宇都宮のLRT あす開業へ コンパクトなまちづくり進むか注目

全国で初めて、すべての線路を新しく建設したLRT=次世代型路面電車が、宇都宮市と隣接する芳賀町を結んで、26日開業します。
安全な運行とともに、人口減少や少子高齢化が進む中でLRTによってコンパクトなまちづくりを進められるかが注目されます。

26日開業するLRTは、宇都宮市などが構想から30年をかけて導入するもので、JR宇都宮駅の東口と隣接する芳賀町の工業団地の、14.6キロの区間を結びます。

すべての線路を新しく建設したLRTは全国で初めてで、新しい路面電車の開業は国内で75年ぶりです。

あすは午前中に記念の式典が開かれ、運行は午後3時から始まります。

宇都宮市は、通勤客を中心に、平日は1日1万6300人余り、休日は5600人余りの利用者を見込んでいて、開業初年度から黒字になると試算しています。

人口減少や少子高齢化が進む中で、LRTによってコンパクトなまちづくりを進められるか注目される一方、去年11月に起きた試運転中の脱線事故を受けて安全対策を強化していて、乗客の安全や歩行者や車との事故を防ぐ対策が重要な課題になります。

宇都宮市の佐藤栄一市長は、25日の会見で「これからが正念場だ。全国の地方都市のモデルとなるように、LRTを大きく育てていきたい」と話していました。

LRT 従来の路面電車よりも床低い公共交通システム

LRTとは、英語の「Light Rail Transit」(らいとれーるとらんじっと)の略称で、従来の路面電車よりも床が低く、振動や騒音を抑えた新しいタイプの公共交通システムです。

電気で動き二酸化炭素を排出しないために環境に優しく、バリアフリーで定時制に優れているとされています。

バスより多くの乗客を一度に運べることから、欧米の都市部では数多く見られ、国内では富山市などで導入されています。

既存の路面電車を活用せず、すべてのレールを新設したのは全国で初めてで、国内で新たな路面電車が開業するのは、富山県の現在の万葉線以来75年ぶりです。

定員は160人で、座席は50席あります。

平日は午前4時台から深夜0時台まで
▽朝と夕方の通勤・通学の時間帯はおよそ8分間隔
▽ほかの時間帯は12分間隔で運行します。

事業費は、当初は458億円と見積もられていましたが、追加の工事などで1.5倍の684億円までふくらみ、開業日も2回、およそ1年半延期されました。

また、去年11月には試運転中に脱線事故が起き、専門家による検討の結果、安全対策のための工事などが行われました。

宇都宮市は今後、LRTをさらに西側に延伸する計画を進めていて、2026年に工事を始め、2030年代前半に開業を目指す計画です。

最重要課題は安全対策

LRTの最も重要な課題は乗客の安全や歩行者や車との事故防止といった安全対策です。

去年11月には、深夜の試運転中にJR宇都宮駅東口の広場で脱線事故が起き、専門家による助言のもとで、原因究明と再発防止策の検討が進められました。

現場は、レールを切り替える分岐点と急カーブが連続していて、車両が分岐点を通過した際に左右に振られて不安定になり、カーブを曲がりきれなかったと結論づけられ、この区間の制限速度を当初より遅い時速10キロ以下にするとともに内側と外側のレールの高低差をなくす追加工事を行いました。

一方、運営会社の「宇都宮ライトレール」は、路面電車が初めて走るまちで歩行者や車との事故を防ぐために、新たに採用した50人の運転士の訓練を念入りに進めてきました。

指導役には、広島市でおよそ30年にわたり、路面電車の運転や指導に当たってきたベテラン運転士が招かれ、車や歩行者、それに自転車の動きを常に注意深く観察し、“先の動きを予測すること”が重要だと伝えてきました。

宇都宮市が目指す LRTを軸にした交通網整備

LRTの整備に当たり、宇都宮市は「ネットワーク型コンパクトシティー」という構想の実現を目指しています。

都市の中に、人が集まりやすい「拠点」を複数設けて公共交通機関で結び、車がなくても生活しやすいまちを目指す考え方です。

「拠点」は、
▽公共施設や中心商店街、それに大きな病院などがある都市の中心部
▽商業施設や住宅街、高校や大学などがある地域
▽観光施設が集まる観光地
▽産業が集積する工業団地などです。

