【詳細】ジャニーズ問題 外部専門家の特別チーム会見

ジャニーズ事務所の元所属タレントなどから前社長による性被害の訴えが相次いでいる問題をめぐり、外部の専門家による再発防止のための特別チームがきょう午後4時から会見を開き、前社長が多数のジャニーズJr.に対し、長期間にわたって広範に性加害を繰り返していた事実が認められたとしたうえで、「解体的出直しのため社長は辞任すべきと考える」などとする調査報告書を事務所側に提出したことを明らかにしました。
調査報告書の内容を詳しくお伝えします。

ジャニーズ事務所では、2019年に亡くなったジャニー喜多川・前社長からの性被害を訴える声が相次いでいることを受け、再発防止策の策定などのため、法律や性被害などに詳しい外部の専門家による特別チームをことし5月に設置して調査を進めていました。

この特別チームがきょう午後4時から会見を開き、調査報告書を事務所側に提出したと発表しました。

それによりますと、特別チームは、元ジャニーズJr.など23人の被害者などにヒアリングを行い、前社長が、1950年代に性加害を行って以降、ジャニーズ事務所においては1970年代前半から2010年代半ばまでの間、多数のデビュー前の10代を中心とする少年たち、ジャニーズJr.に対し、長期間にわたって広範に性加害を繰り返していた事実が認められたとしています。

問題の原因として、もっぱら未熟な思春期の少年を対象にした性的関心と同意なき性行為の強要が長年続いたことは、前社長の性しこう異常とみなすことができると指摘したほか、事務所の共同創業者であった前社長の姉が少年たちへの性加害が続いていることを知りながら、何の対策も取らずに放置と隠ぺいに終始したことが、被害の拡大を招いた最大の要因であるなどとしました。

調査報告書の概要

再発防止のための特別チームが被害者などへの聞き取りを行って取りまとめた調査報告書は67ページにわたっています。

特別チームではことし5月26日から8月29日までの3か月間調査を実施し、被害者など23人、事務所関係者18人のあわせて41人に対し、本人の希望に応じて対面、オンライン、電話、そしてメールのいずれかの方法でヒアリングを行ったとしています。

【事実関係】

今回の調査報告書では、事実関係として次のように認定しました。

ジャニー喜多川前社長の性加害について、被害者へのヒアリングにより、前社長が1950年代から性加害を行い、事務所においては1970年代前半から2010年代半ばまで、前社長の自宅や合宿所、公演先の宿泊ホテルなどで多くのジャニーズJr.のメンバーを含む多くの未成年者に対し、長期間にわたって広範に性加害を繰り返していた事実が認められたとしています。

一連の性加害は事務所におけるタレントのプロデュースに絶対的な権力を持っていた前社長がデビューして有名になりたい、あるいは性加害を拒めば冷遇されるという被害者の心情につけ込んで行っていたものと評価し、被害者は少なく見積もっても数百人に上るという複数の証言が得られたとしています。

また、藤島ジュリー社長も前社長による性加害の疑惑について認識し、その事実について積極的な調査をするなどの対応をとらなかったとしています。

さらに、前社長以外にも事務所の社員による性加害があることが確認されたとしています。

「ジャニーズJr.」とは
デビューを目指してレッスンを受けながら芸能活動を行う所属タレントとされ、10代の少年が中心となっています。

提言書によりますとジャニー喜多川氏は採用やレッスン、デビューなどすべてのプロデュースをみずから判断して決定していたということで、ジャニーズJr.に対し、絶対的な権力を有していたとしています。

【原因】

原因については次のように考察しました。

ジャニー前社長は13歳から15歳の思春期の少年を中心に同意なき性行為の強要を繰り返していて、原因は前社長の性嗜好異常にほかならないと指摘しました。

さらに、前社長の姉で長年、事務所の経営を支えたメリー氏が前社長の性嗜好異常と少年たちへの性加害を認識しながら放置する形となり、外部に対して徹底的な隠ぺいを図ってきたことが被害の拡大を招いた最大の要因だと指摘しています。

【事案の背景】

今回の問題の背景として、
▽創業者たる経営者による違法行為が行われた場合に誰もそれを止めることができないという同族経営の弊害
▽ジャニーズJr.として事務所に入った立場の弱い少年たちの人権を尊重しようという意識が希薄だったことなどずさんな管理体制などをあげています。

さらに、マスメディア側に前社長の性加害を報道するとタレントの番組出演や雑誌掲載がなくなるのではという危惧があり、報道されなかった状況があったのではないかとし、これにより事務所は批判を受けることがないことから隠ぺい体質を強化していったと断ぜざるをえないとしました。

このこともさらに被害が拡大する原因になったと考えられるとしています。

【再発防止策】

一方、再発防止策としてジャニーズ事務所に対し、次のように提言しました。

▽事務所は組織として前社長の性加害が事実であることを認め、被害者に真摯に謝罪し、すみやかに被害者と対話を開始してその救済に乗り出すべきだとしています。
▽また、被害回復のための適正な補償をする「被害者救済措置制度」をただちに構築すること
▽国際的に見てほかの企業の模範ともなるべき人権方針を作成した上で今後はその人権方針を遵守し、二度と少年に対する性加害をはじめとする人権侵害を行わせないと明確に表明すること
▽再発防止策の実施状況を定期的にモニタリングし、どれだけ実施できているかを公表することなどをあげています。

