「やっていけなくなる」中国 全面禁輸 漁を取りやめた漁業者も

中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止すると発表したこと受けて、中国向けに輸出している漁業者や水産加工会社からは「漁師としてやっていけなくなる」とか「徒労感を感じる」といった懸念の声も上がっています。

中には今シーズンの漁を取りやめた漁業者も…。

一方、政府は販路開拓など必要な支援を行う考えを示しています。漁業関係者の受け止めをまとめました。

佐賀 有明海 今シーズンのクラゲ漁取りやめに

のり養殖を営みながらクラゲ漁を行う鹿島市の中島翼さんです。東京電力福島第一原発にたまる処理水の海洋放出で中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止すると発表したことを受けて、24日午後、仲買業者から電話で取引停止の連絡があったということです。

このため、来月上旬まで予定していた今シーズンのクラゲ漁を25日からとりやめ、26日以降、漁に使うかごや網の片付けを行うことにしています。中島さんによりますと、7月の大雨の影響も重なり、今シーズンのクラゲの水揚げ量は例年の6割程度に留まるということです。

中島さんは「いつもどおり漁に出ようと思っていたが急に停止になってショックだった。この時期はクラゲしか収入源がないので、来年以降もどうなるか心配だ」と話していました。

佐賀県沖の有明海では、近年、特産の二枚貝が不漁となるなかクラゲはこれに代わって漁業者の貴重な収入源になっていました。

輸出見通したたなくなる業者も 三重 尾鷲市

三重県尾鷲市の水産加工会社では、以前からアジア向けの輸出拡大に力を入れていて、新型コロナウイルスの感染拡大で輸出が中断する前は、年間およそ10トンのブリを中国に輸出していました。

去年4月には、輸出を再開し、中国への輸出拡大を図っていましたが、今回、中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止すると発表したことを受けて、先行きが見通せなくなりました。

水産加工会社で輸出を担当する営業部の中澤祥係長は「まさか日本全体が輸入停止の対象になるとは思わず驚いた。中国の市場は大きく中国のニーズに合わせた商品開発も進めていたので徒労感を感じる。政府には、可能なかぎり早く輸出を再開できるよう働きかけてもらいたい」と話していました。

中国向けホタテ扱う業者から懸念の声も 北海道

北海道南部の森町で中国向けのホタテを扱っている漁業者からは影響を懸念する声が上がっています。

森町の砂原漁港は、ホタテの養殖が盛んな噴火湾沿いに位置し、漁業者の小川政浩さんは2年かけてホタテを育てています。

財務省によりますと2022年、日本から中国に輸出されたホタテのうち、北海道からの輸出額は9割以上を占めていて、小川さんによりますと、砂原漁港でも6割から7割ほどが中国向けに輸出されているということです。

このため、すでに養殖を始めているホタテの出荷先が見つからなければ、収入が落ち込むなどの影響が懸念されています。

小川さんは「輸入停止が長引けばホタテ漁師としてやっていけなくなる。日本政府はなんとか中国と折り合いをつけてほしい」と話していました。

一方、森町の岡嶋康輔町長は中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止したことを受けて25日、漁協の幹部などと対応を協議しました。協議のあと岡嶋町長は「町の財源でも漁業者への支援を拡充していくことを検討したい」と述べ、対策を強化していく考えを示しました。町は今後、周辺の自治体とも情報を共有して対応を検討することにしています。

政府 販路開拓の支援など検討 

松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「風評影響への備えとして措置している需要対策の300億円の基金を通じて販路開拓に向けた必要な支援を行っていく。設備投資などは直接的にはこの基金や賠償の対象となるわけではないが、政府として新たな輸出先のニーズに応じた加工体制の強化も臨機応変に対策を講じていく」と述べました。

鈴木財務大臣は「中国と香港をあわせると、日本からの水産物はおよそ1500億円の輸出実績があり、関係者にとって影響は大きい。どういう救済的な措置が取れるのかどうか、真剣に考えるべきだ」と述べました。

その上で「日本から輸出した魚を中国で加工して、EU=ヨーロッパ連合などに輸出する形態もある。今後、日本国内で加工して直接、EUなどの市場に輸出することもアイディアの1つだ」と述べました。

また、西村経済産業大臣は「中国政府による決定は我が国として断じて受け入れられるものではない」と述べ、中国側の対応を批判しました。

その上で「きょう夕方から昨日、採取した水質のデータも出てくるので、そうしたデータを毎日公表していく。我々は科学的根拠に基づいて行動しているので、根拠のない規制などの即時撤廃を政府一丸となって強く求めていく」と述べ、中国に対して輸入規制の即時撤廃を求めていく考えを強調しました。