますと、大幅な速度超過であっても車が高性能でハンドル操作ができたり、道路が直線だったりする状況であれば「制御困難ではない」と判断され適用が見送られている実情があるということです。

宇都宮市の事故もこれがハードルになっている可能性があるとして「危険運転の罪ができ社会にも認知されるようになってきたが、いまだに法律は本来の機能を十分に発揮できておらず、被害者と捜査機関との間で齟齬が生まれている」としています。

そのうえで「どのくらいのスピードを対象にするかなどの課題はあるが、高速度が多くの被害者を作り出す元凶になっていることは明らかなので、明確な形で処罰できるよう立法による解決が必要だ」と話しています。

一方、立法には時間がかかるため捜査機関が別の観点から法律の適用を検討することも重要だとして「制限速度を大幅に超過している場合、ほかの車によけてもらったり止まってもらったりする必要が生じる。これをほかの車の運転を妨害する行為ととらえれば危険運転にあたる可能性があるのではないか」と話していました。

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