のんが語る“これまで”と“これから”

のんが語る“これまで”と“これから”
俳優・アーティスト のんさん。
20歳のときに主演した連続テレビ小説『あまちゃん』から10年。
今年7月13日、30歳の誕生日を迎えました。

2016年に事務所から独立し、名前を「のん」と変えてからは、演技だけにとどまらず、ジャンルを超えて活躍の場を広げてきました。

のんさんの「これまで」と「これから」に迫りました。

(大阪放送局 かんさい熱視線 取材班)

どんなときも、力強く、前を向いている人

今回30歳の節目に、のんさんの活動の日々を追いかけ、インタビューを行いました。

取材を続ける中で、私たちが漠然と抱いていたのんさんの「イメージ」は少しずつ更新されていきました。
のんさんから受けた印象は、どんなときも、力強く、前を向いている人だということです。

特に印象深いのが「どんな10年でした?」とインタビューで尋ねたときの言葉でした。
のんさん
「本当に大変だったこととかも、いっぱいある……けど、今は気持ちがすごく充実しています。『のん』になってからは、自分が好きなことしかやっていない、やりたいって思ったことしかやっていないから。自分自身の表現もすごく豊かになったと思うし、こういう形で活動してきたからこそ出会えた方たちもいっぱいいるし。応援してくれる方たちが増えていっている実感もすごくあるので、なんか最近、本当に幸せな気持ちでいっぱいです」

『あまちゃん』から10年 今の「のん」に通じること

2013年に放送され、当時大きな話題となった連続テレビ小説『あまちゃん』。

のんさんも、現在行われている再放送を見ているそうです。
「10年ぶりに見返しています。『あまちゃん』って、やっぱりこんなに面白いんだなって、すごい感動していますね。純粋にケタケタ笑いながら見てます」
『あまちゃん』は岩手県・久慈市を舞台の一つとし、「震災」を描いたドラマでもありました。

この作品を通して得た出会いや経験は、のんさんの「現在」にもつながる大切なものだといいます。
「『楽しいこと』『笑顔になれること』をやっていきたい、っていう思いがすごく強くて」

「私、『あまちゃん』でロケしているときは、毎日岩手にいて、もう住んでるみたいな感じだったから、自分の中で東北は『第2の故郷』みたいに思っていて(のんさんは兵庫県出身)。そうやって関わっていくうちに…震災のことと、私はどう向き合ったらいいんだろうって思うようになったんです。だけど、その答えがずっと出なくて。今も出ないままではあるんですけど。よそ者で、現地で災害を体験していない自分に何ができるんだろうって、すごい考え続けていて…なんかそういう葛藤がずっとあるんです」
「でも今年、渡辺えりさん(『あまちゃん』で共演)と、震災のことを考えるっていう内容の配信をやらせていただいて。そのときに、被災地にいた人から『考えてくれていることが嬉しい』っていうメッセージをもらって。それを読んで、『あっ、私は関わっていいんだ』って思えたんです。自分はよそ者だってどこかで思っていたけど、でも本当に心おきなく『ただいま』って故郷に帰るような気持ちで東北に行って関わっていいんだなぁって思ったんです。その時に、私はもう…楽しいこと、みんなが笑顔になれるような活動をしていく!って、改めて心に決めたんです。それが自分のモットーというか、スタンスの軸になっていると思います」

新たな代表作 映画『さかなのこ』で見せた真骨頂

昨年公開されたさかなクンの自伝的映画『さかなのこ』。
のんさんは性別の壁を越え、主役を務めました。魚への「好き」の気持ちをまっすぐ貫く主人公を熱演。そのユニークで生き生きとした演技が高く評価されました。

