『消えた桜 一体何が』

多くの人を魅了する桜。春になると仲間と集まって楽しくお花見をする人も多いのではないでしょうか。

ところが、その桜が各地で次々に枯れて伐採される事態が起きています。

この夏から対策をしないと、来年の春にもその桜、見られなくなるかもしれません。

(大阪放送局 記者 廣瀬奈々美/奈良放送局 記者 八城千歳)

桜並木がわずか3年で

大阪 羽曳野市の桜並木。

春には一般の人にも開放されて、人気のお花見スポットでした。

ところが…

ここ3年ほどで斜面にあった数十本の桜は、2、3本を残して伐採。大きく姿を変えてしまいました。

桜の木が枯れたのが原因でした。

今は草むらの中に点々と大きな切り株が残るだけです。

同じような現象は、大阪の別の住宅地でも起きていました。

ことし5月、団地の斜面の木が枯れ、伐採されました。今は残った切り株にブルーシートが巻かれています。

枯れたのは数十年前に植えられた、もともと弱っていた高齢の桜でした。

原因は?

各地で相次ぐ、桜の被害。

専門家が原因だと指摘するのが「クビアカツヤカミキリ」という昆虫です。

カミキリムシの一種で、全身は黒く、頭部の下が赤いことが特徴です。

成虫の体長は2~4センチほど。

モモやウメ、サクラなどの「バラ科」の樹木に生息し、卵を産みつけます。

そして、卵からかえった幼虫は木の内部を食い荒らして枯れさせてしまいます

原産は中国などで、日本の生態系などに悪影響をおよぼすことから、「特定外来生物」に指定されています。

危機感募る「吉野」の桜

このクビアカツヤカミキリに、今、ひときわ警戒を強めている地域が、奈良県南部の吉野山です。

桜がご神木として信仰されている吉野山は、春の桜のシーズンにはおよそ40万人の観光客が訪れる、全国有数の桜の名所です。

吉野山ではクビアカツヤカミキリによる被害は確認されていませんが、去年、北西におよそ6キロ離れた隣町で、被害を受けた木が確認されたのです。

もし、クビアカツヤカミキリが侵入すれば、桜に被害が出るかもしれないと、危機感を募らせた地元の保存会は対策を進めています。

月に1度、職員が手分けして吉野山の入り口近くのおよそ200本の桜を見回り、成虫や卵などがないかを確認しているのです。

さらに、一部の桜の幹に、クビアカツヤカミキリが産卵できないようにするネットを巻く取り組みも、試験的に導入しています。

ただ、およそ3万本といわれるすべての木に導入するのは、現実的ではありません。

吉野山保勝会 伊藤将司さん
「ご神木としてあがめられていて、1300年の歴史があり、ずっと守られてきた相当大切な木なので、吉野山には入ってほしくないです。ただ、クビアカツヤカミキリがどういう動きをするかも、僕らには予想もつかないので、やっかいです」

止まらぬ拡大

クビアカツヤカミキリは、生息範囲の拡大を続けています。

近畿地方では、2015年に大阪府で被害が確認されて以降、生息範囲が広がっていて、現在は奈良県、和歌山県、兵庫県でも確認されています。

昆虫に詳しい橿原市昆虫館の学芸員、池田大さんは、急速に拡大する理由には、以下の3つがあるとしています。

1.遠くまで飛ぶ
1回の飛行で20メートル程度飛ぶともいわれ、かなりの距離を移動し、生息域は年間2~3キロのペースで広まっているという

2.たくさん卵を産む
繁殖力が強く、1匹のメスが1000個以上卵を産むことがある

3.天敵が少ない
日本には寄生するハチなどの天敵が少ない

この夏から止める

どうすればクビアカツヤカミキリの拡大を止められるのか。

池田さんは、クビアカツヤカミキリは、行政が管理している公園だけではなくて、私有地の中の木でも発生し、温床となることがあるため、市民の協力が必要だと指摘しています。

池田さんに、駆除する際の注意点を教えてもらいました。

●成虫の場合

まず、6月から8月に発生するクビアカツヤカミキリの成虫を見つけた場合は、捕まえて踏み潰したり、たたき潰したりして駆除します。

ただ、クビアカトラカミキリやホタルカミキリといった、見た目が似た在来種がいるので、注意が必要です。

最も大きな違いはサイズ。

クビアカツヤカミキリは2~4センチほどあるのに対し、クビアカトラカミキリやホタルカミキリは1センチほどと小さいです。

また、クビアカツヤカミキリは触角が体よりも長い点も、見極めるポイントです。

駆除するのはちょっと…という人は、写真などを撮って、行政に報告してほしいということです。

●幼虫の場合

4月から11月ごろにかけては木を食い荒らす幼虫が活動するため、木の幹や根元に「フラス」という糞と木くずが混ざったものが出ているということです。

クビアカツヤカミキリの「フラス」は、
▽大量に出ている
▽うどんのように細長い形をしている
▽木の幹の下や根に被害が多い
といった特徴があります。

(取材中、池田さんにセミが…)

橿原市昆虫館 学芸員 池田大さん
「なるべく一人でも多く、桜に関心をもっていただき、散歩の途中などでチェックして、少しでも異変を感じたら、なるべく早く行政などに連絡して、早く対応していくのが、一番いいです」

桜をいつまでも楽しむために

虫は頑張って生きているだけなので、人間の都合で殺してしまうことに、複雑な思いを持つ人もいるかもしれません。

ただ、桜だけではなく、全国的には桃などの果樹でも被害が深刻になっています。

もともと日本にいなかった虫によって、農家が被害を受けたり、春になっても桜の花が見られなくなったりするのを防ぐためにも、少しでも身近にある桜の木に目を向けてみてほしいです。