ハワイ山火事 原発処理水でも…拡散するフェイク情報 注意点は

ハワイ・マウイ島の山火事や、福島第一原子力発電所にたまる処理水の放出。こうした大きな出来事のたびにSNSではさまざまな情報が飛び交いますが、中にはうそ=フェイクの情報もあります。

フェイク情報にだまされないために、そしてみずからが拡散してしまわないためにどうすればいいのか。専門家などへの取材をもとに対策のポイントをまとめました。

フェイク情報 どんな時に拡散する?

フェイク情報が拡散しやすいと言われているのは、大きな災害や事件など人々が不安や怒りを抱くような出来事が起きた時です。

8月に発生したハワイのマウイ島の山火事では住宅地が大きな被害を受け、火災の原因をめぐってSNSでさまざまな情報が飛び交いました。

発生からまもなくして投稿された画像には、空から地表まで光の筋がまっすぐに伸びた様子が写っています。「山火事の前に撮影されたようだ」「レーザーで火災が引き起こされた」などのコメントが付けられていました。

しかし、アメリカのファクトチェックサイトなどが調べたところ、宇宙開発企業のスペースXが2018年5月にカリフォルニア州でロケットを打ち上げた際にインスタグラムなどに投稿した画像でした。

また、今月24日から海への放出が始まった福島第一原子力発電所にたまる処理水をめぐっても、SNSにフェイク情報や真偽不明の投稿が相次いでいます。

処理水放出の前後には「ドイツの研究機関のシミュレーション」として、処理水が世界に広がっていく様子を示したものだとする画像が拡散しました。

しかし、この画像は、アメリカのNOAA(海洋大気局)が東日本大震災のあとで津波の広がりを示した画像でした。中にはX(旧ツイッター)での投稿内容について、ほかのユーザーが情報を追加できる「コミュニティーノート」でコメントが付けられ、その後、投稿が削除されたものもありました。

また、処理水放出の直後、放出した場所で海の色が変化したように見える画像とともに、「海の色がとんでもないことに」などのコメントが付けられた投稿もみられました。

海の色は処理水の放出とは無関係に日常的に変化しているとして、放出前の映像と比較して反論する書き込みもありました。

そもそもフェイク情報とは?

フェイク情報に定まった定義はありませんが、「偽情報」「誤情報」などが含まれます。

「偽情報」…何らかの利益を得ることや、だますことを目的とした、意図的なうその情報。
「誤情報」…勘違いや誤解によって拡散された誤った情報。

また、「偽情報」や「誤情報」とは少し異なったもので、政治的、社会的な出来事や事件、事故の背後に強大な力が働いていると解釈する「陰謀論」もあります。

たとえば「世界はディープステート(闇の政府)に支配されている」「東日本大震災は人工的に引き起こされた」などといった根拠のない情報です。

フェイク情報が広がると社会の混乱を招き、災害時に正しい避難行動ができなくなったり、殺人など重大な事件に発展したりするおそれもあります。

このほか、情報自体は正しいものの誰かを攻撃したり誤解させたりするねらいのある「悪意ある情報」も、“害のある情報”として注意が必要だということです。

なぜ拡散してしまう?

フェイク情報対策に詳しい国際大学の山口真一准教授のグループは3年前、実際に拡散した9件のフェイクニュースを見聞きした人たちに対し、それが誤った情報だと気付いたかどうか調査を行いました。

調査の結果、それぞれで差はあるものの、平均ではおよそ75%の人が誤った情報だと気付いていなかったということです。

国際大学GLOCOM 山口真一 准教授

山口真一准教授
「フェイク情報を拡散する理由としては、「不安に駆られたから」とか「怒りを感じたから」といったものが多いです。特に災害時にはこうした感情を抱きやすく、拡散されやすいと言われています」

なぜ、いま対策が求められるのか?

フェイク情報によって社会を揺るがす事態を招きかねないと考えられているからです。

2016年のアメリカ大統領選挙、イギリスがEU離脱を決めた国民投票では、SNSを中心に広がった、必ずしも事実ではない情報に基づいて有権者が判断したのではないかという意見が出て、対応を求める声が高まりました。

実際に欧米では陰謀論やフェイク情報を信じた人による事件も起きています。

事件が起きたワシントンのピザ店

アメリカでは、2016年12月にトランプ氏と大統領選で争ったヒラリー・クリントン氏が「児童売春組織に関与している」というネット上で拡散した陰謀論を信じた男が、組織の拠点とされた首都ワシントンのピザ店に押し入って、発砲する事件が起きました。

去年にはドイツがディープ・ステート=闇の政府に支配されているという陰謀論を信じ、国家の転覆と独自の政府の樹立を企てていたとして、貴族の家系出身とみられる「ハインリヒ13世」を名乗る男や現職の裁判官などが逮捕されました。

警察に連行される「ハインリヒ13世」 (2022年12月7日 ドイツ フランクフルト)

これまでフェイク情報は英語の環境で広がることが多いとされ、日本には“日本語の壁”があり、欧米からの情報が入り込みにくいとされてきました。

ただ、12年前の福島第一原発事故や、2020年以降の新型コロナについて根拠が乏しい情報が広まったこともあるほか、最近では生成AIで自然な日本語が誰でも書けるようになりつつあり、今後、フェイク情報がさらに広がりやすくなるのではないかと懸念されています。

私たちにできる対策は?

総務省が公開している偽情報や誤情報に関する啓発教材では、次の4つのポイントをチェックすることが大切だとしています。

1.情報源は?
根拠となる情報は、どこから、いつ発信されたものなのか。
今も存在しているか。
2.その分野の専門家が発信している?
専門知識や資格を持った人が発信している情報か。
過去に批判されていないか。
3.他ではどう言われている?
その情報に他の人やメディアはどう言っているのか。
反論している人はいないか。
4.その画像は本物?
それだけで「本当」だと判断しても大丈夫か。
過去の無関係の画像ではないか。

山口真一准教授
「『誰でもだまされる』ということを知っておくことが極めて重要です。ただ情報の氾濫する今の時代に、すべてのポイントをチェックすることは無理だと思います。自分がその情報を拡散しようと思ったときだけでも4つのポイントを検証すれば、自分がフェイク情報を拡散してしまうことは防げると思います」