【詳細】「知らない人からののしられ」 暴言も 処理水放出後

福島第一原発にたまる処理水の海への放出が始まった8月24日以降、中国からとみられる迷惑電話が国内の公共施設や観光施設などに相次いでいます。警察は迷惑電話を受けないようにするサービスに登録するなどの対応を呼びかけています。

一方、政府は、中国側に国民に冷静な行動を呼びかけるなど適切な対応を行うよう強く求めていくとしています。

処理水放出後、相次ぐ迷惑電話をめぐる国内の動きをまとめました。

迷惑電話がかかってきた時の対処法も記事の最後に掲載しています。

処理水放出後 迷惑電話が100件以上 暴言も 宮城 白石市

宮城県白石市にある観光施設、「宮城蔵王キツネ村」には、処理水の放出開始後、中国からとみられる迷惑電話が100件以上かかっているということです。

施設によりますと、福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出が始まった今月24日以降、中国の国番号「86」から始まる国際電話の着信が相次ぎ、電話に出ると一方的に暴言を吐かれることもあったということです。

こうした電話は1分間隔でかかってくる日もあり、今月24日から28日までにかかってきた迷惑電話は少なくとも100件以上にのぼるということです。

この施設は放し飼いにしたキツネと触れ合えることで人気の観光スポットで、28日も多くの人が訪れていましたが、事務所の電話機には中国からとみられる国際電話がかかり、従業員などが対応に苦慮していました。施設では着信を受けた記録とともに警察に被害届を出したということです。

「蔵王キツネ村」の佐藤文子村長は「意味の分からない内容の電話が多すぎて困っています。『バカ』や『死ね』など日本語もありますが、多くは中国語でかかってきます。相手にしないようにするしか対策のしようがありませんが、このようなことをしてもしかたないのでやめてほしいです」と話していました。

「ののしられ、本当に疲れた」 山形 南陽市

中国からとみられる迷惑電話は、山形県南陽市にある赤湯温泉の旅館にもかかってきています。

南陽市の赤湯温泉旅館協同組合には13軒の旅館が所属していますがNHKが取材したところ、処理水の放出が始まった今月24日以降、少なくとも6軒の旅館で中国の国番号「86」で始まる番号から迷惑電話がかかってきたことが分かりました。

このうち「湯宿 升形屋」では、こうした迷惑電話が連日、20件から30件ほどかかってきているということです。

いずれも電話に出ると
▽中国語とみられることばで一方的にまくしたてたり、
▽片言の日本語で「バカ」や「コノヤロー」などと暴言を吐いたりしてきたということです。

旅館のおかみの歌丸あき子さんは、「関係のない人からののしられ、本当に疲れました。組合や国などで早く対策を取ってもらいたいです」と話していました。

迷惑電話各地で 福島には2000件以上 茨城 原子力科学館にも

中国からとみられる迷惑電話は、福島県内では県や福島市などの自治体に少なくともあわせて2000件以上かかっていることが分かりました。

中国からとみられる迷惑電話についてNHKが福島県と県内の主な7つの市を取材をしたところ、これまでに
▽福島県がおよそ1000件、
▽福島市がおよそ800件、
▽いわき市と郡山市がそれぞれおよそ150件、
▽相馬市がおよそ50件かかってきていると回答しました。

電話の多くは中国語とみられることばで一方的にまくしたてたり、自動音声の外国語が流れたりするもので、中には海への放出を指してか「流さないでくれ」ということばを発したケースもあったということです。

福島市は現場が混乱しないよう急きょ、応答する際のマニュアルを作るなどの対応をとっていて福島市管財課の高田豊一 課長は「市役所なので電話に出ないわけにもいかず、対応に時間を取られ業務に支障が出ている。今後も様子を見て対応する」と話していました。

また、茨城県東海村にある原子力や放射線のしくみについて展示する「原子力科学館」や、東京・江戸川区の公共施設にも業務と直接関係の無い国際電話の着信が、24日から相次いだということです。

このほか、NHKの取材では
▽青森県や岩手県、静岡県でも迷惑電話が確認されています。

東京電力にも6000件超の国際電話

東京電力によりますと処理水の海への放出が始まった今月24日から27日までの4日間で、中国の国番号「86」から始まる国際電話の着信は、グループ会社を含めて6000件以上に上っているということです。

