教員の働き方 ”危機的な状況” 中教審 特別部会の緊急提言

教員の働き方をめぐり、中教審=中央教育審議会の特別部会は、危機的な状況にあり社会全体で取り組むべきだとする緊急提言をまとめました。地域など教員以外への業務の分担に加え、標準を大幅に上回る授業時数は見直すことなどを対応策に盛り込んでいます。

教員の働き方や給与のあり方などを議論している文部科学省の中央教育審議会の特別部会は、緊急的に取り組むべき施策を盛り込んだ提言をまとめ、28日、部会長を務める千葉大学教育学部の貞広斎子 教授が永岡文部科学大臣に手渡しました。

この中では、教員を取り巻く環境は国の未来を左右しかねない危機的な状況にあるとして、国や自治体、学校に加え、保護者や地域住民、企業など社会全体で一丸となって課題に対応する必要があるとしています。

具体的には、「登下校対応」や「校内清掃」「休み時間の対応」など14の業務について、地域やスタッフなど教員以外への分担や負担軽減を進め、年間の授業時数が国の標準を大幅に上回る1086コマ以上の学校は来年度から見直すこと、学校行事は重点を置くものを選び、準備も簡素化することなどを盛り込んでいます。

また、授業や事務作業をサポートする「教員業務支援員」の全小中学校への配置や、教員の負担軽減が期待される小学校高学年での「教科担任制」実施の前倒し、それに保護者からの過剰な苦情などに教育委員会が対応して学校を支援することなどを対応策に挙げています。

参加した委員からは、「教員の働き方の改善は、子どもたちのためになるという社会の理解が必要だ」といった意見が相次いでいました。

特別部会では教員の働き方や給与のあり方についてさらに議論し、来年春ごろまでに一定の方向性を示したいとしています。

“定額働かせ放題?” “危機的状況”とは?

ことし4月に発表された6年ぶりとなった教員の勤務実態調査の速報値です。

▼国が残業の上限としている月45時間を超えるとみられる教員が中学校で77.1%、小学校では64.5%に上り、
▼「過労死ライン」と言われる月80時間に相当する可能性がある教員が中学校で36.6%、小学校で14.2%と、依然として長時間労働が課題となっていることが明らかになりました。

長時間労働に加え、法律によって教員の残業代は支払われないことになっていて、現場やSNSなどでは「定額働かせ放題」とも言われています。

こうした中、なり手不足の深刻化により新学期に担任が足りないといった事態にまで陥っています。

このため中教審の特別部会では、教員の給与のあり方も含めて検討を進めていますが、法改正が必要な対策を待たずにできることは直ちに行うべきだとして今回の緊急提言をまとめました。

“社会全体”への取り組みや理解を 提言の詳しい内容は?

“教員の仕事の適正化”って? 地域や保護者にできることも?

教員が教員にしかできない仕事に専念できるよう“業務の適正化”を目指して、具体策として示された1つが教員の関わりの度合いに応じて3分類された14の業務への取り組みです。

▼1つめの分類は「学校以外が担うべき業務」で、
▽「登下校対応」
▽「放課後の見回り、補導時の対応」
▽「給食費などの徴収」
▽「地域ボランティアとの連絡調整」の4つの業務が挙げられています。

この中では、
▼登下校の見守りは地域のボランティアが行ったり、門は登校時間の直前に開けたりして、朝の業務の負担を軽減することや、
▼現金徴収から口座振替に切り替えた例が示されています。

▼2つめの分類は「学校の業務だが教員が担う必要のない業務」で、
▽「調査などへの回答」
▽「休み時間の対応」
▽「校内清掃」
▽「部活動」の4つの業務を挙げ、休み時間の見守りや校内の清掃は地域住民や支援スタッフとの役割分担を行うといった対応例を示しています。

▼3つめの分類は、「教員の業務だが負担軽減が可能なもの」で、
▽「給食時の対応」
▽「授業準備」
▽「学校行事の準備・運営」など6つの業務が挙げられています。

適正化に向けてはこのほかにも
▼業務の効率化のため校務に生成AIを活用するため国が方針を示すことも含まれています。

授業時数や行事の見直しを

授業時数や学校行事など各学校で慣例的に続けられてきたものを見直すことも求めています。

全国では、学級閉鎖などに備えてあらかじめ年間の授業時間を多く計画している学校も少なくありません。

週に換算して2コマ以上と国の標準を大幅に上回る学校がおよそ4割になった調査結果もあり、そうした学校は来年度から見直す前提で点検が必要だとしています。

それでも人が…教員不足にどう対応?