このキャスティングをしたのは沖田修一監督。人間模様をユーモアたっぷりに描くことに定評があります。主人公「ミー坊」は、のんさん以外に考えられなかったといいます。
映画『さかなのこ』 沖田修一監督
「さかなクンの映画っていう、『猛烈に何かを好きになった人』がテーマの映画を作るってときに、性別はそれほど重要じゃないなって思って。それで、『のんさんが主演だ』ってなったとき、本当に『映画が見えた』というか、むしろのんさん以外だったら全然かすんでしまうというか、主人公の感じがすごくのんさんにあって。何やっても様になるし、『ギョギョッ!』みたいなことをやるのも、たぶん人によってはモノマネにしか見えないみたいになるけど、のんさんがやるとすごくはまるんです」
沖田監督は、お笑いコンビ・かが屋の賀屋さんとのシーンを撮影しているときののんさんの様子が印象に残っているといいます。
「ミー坊が水族館で働くシーンで賀屋さんとお芝居しているとき、のんさんが『コントが好き』って言ってたんですよね。2人でコントするみたいな掛け合いが多かったんですけど、やっているとき、『すげえ生き生きしてんな』って感じました。チャップリンじゃないけど、動作だけでコミカルにやるシーンはいろいろ手を変え品を変えやってくれたりして。のんさんって、顔だちとか見た目の雰囲気と、やっている演技のギャップがすごくあって面白いですよね」
のんさんにしかない「役者としての魅力」とは。
沖田監督
「言葉にするのが難しいですけど……明るそうにも見えるし、でも強そうにも見えるし、はかなげにも見えるし、いろんなところで“幅が広くて強い”人なんじゃないかなって思います」
のんさんがもつ魅力が見事に発揮された『さかなのこ』。実はのんさん自身、かねてから性別を越えた俳優でありたい、と意識していたそうです。
「私が『こんな役やりたい!』って感じる役柄って、(一般的に)男の人がやっていることがすごく多いんです。でも、男じゃなくても、女でも、『こんなふうに解釈したらその役を演じられると思う!』って感じることがすごく多くて。性別の関係ないところで(演技を)やるっていうのは、自分でもすごい楽しんでやっているんですけど、自分としては、男性だからどう、女性だからどうとかっていうよりは、『この役、私もできるよ!』みたいな、そういう気持ちがあるって感じです」
ちなみに、のんさん、ずっとやってみたい役があるんだそうです。
「探偵役をずっとやってみたくて。シャーロックホームズとか。そういうのにずっと憧れていて。ちょっとユーモラスで、ふざけたところがあるんだけれど、実はすごく天才で、ドラマチックな解決のしかたをしていくみたいな。そんな探偵役をやってみたいです」

「のん」として切り開いてきた表現の道

「のん」と改名してからは、俳優のみならず「アーティスト」としても活躍するのんさん。音楽、アート、ファッション、映画監督など、ジャンルを超えて表現の場を広げています。

その原動力は、「やりたい!」と思ったことには、猪突猛進(ちょとつもうしん)にチャレンジしていく、まっすぐな性格です。
「『さかなのこ』で演じたミー坊は、『自分が飛び込んでいいのかなぁ』とかそういう気持ちがない『シンプルな好き』を持っているのが特徴だなって思っていたんです。それで、自分と照らし合わせたときに、私自身もそういうところがあるなって思って。『シンプルな好き』。『シンプルなやりたい』。そこが私の強さなのかなって」
「今は、自分で会社を持って、音楽レーベルを立ち上げてやっているんです。だから、自分でやることに自分で責任を負わなくちゃいけなくて。それってめっちゃきついじゃないですか。面倒なことや『もう!なんで!?』みたいなこともいっぱいあって。でも、それでも自分が言ったから最後まで責任もってやるぞ、っていうふうに頑張れる、ふんばれるっていうところがあるんです。自分には今の感じが性に合ってるし、今のほうが安定しています。大変ですけど…笑」

音楽で表現する思い 20代を凝縮した曲「荒野に立つ」

のんさんが改名してから新たに始めた表現のひとつが「音楽」。

ギターをかき鳴らし、自身でも作詞作曲。音楽フェスへの出演や、ワンマンライブも行うなど精力的に活動しています。俳優とは違う、音楽ならではの面白さは「自分の気持ちやメッセージを直接作品にできること」だといいます。
30歳を迎える節目に、「自分の20代を凝縮した作品を作りたい」と自身2枚目のアルバムをリリースしました。
「今まで明るい所とかポジティブな所を見せたいと思って、そういう面ばかりを押し出していたんですけど、今回のアルバムでは、自分がくじけたこととか自分の弱さとかを見せるような、そういう要素も入れたいと思って作りました」
のんさんの思いを特に反映した曲があります。それは「荒野に立つ」という曲。

のんさんが作詞作曲を依頼し、この曲を書き下ろしたのが、シンガーソングライターのヒグチアイさん。代表曲「悪魔の子」をはじめ、繊細な感情を劇的な楽曲に乗せて表現してきました。

曲を作ってもらうにあたって、のんさんは、この10年で感じてきたありのままの思いをヒグチアイさんに伝えたといいます。
のんさん
「アイさんをご飯に誘ってみっちりいろんなことをお話ししました。自分が今まで誰にも話さなかったようなこと?自分がたどってきた道、『のん』になるに至って、『のん』になってからの活動の中で大変だったことやそのときの気持ちとか。自分が落ち込んだり、くじけたりしたようなことを全部打ち明けて。それをアイさんが形にしてくれました」
ヒグチアイさんは、胸の内を聞いていく中で、のんさんへのイメージが少しずつ変わっていったといいます。
シンガーソングライター ヒグチアイさん
「話をしてみて…なんか…なんだろうな……みんなが思っている以上に、人間なんだなぁって思いましたね。いや、そりゃ人間だよなって話なんですけど。

