“強度行動障害”当事者や家族支える専門知識持った人材育成へ

自分自身や周りの人を傷つけたり、ものを壊したりといった行動が頻繁にみられる「強度行動障害」のある人は、全国に少なくとも延べ7万8000人以上いるとされています。こうした人たちやその家族らを支えるため、厚生労働省は専門的な知識を持った「広域的支援人材」を新たに育成し、来年度から都道府県の支援拠点などに配置する方針を固めました。

「強度行動障害」は、自分自身や周りの人を傷つけたり、ものを壊したりといった行動が頻繁にみられる状態で、重度の知的障害を伴う自閉症の人に多いとされています。

厚生労働省によりますと全国に少なくとも延べ7万8000人以上いるとみられるということですが、障害者が共同で暮らすグループホームなどでは、支援スタッフの負担が大きいなどとして利用を断られ、本人や家族が十分な支援を受けられないケースも相次いでいます。

こうした状況を受けて、厚生労働省は強度行動障害についての専門的な知識を持った「広域的支援人材」を新たに育成し、来年度から都道府県や政令指定都市が運営する発達障害者支援センターなどに配置する方針を固めました。

「広域的支援人材」は強度行動障害に関する専門的な研修を受けた人などが担うことが想定されていて、グループホームや入所施設などで支援が難しくなった場合に現地に繰り返し足を運び、問題となる行動がみられるようになった原因を分析したうえで、支援計画を作成するなどして指導や助言を行うということです。

厚生労働省は強度行動障害のある人やその家族が地域で安心して暮らせる環境を整えたい考えで、関連する費用を来年度予算案の概算要求に盛り込む方針です。

“強度行動障害”とは

「強度行動障害」とは、自分自身や周りの人を傷つけてしまったり、ものを壊したりといった行動が頻繁にみられる状態で、もともとある障害ではありません。

重度の知的障害を伴う自閉症の人に多いとされています。

厚生労働省などによりますとこだわりが強かったり感覚が過敏だったりする特性があり、周りの人の対応や環境などにストレスや不安を感じて引き起こされることから、それぞれの特性にあった声かけをしたり、生活環境を整えたりすることで状態を改善させることができるということです。

しかし、おととし国の事業として行われた調査の中で施設などの利用を中断することになった強度行動障害のある人の家族にその理由を尋ねたところ「職員にけがをさせるなどして利用を断られた」とか、「職員の対応のしかたが原因で、本人が爆発的に荒れ、抵抗も強くなっていたため家族側から利用を断った」といった回答が寄せられ、十分な支援を受けられていないケースも明らかになっています。

こうしたことから強度行動障害に関する国の検討会は、ことし3月にまとめた報告書で「受け入れ体制が整わず、サービスが十分に提供されないことで、同居する家族にとって重い負担になっている」とし、支援にあたる人材のさらなる専門性の向上に向けた人材育成が重要だと指摘していました。

障害者施設長“具体的なアドバイスしてくれる制度を”

埼玉県日高市にある社会福祉法人日和田会が運営する障害者の介護事業所では、他の施設で利用を断られるなどした強度行動障害のある人も積極的に受け入れています。

現在は利用者110人のうち、49人は強度行動障害があるということです。

これまで9年間にわたって強度行動障害のある人の支援に携わってきた施設長の滝村一子さんは「支援してきた強度行動障害のある人はこだわりが強く、自分の感情をコントロールできないとほかの利用者や職員をたたいたり、髪の毛を引っ張ったりすることがありました。経験の少ないスタッフなどには負担が大きく、中には退職してしまう人もいます」と話しました。

一方、本人の特性にあった支援ができた際には落ち着きを取り戻す場合も多いということで、「試行錯誤をしながらでも本人のことをしっかりと知ろうとすることで互いに理解し合えるようになります。そのためにも支援者側が専門的な知識を身に着けて対応にあたることも大切だと思います。外部から専門的な知識のある担当者に現場に来てもらい具体的なアドバイスをしてくれる制度があればありがたいです」と話していました。

そのうえで「現場では人手が足りておらず疲弊しながら働いている職員も少なくありません。専門的な人材を確保できるよう国にはしっかりと対策をしてほしいです」と話していました。