構想では、LRTが「拠点」どうしを結び、その先は接続するバスなどが地域を回ることで、市内全体の交通ネットワークが充実し、住民が暮らしやすくなるとしています。

開業に先立ち進む沿線開発

LRTの沿線地域では、開業に先立って高層ビルや住宅地の開発が進んでいます。

宇都宮市によりますと、沿線の人口は、LRTを整備するおおまかな区間が決まった年の前年から、おととしまでの10年間で、およそ4100人余り、率にして7%増加しているということです。

このうち、近くに大規模な工業団地があり、LRTの停留場が3つ設置される宇都宮市郊外の「ゆいの杜」地区では、住宅地が急速に開発され、おととしには市内で26年ぶりとなる小学校も開校しました。

8年前、出産を機にこの地区に移り住んだ行田千里さんは、新設された小学校に2人の子どもを通わせています。

この地区にはスーパーやホームセンター、それにクリニックなどが次々とできて、住みやすくなってきているだけでなく、LRTによって、子どもたちが将来、高校や大学に進学する際の選択肢が広がることにも期待しているということです。

行田さんは「子どもたちにとって、宇都宮駅前や都心の学校に通えるようになるので、可能性が広がります」と話していました。

LRTに寄せる期待

宇都宮市では人口減少と少子高齢化が大きな課題となっていて、中でもJR宇都宮駅の西側から東武宇都宮駅の周辺までの中心市街地の空洞化が目立っています。

かつては、複数のデパートや映画館などが建ち並んでいましたが、郊外型の商業施設の進出などで、1990年代以降、デパートの移転や閉店が相次ぎました。

シンボル的な存在だったファッションビルも、2019年に閉店したあとは後継のテナントが決まらず、今も空きビルの状態が続いています。

宇都宮市の調査では、
【中心市街地の人口】
▽1985年には、2万3000人余り
▽2018年には、1万6000人余りまで減り

【1日の通行量】
▽1985年には、およそ19万人とピーク
▽2019年には、およそ3割の5万4000人余りと、3割ほどに落ち込みました。

中心市街地の盛衰を見てきた「宇都宮市商店街連盟」の斎藤高蔵 会長(74)は「商店街に活気があったのは、だいぶ前のことになってしまった。空き店舗がそのままになっているのもつらい。人の流れを中心部に戻せるように、業種のバランスを取りながら、再生に向けて頑張っていきたい」とLRTの開業に期待していました。

専門家「地方都市の姿を変えていく1つのツール」

都市の公共交通に詳しい関西大学の宇都宮浄人 教授によりますと、路面電車を中心としたまちづくりは、欧米などでは環境に優しい面などが評価され、1990年代から急速に普及した一方、国内ではあまり受け入れられなかったということです。

その理由について「欧米の鉄道は、公共交通機関として公費で支えられるのが普通だが、日本の鉄道は単独の収支で評価され、利益を出さなければいけないという固定概念がある。さらに地方では、車中心の社会が容認されているため、新たな鉄道事業は批判を受けやすい」と指摘しています。

こうした中、国内で75年ぶりとなる路面電車が開業することについて「車に依存しなくてもすむ、持続可能なまちづくりの事業として高く評価している。宇都宮市の場合、10人中1人が車からLRTに乗り換えれば、公共交通機関の利用者は2倍になると見込まれる。取り組みを長い目で見守る必要があるが、地方都市の姿を変えていく1つのツールになる」と期待しています。

一方、今後の課題については、「まちづくりの効果を発揮するためには、まちの中心となっている宇都宮駅の西側に延伸させることが重要だ。地元のバス路線を再編したり、パークアンドライドの施設を整備したりして、LRTとの接続の強化が求められる」と話していました。

市民団体の抗議活動も

LRTの26日の開業を前に、事業に反対する市民団体が抗議活動を行いました。

LRTの最初の停留場となっているJR宇都宮駅前には、「むだな公共投資だ」などと反対してきた2つの市民団体のメンバーなどおよそ30人が集まり、『LRTは必要ない』などと書かれたプラカードを掲げて無言で抗議しました。

LRTは、西側に延伸する計画も進められていることから、『西側延伸NO』と書かれたプラカードもありました。

市民団体の上田憲一 会長は「宇都宮市にはすでに多くのバスが走っている。事業計画への検証がなされないまま、西側延伸が進むことについて、今後も抗議していきたい」と訴えていました。