たぶん、のんちゃんって『こういう人なんじゃないか』『ああいう人なんじゃないか』って、架空のイメージをみんなが当てはめ続けちゃっているような気がしていて。注目された時の印象がついてしまうものだからしょうがないとは思うんですけど、なんで本当のところが伝わらないんだろうっていうのはずっとあると思うので、そういう意味ではすごく人間で、優しくて、熱くて…

めっちゃ強い人だと思いますけどね。その強さゆえに人とぶつかる所もあるんだろうなというか。なんか、弱い人って、優しさというか、人とぶつからないようにすることができる気がするんだけど、のんちゃんは『なんでみんなはそうなんだろう』っていうふうに疑問に感じてきたことも、とっても多いんじゃないかなと思って。そういう、強いから傷つく部分がいっぱいあったような気がします」
「『この時こういうことがあって、こういうふうに思ったんだ』っていうことをすごくちゃんと言葉で説明できる人で、『のんちゃんってこういう子だったんだ』って思いました。だから、のんちゃんが話してくれた言葉を伝えるのが自分の役割でもあるなと思って、極力のんちゃんの言葉や、内容を曲に盛り込みました」
そんなヒグチアイさんの言葉の通り、「荒野に立つ」では、これまでののんさんのイメージとは違う、激しい感情の数々がむき出しの言葉で歌われます。

のんさんが、この曲でとりわけ大切にしたかったのは、「あの日わたしはこの手で火をつけた」という歌詞に込めた思いだといいます。
「のんになったばかりの頃の気持ちなんですけど、私が今立っている場所は、自分が火を解き放って自分で作り上げた荒野なんだっていう、一回、荒野というものを自分で作るっていうところから始めたんだっていうイメージですね」
そして、印象的なのが「後悔」という言葉。
「自分が『のん』になってこうやって活動している中で後悔することっていうのは基本的には全くないんです。本当に、今の自分のやり方じゃないと、できないようなことがたくさんできていて、私は、自分が縛られずにやるっていうやり方じゃないと性に合ってないなっていうのが、すごくあるんです。
だから、後悔はないんだけど、なんていうか……
やっぱり自分が、全部正しいことをしていくって難しいじゃないですか。だから、今も、間違ったりとか失敗したりとかいっぱいあるから。自分がいつまでたっても直らないような部分とか、『あ!もう、こうすればよかったのに!』みたいな失敗とか。そういう後悔の積み重ねっていうのは今もいっぱいあって」
「『のん』になるって決めるのは、すごく早かったんですね。でも、それが自分の中でどういうことかっていうのがかみ砕けてなかったり、どういう影響があるのかを、おおよそは予測できたけど、自分自身のことだけで完結することだと思っていたんです。けど、それ以外、自分の中よりも外のことに考えが至らなかったなって。自分のことだけだったら大丈夫だったんですけど……でも、秘密です!本当にアイさんにしか話していないようなこともあるんで。今、一緒に仕事やってるスタッフとかにも言ってないような胸の内を打ち明けたりとかもしたので。はい。『荒野に立つ』に全部込められています」

30歳になったらもっと解き放たれる気がする

迎えた30歳。最後に「これから」についてのんさんに聞きました。
「いろんなことを解き放って、今よりもっともっと自由な30代にしたいですね。なんか、20代って年齢的にもそうですけど、やっぱり大人の方から見たら『まだまだだな~』みたいなふうに見られたりするじゃないですか。だから、わけもなく自分が『若いね~』って見られちゃうっていうのがあったんですけど、30歳になったらいろんなことから解き放たれるような気がしてワクワクしているんです。
今までは、現場に行くときも『なめられないようにしなきゃ』とか『失敗しないようにしなきゃ』とか、そういうことで頭の中がいっぱいですっごく緊張してたんですけど、この先もっと自由になって、役を演じることももっと楽しくなっていって、なんか…(両手を広げて)『どこからでもかかってきなさい!』みたいな気持ちでいられるんじゃないかなって(笑)もっとパワフルにエネルギー増すなっていう予感がしています。
自分の道を信じて、自信を持って、どんどん未開の地に踏み込んでいきたいなって思いますね。まずは、探偵役やってみたい(笑)!」