持続可能な勤務環境の整備に向けて、国に支援の充実も求めています。

▼教科ごとに教える「教科担任制」。小学校高学年で実施すると、学級担任の授業時数が週に3.5コマほど軽減できる見込みだとして、再来年度までとしていた計画を来年度までに1年前倒すよう求めています。

▼授業や事務作業を支援する「教員業務支援員」をすべての小中学校に配置し、
▼法改正を含めた教員の給与の在り方の議論を待たずに、管理職などに支払われる手当を改善すること。

また、
▼教員のなり手の発掘に向けて企業と連携することや、
▼教員養成に向けて大学に地域枠を設けることなども挙げています。

働き方改革を進める学校現場は

働き方改革に向け独自の取り組みや、提言で示された取り組みを進めている都内の小学校では、制度など大きな枠組みでの対応策も必要だと指摘しています。

東京・新宿区の西新宿小学校は、ことしから独自に夏休みの宿題を原則なくし、昨年度まであった絵日記や読書感想文なども課さないことにしました。

子どもたちの主体性を伸ばすとともに、教員の負担を軽減する目的もあり、児童たちには自分で読書や自由研究、体力づくりなどテーマを見つけて計画を立てて取り組むように呼びかけました。

ことしの夏休みについて、小学4年生の男子児童は「宿題がなかったので塾の夏期講習に行きました。旅行にも出かけて、いつもよりゆっくりできました」と話していたほか、小学6年生の女子児童は、「漢字の復習をしたいと思い、漢字ドリルを使って自習をしました。学習方法はお母さんに聞きました」と話していました。

教員は、授業の合間や放課後に一人一人にコメントを書いたり、絵日記などを壁に掲示したりする業務がなくなり、授業の準備や教材の研究にあてているといいます。

5年生の担任は、「自分で考えて主体的に宿題をやろうという姿が多く見受けられました。これまでは学校が始まる時期は、夏休みの宿題の丸つけに追われていましたが、2学期の授業に集中できありがたいです」と話していました。

さらに、この学校では、今回の提言で示された取り組みの一部も進めています。

そのひとつが「休み時間の見守り」の教員以外への分担です。

これまで2時間目のあとの25分間の休み時間は、教員4人が当番制で児童を見守っていましたが、昨年度からPTAの保護者2人が入ってくれるようになり、当番が減った分、余裕を持って授業準備ができるようになったといいます。

また、提言で教員の負担軽減が期待されると示された「教科担任制」についても、9月から、3年生と4年生の社会、理科、外国語教育、体育で取り入れる予定で、1人の教員が担当する教科数を減らすことで授業準備の量を減らそうとしています。

ほかにも、開校時間以外は学校の外線電話を自動音声にして、緊急ではなければ決められた時間内に連絡するよう保護者に周知しています。

今回の提言について西新宿小学校の長井満敏校長は
現場でいろいろ努力はしているが、学校独自でできることはそれほど多くはないので、制度面など大きな枠組みについても提言で示されたのは良かった。いま教員不足や若手の離職は非常に大きな問題なので、働きやすい環境につなげてほしい。実効性の面ではひとクラス当たりの児童数を減らすことや、教員数を増やす必要もある。

教員・専門家 “焼け石に水” “定数議論を”

緊急提言を受け、教員や専門家ら5人が28日、文部科学省で会見を開きました。

岐阜県の県立高校に勤める西村祐二教諭
私も含め、教員は皆、満身創痍で現場に立っている。私の勤務する学校では提言にある教員業務支援員が配置されているが、1校に1人、2人では大きく改善されない。提言は目玉となる施策がなく、『ありがたいけど足りないよ』という感想で焼け石に水だ。現状ではそもそも授業準備の時間が全くない。中教審は現場の声を吸い上げてほしい。

日本大学 広田照幸教授
提言で示された内容では状況は改善できないというのが率直な感想だ。小中学校の先生は仕事の全体量が多すぎるのが問題で、子どもに必要な教育内容がじわじわと増えていく一方、先生を増やさないままで対応しており、今後は教員と生徒の定数の議論をしてほしい。