辺野古の工事めぐる裁判 9月4日に判決 沖縄県の敗訴確定へ

沖縄県のアメリカ軍普天間基地の移設先となっている名護市辺野古での軟弱地盤の改良工事をめぐり、工事を承認しない県に対して国が行った「是正の指示」が違法かどうかが争われた裁判で、最高裁判所は9月に判決を言い渡すことを決めました。
高等裁判所の判断を変更するために必要な弁論を開かないため県の敗訴が確定する見通しで、県は国の指示に従い工事を承認する義務を負うことになります。

普天間基地の移設のため、国は5年前に名護市辺野古沖で土砂の投入を始めましたが、区域全体の7割ほどを占める埋め立て予定地の北側では軟弱地盤が見つかり、国が地盤の改良工事を進めるため設計の変更を求めましたが、県が「不承認」としたため工事が進んでいません。

国土交通省は去年、地方自治法に基づき県に承認を求める「是正の指示」を行いました。

これについて、県は取り消しを求める訴えを起こしましたが、ことし3月の福岡高等裁判所那覇支部の判決では、国の関与は適法だとして退けられ、県が上告していました。

この裁判で、最高裁判所第1小法廷の岡正晶裁判長は9月4日に判決を言い渡すことを決めました。

高等裁判所の判断を変更するために必要な弁論を開かないため、県の敗訴が確定する見通しとなりました。

確定すれば、移設に反対してきた県は国の指示に従い、工事を承認する義務を負うことになります。

一方国は、県が指示に従わない場合、代わりに承認する「代執行」に向けた手続きができるようになります。

辺野古への移設計画をめぐっては、国と県が激しく対立し、これまで13件の訴訟が起こされていますが、移設計画の大きな焦点となっていた軟弱地盤の改良工事について最高裁が判断を示すのは初めてで、ほかの訴訟や工事の計画にも影響を与える可能性があります。

また、県は設計変更の「不承認」を取り消す国の「裁決」についても取り消しを求めていましたが、これについて最高裁判所第1小法廷は上告を退ける決定を出し、県の敗訴が確定しました。

今後の手続き

国や沖縄県によりますと、これによって、直ちにアメリカ軍キャンプシュワブの北側の大浦湾側の埋め立て工事が始まるわけではありません。

県の敗訴が確定した場合、県は、国の指示に従って設計変更の申請を承認する義務を負うことになります。

県が承認すれば、国は、設計変更後の計画に基づく工事に着手できる状態となります。

県の承認を受けて、国は地盤の改良のために、くいの打ち込みなどを行う計画です。

ただ、国は判決が出る前から、ことし、すでに北側を埋め立てるための土砂を現場に仮置きする計画を進めています。

そして、埋め立て予定地を囲む護岸の工事を行ってから、土砂の投入を始めることにしています。

一方、仮に、県が正当な理由なく、承認しなかったり、改めて不承認としたりした場合、国は、地方自治法に基づき、県の代わりに設計変更の申請を承認する「代執行」に向けて県に対し、期限を定めて勧告を行うなどといった対応を取ることが予想されます。

全体の約7割占める大浦湾側の区域は

防衛省によりますと、普天間基地の移設計画では、辺野古沖、およそ150ヘクタールを埋め立て、オーバーランを含めて、長さ1800メートルの滑走路をV字型に2本建設することになっています。

このうち、軟弱地盤が見つかったアメリカ軍キャンプシュワブの北側の大浦湾側の区域は、埋め立て区域全体の7割ほどの面積を占めています。

埋め立て工事が進められているキャンプシュワブの南側の辺野古側と比べると、必要な土砂の量は5倍以上のおよそ1700万立方メートルにのぼります。

このため、埋め立て予定地の大部分を占める大浦湾側の土砂の投入が始まれば、移設に向けた工事が大きく進むことになります。

一方、防衛省は、地盤の改良工事には、およそ7万1000本のくいを海中などに打ち込む必要があり、設計変更後の計画に基づく工事は、着手から完了まで9年3か月、そのほかの手続きを含めると、施設の提供まで、さらにおよそ3年かかるとしています。