電話の詳しい内容については模倣につながる恐れがあるとして明らかにしていませんが、無言電話などもあるということです。

東京電力は1件1件対応しているとした上で「風評の払拭や処理水への理解を得られるよう引き続き海域モニタリングのデータなど科学的な根拠に基づく情報発信に取り組みたい」としています。

中国のSNS 日本非難するよう呼びかける投稿相次ぐ

福島第一原子力発電所にたまる処理水を巡る日本の対応を受け、中国のSNSには、日本を非難するよう呼びかける投稿が相次いでいます。

SNSウェイボーの投稿の中には「『核汚染水』を海に流した日本を非難したい人は、この番号に電話してください」という文言とともに、日本の参議院の電話番号が記載されたものもあります。

また、東京都内の施設に電話をしたとされる動画では、男性が「なぜ『核汚染水』を海に放出するのか」などと一方的に中国語で話す様子がうつされています。

外務次官 中国大使呼び出し抗議 “冷静な行動国民に呼びかけを”

外務省によりますと、中国・北京にある日本大使館などにも同様の電話がかかってきているほか、青島の日本人学校では敷地に石が投げ込まれたということです。

これを受けて、外務省の岡野事務次官は28日午後、中国の呉江浩駐日大使を外務省に呼び出し、「状況の改善がみられず、極めて遺憾で憂慮している」と抗議しました。

その上で、中国政府に対し、
▽冷静な行動を国民に呼びかけるなど適切な対応を早急に行うことや
▽中国に滞在している日本人や大使館の安全確保に万全を期すこと、
▽人々の不安をいたずらに高めないよう、正確な情報を発信することを強く求めました。

岸田首相 “遺憾と言わざるを得ない”

岸田総理大臣は28日夜、総理大臣官邸で記者団に対し「中国に対しては、まずは専門家どうしの科学的な意見交換をしっかり行いたいとあらゆる機会をとらえて要請してきたが、こうした場が持たれないまま、中国発とされる多数の迷惑電話や日本大使館、日本人学校への投石などが行われていることは遺憾なことだと言わざるを得ない」と述べました。

その上で「日本政府として邦人の安全確保に万全を期すことは当然だが、中国側に対してはきょうも駐日中国大使を招致し、中国国民に冷静で責任ある行動を呼びかけるべきである旨強く申し入れを行っている。アメリカからは日本の安全で透明性が高く科学的根拠に基づいたプロセスに満足しているとの見解が示されており、こうした国際社会の声もあわせて中国政府にしっかり伝えていきたい」と述べました。

専門家 “嫌がらせ 中国政府が容認か”

中国からとみられる嫌がらせの電話が相次いでいることについて、中国の政治や社会に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は「中国ではどういう情報を流すのか、あるいは削除するのか、当局によって情報が統制されている。ネットなどに、一斉に一時期に集中して一つのテーマで統一した見解が流れるのは政府が容認しているとみられる」と話していました。

背景について「中国の経済が非常に悪く、若者の失業率が高いなど深刻な問題を抱えていて、不満のマグマがあちこちにたまっているので国民の安全を守るという大義名分のもとで、外に目をそらすガス抜き的な部分もある」と指摘しました。

その上で「いまは日本を批判する立場だが日本人に被害が及ぶような事態になると、中国側が国際的に批判され、不利な立場になる。過激な行動が目立ち始めると抑え込むことになるだろう」と分析していました。

警察 “身に覚えない番号や非通知の電話出ないで”

相談が多く寄せられていることを受け、福島県警は26日、注意喚起を行いました。

この中では
▽身に覚えのない電話番号や番号非通知の電話には出ないこと、
▽携帯電話は、国際電話の受信拒否の設定をすることといった対策をとるよう呼びかけています。

警察は自治体などと連携して、必要な捜査を進めるとしています。

国際電話 固定電話での拒否方法は

NTT東日本によりますと、固定電話にかかってくる国際電話については特定の国番号の着信だけを拒否することはできず、また不特定の番号について着信を拒否するには、国際電話のサービス自体をやめるしか方法はないということです。

国際電話サービスをやめるには電話会社が共同で運営している「国際電話不取扱受付センター」に連絡し、自宅に届く申込書に記載して送り返すか、インターネットから直接、申し込む方法があります。

これにより国際電話の着信を一括で拒否できますが、自分からかけることもできなくなります。

「国際電話不取扱受付センター」によりますと、ここ数日、中国からとみられる着信を理由に国際電話を休止したいという申し込みが急増していて、休止手続きには時間がかかる可能性があるということです。

国際電話不取扱受付センターの連絡先は
0120ー210ー364です。