尾身茂氏 退任へ【Q&A】3年間の新型コロナ対策 語ったことは

政府の「新型インフルエンザ等対策推進会議」の議長として新型コロナ対策の推進に当たってきた尾身茂氏が会議の体制見直しに伴って議長を退任することになりました。
尾身氏がNHKの取材に応じ、この3年間の新型コロナ対策について語りました。

Q.退任が発表されましたが、今のお気持ちをお聞かせください。

A.今回の政府の決定については少し肩の荷が下りたという感じが正直なところです。

いろいろなことがあり、いろいろと不備もあったかもしれませんが、私だけではなく、さまざまな専門家と一緒にできるだけのことはやってきました。

Q.3年間を振り返って、いま思うこととは?

A.ひと言で言えば私自身にとっても、私たち専門家にとっても「葛藤の連続」だったと思います。

専門家として最も重要な役割は、感染状況を評価したうえで政府に取るべき対策について提言することです。

これに最も多くの時間を割いてきましたが、提言書を出すことはそう簡単ではありませんでした。

新型コロナウイルスは疫学情報や感染に関する情報が極めて限られ、そのうえ、政府と専門家の役割分担も必ずしも明確ではありませんでした。

社会経済活動を動かすということと感染対策をどう両立させるか、通常の医療とコロナ医療のバランスをどう取るか。

あるいは、もっと広く言えば公共の福祉、社会全体の利益と個人の自由のバランスをどう取るかというのは、それぞれの立場や価値感によってひとつの答えがあるわけじゃないんですよね。

これは非常に難しかったです。

あえてもう一つ言えば、新型コロナのパンデミックの当初は情報が少なく、未知のウイルスに対する不安が人々の間で共有されていて、政府や自治体、専門家のメッセージが伝わりやすかったと思います。

ところが、いろんなことが分かってきてからは、逆にメッセージが伝わりにくくなったと感じました。

だからこの3年間を振り返ると、いろんな言葉が浮かびますが、私、あるいは私たち専門家にとって一番ぴったりくる表現は「葛藤の連続だった」ということだと思います。

Q.将来、新たなパンデミックが起きる可能性もあると思いますが、今後に向けてはどのようにお考えですか?

A.今回、私たち専門家は新型コロナのパンデミックという100年に1度の危機といってもいいくらいの大変な事態に深くかかわってきました。

今後もパンデミックは来る可能性がある、来ると思っています。

次に備えるためにも、私がこの3年間に考えたことや悩んだことを記録に残すことが、今回の役割を担った者としての責任だと考えています。

この3年以上の間を振り返り、記録に残して、いずれ公表できればと考えています。

Q.新型コロナウイルスは感染症法上の位置づけが5類となり、社会活動も再開しています。現状を見て感じることはありますか?

A.今、日本が普通の社会に戻ろうとしています。

そういう時期にきたということなので、非常にいいことだと思っています。

ただ、このウイルスはなくなったわけではなくて、どのレベルかはわかりませんが、しばらく続くと考えた方がいいですよね。

日本の新型コロナ対策は、感染者の数というより、死亡者数をなるべく減らすということが究極の目的でした。

日本は今(2023年8月時点)、第9波に入っているのは間違いないと思いますが、そういう意味では今回の第9波の死亡者数が、第8波に比べて少しでも減ることを期待しています。

例えばイギリスでは死者はまだ出ていますが、一定の幅に収束してきています。

これは専門的にはパンデミックが収束し、次の段階に移行しているためではないかと考えています。

実は日本の場合は、第1波から第8波まで、第5波を除いて死亡者数が増えているんです。

一定の範囲内に収束する状態になるためには、第9波の死亡者数が第8波より少なくなることが条件になりますよね。

そういう意味で、私自身は第9波の死亡者数に注目しています。

Q.今後も感染の波は続くのでしょうか?

A.新型コロナウイルスは急に波がゼロになって、感染が起きなくなるというウイルスではないんですね。

これまで国内外でさまざまな感染症対策に携わってきましたが、このコロナ感染症は最も「したたかな」感染症だと私は思います。

まだ、ウイルスは変異をし続けていますから。

Q.今後、私たちはどういう意識で新型コロナに向き合っていけばよいでしょうか?

A.比較的元気な若い年齢層では感染しても重症化することは少ないし、ワクチンを打っている人も多い。

ただ、高齢者やもともと体が弱い人が感染すると重症化して亡くなるリスクが高いので、そういう人を守るという意識が大事です。

人々がもとの生活に戻す方向にいくのは大賛成です。

ただ、感染が拡大すると高齢者を中心に死亡者がでるおそれがあるということは、念頭に置いて頂ければと思います。

尾身氏「新型インフルエンザ等対策推進会議」議長を退任へ

政府は、感染症対策を一元的に担う司令塔となる新たな組織「内閣感染症危機管理統括庁」が来月1日に発足するのにあわせて、専門家などをメンバーとする「新型インフルエンザ等対策推進会議」の規模を縮小するなど体制を見直すほか、会議のもとに置かれた新型コロナ対策の「分科会」を廃止することを決めました。

これに伴って、2012年以来、前身の会議も含め10年余りにわたって議長を務めてきた尾身茂氏は退任することになりました。

尾身氏は、医師で、旧厚生省の医系技官を経て感染症の専門家として活動し、国内で新型コロナの感染が拡大して以降、分科会の会長も務め、政府に助言を行うなど感染対策の推進にあたってきました。

尾身氏の後任の議長は、今後、委員から互選で選ばれます。

後藤新型コロナ対策担当大臣は「尾身氏のご指導により政府と専門家が一体となってコロナ対策に取り組んできた。これまでの多大な努力と功績に感謝したい」と述べました。

会議の委員には、新たに国立成育医療研究センターの五十嵐隆理事長や国立国際医療研究センターの大曲貴夫国際感染症センター長らが就任する予定です。