さらに、▽ガバナンスの強化が必要だとして事務所が解体的出直しをするため、経営トップたる代表取締役社長を交代する必要があり、藤島ジュリー社長は辞任すべきだとしています。

【結語】

そして、調査報告書の最後には特別チームの提言を積極的に受け入れ、再発防止策のすべてを実施・実現することによって今回の件を契機に「再出発」を果たしてほしいとしています。

そして、エンターテインメント業界に性加害やセクシャル・ハラスメントが生じやすい構造が存在しているのであれば、ジャニーズ事務所が率先して積極的に業界全体を変えていくという姿勢で臨むことや日本を代表する芸能プロダクションとして世界でも高いレベルの人権方針を掲げ、みずから先頭に立って日本のエンターテインメント業界を変えていく役割を果たすことを期待するとしています。

林座長 “再発防止策すべて実施を”

調査を行った特別チームの林座長は会見で「この提言をジャニーズ事務所が積極的に受け入れて、再発防止策のすべてを実施、実現することによって、今回を契機に再出発を果たしてほしい。

しかし、それはジャニーズ事務所の再出発だけでは足りず、エンターテイメント業界に性加害やセクシュアルハラスメントが生じやすい構造が存在するとすれば、単に一企業として再出発するのではなく、今回を契機に率先して積極的にエンターテインメント業界全体を変えていく姿勢で臨んでほしい」と提言しました。

当事者の会 ホームページでコメント発表

特別チームが調査報告書を事務所側に提出したことについて「ジャニーズ性加害問題当事者の会」は、ホームページでコメントを発表しました。

この中で「期待していた以上の調査結果であり、書面の内容も会見のことばにも迷いがなく提言されたことに少しばかりか驚きもありましたが、同時に当会としては『この結果は』当然のごとくであるとも感じました。『性加害の認定』が実効的な提言としてここに記されたことは大きな成果として、私たちの悲痛なる告白がそのまま反映されたものだと素直に受け止められます。証明や証拠がない状況下において非常に難しい判断であったと思われますが、これを疑うことなく『被害者に寄り添った』感覚的な印象で、実際にヒアリングを受けた私たちにとってはありがたくも感じられます」と調査報告書の内容を評価しています。

一方、藤島ジュリー社長は辞任すべきだと指摘したことについては「ジュリー氏の辞任は求めていませんし、それは歓迎できません。私たちは『これらの問題を知っていた』現トップ経営者が担う重き職責だとこれまでも求めてきましたがゆえ、辞任して責任から逃れることは許しがたい」として、経営者として今回の問題に関する責任を果たすよう求めています。

またジャニーズ事務所の今後の対応について「影響力が大きいトップ企業がみずからの罪を認め、そして被害者の救済や補償のための構築と芸能界全体に及ぶ問題として、この再発防止にも強気姿勢で先頭に立ち、私たち被害者と、まだ見ぬ被害者のすべてを救えるよう画期的な方法と手段を講じていただきたい」としています。

当事者の会副代表 “重く受け止めてくれたと評価できる”

午後4時から始まった特別チームの会見を自宅で見た、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の副代表を務める石丸志門さんは、「再発防止特別チームが、ジャニー喜多川氏の性加害を全面的に認めたことは大きな転換点になる。報告書の内容は予想していたものと比べれば、多岐にわたり詳細な部分まで事実認定され、謝罪と救済について踏み込んだ内容になっている。藤島社長の辞職を勧告するなど重く受け止めてくれたと評価できる」と話しました。

その上で「被害者への救済が体裁を整えるだけのものでなく救済される側が『救済された』と感じることができるかが重要だと思う。今後、ジャニーズ事務所が予定している会見では事実認定や救済措置について具体的に示して欲しい。当事者の会としては、会社のトップと直接面会し、血の通った会話をして納得いくまで対話を求めていきたい」と話していました。

専門家 “企業として向き合う覚悟が必要だ”

特別チームがジャニーズ事務所に提出した特別報告書について、子どものトラウマと心のケアに長年携わってきた、臨床心理士で武蔵野大学名誉教授の藤森和美さんは「1つの企業で子どもたちへの被害が長期間にわたって継続し、隠れて出てこないままタレントの育成や芸能活動が行われてきたことが明らかになったのは、世界的に見てもインパクトは大きい。何度か声が上がったのに事務所だけでなく周りも、この問題を取りあげてこなかった。たくさんの被害の上に成り立っていることを改めて考えなくてはならない」と話しています。

その上で「今も被害を言えない人や症状やしんどさに気付いていない人もいる。補償には期限をつけないことが大事だ。調査報告書は明確に問題を指摘しているので、ジャニーズ事務所はそれに対して企業として向き合う覚悟が必要だ。現在も所属しているタレントがいる中でこの件を経てどれだけ生まれ変われるかが問われている」と話していました。

ジャニーズ事務所 “真摯に受け止める”

特別チームが調査報告書を事務所側に提出したことについて、ジャニーズ事務所はNHKの取材に対し、「『外部専門家による再発防止特別チーム』からの提言および会見内容を真摯に受け止め、今後に予定をしております記者会見にて、その取り組みを誠心誠意ご説明させていただく所存でございます。会見のご案内に関しましては、今暫くお待ちいただけますようお願い申し上げます」とコメントしています。