県は、これまで大浦湾側の埋め立てについて、「前例のない大規模かつ高度な地盤改良工事で設計の安全性が十分ではない」などと指摘してきました。

沖縄県の敗訴確定すれば残りの訴訟に影響も

9月に最高裁判所で沖縄県の敗訴が確定すれば、県は、国による設計変更の申請を承認する義務を負うことになります。

名護市辺野古への移設計画の阻止を目指す沖縄県にとっては厳しい判決になるといえます。

沖縄県の玉城知事は2期目の当選を果たした去年の県知事選挙で、政府に辺野古への移設計画を断念させることを公約に掲げ、ことし6月には岸田総理大臣と面会し、対話による問題解決に向けて、政府と沖縄県の対話の場を設けるよう求めましたが、政府は一貫して「辺野古移設が唯一の解決策」という立場を変えていません。

玉城知事は、8月に開かれた記者会見で「過去の県知事選挙や県民投票の結果から、反対の民意が明確に示されている」と述べていて、移設反対の民意を背景に対抗措置を講じたい考えです。

しかし、辺野古への移設計画をめぐって、県と国が争った裁判13件のうち、6件で県の敗訴が確定し、4件で和解が成立するか、県が訴えを取り下げる結果となっていて、今回の判決が確定すれば、残りの訴訟にも影響を与えることになりそうです。

沖縄県の関係者からは「法的に争う手段が乏しくなっている」といった見方が出ており、今後、県は、いつ国による設計変更の申請を承認するのか、あるいは別の手段を取るのか、厳しい判断を迫られることになります。

玉城知事「弁護士と調整中」

沖縄県の敗訴が確定する見通しになったことについて、沖縄県の玉城知事は北谷町で記者団に対し、「まだ、そういう連絡は受け取っていない。ただ、いつ、判決が出るのかという期日をいただいたので、今、弁護士の方と、その調整をしている」と述べました。

沖縄県の敗訴確定の見通しに 県民は

20代の女性は「同級生や後輩が辺野古出身で、基地反対の活動をしていますが、住民の声を差し置いて勝手に国の判断で工事を進めるのはどうなのかなと思います」と話していました。

68歳の女性は「絶望はしていません。粘り強く対話しながら国側がどういう姿勢でも、沖縄側は誠意をもって対応していってほしい」と話していました。

一方、30代の男性は「国と県でずっと対立するよりも、どこかで折り合いをつけるのが政治の仕事ではないか」と話していました。

名護市長 “判決受け 県と国 今後の動きを注視”

普天間基地の移設先となっている、名護市の渡具知武豊市長は「県と国の双方で訴訟をしている話なので、判決が出ていない今の時点ではコメントはできない。仮に事実上の敗訴であったとしても、そのことを受けて、県と国がどのような判断をしていくのか、今後の動きを見ていくことになると思う」と話しました。

宜野湾市長 “27年間 裁判に左右 これ以上我慢できず”

普天間基地を抱える宜野湾市の松川正則市長は「市として、どう判断しアクションを起こすかは、判決を見てからでないと言えない。ただ、行政をあずかる者としては、司法の判断を尊重しなければいけないだろうとは思う」と述べました。

そのうえで、「宜野湾市は普天間基地の返還合意からの27年間、裁判にずっと左右され、返還・移設が進まず、これ以上は我慢できないと発信している。辺野古がいいということではなく、宜野湾市としては、やはり移設をぜひ進めてほしい」と話していました。

防衛省 “答える立場にない”

防衛省は「2つの裁判については沖縄県知事と国土交通大臣との間の訴訟で、防衛省として答える立場にない。防衛省としては引き続き地元の皆様に丁寧な説明を行いながら、普天間飛行場の1日も早い全面返還を実現するため、辺野古への移設工事を着実に進めてまいりたい」とコメントしています。

防衛省幹部「県側の対応を注視」

防衛省幹部の1人は、NHKの取材に対し、「あくまで沖縄県の上告に対するものであり、判決の言い渡しを受けて、国が何らかの対応をするものではない。判決が確定したあと、沖縄県が指示に従い工事を承認するかどうかを含め、県側の対応を注視したい」と話しています。