ウクライナ侵攻1年半 両国の思惑は

ロシアがウクライナへの侵攻を開始してから、24日で1年半となります。ウクライナのゼレンスキー大統領は旧ソビエトから独立した記念日の式典で演説し、「われわれは必ず勝利する」などと述べ、軍事侵攻を続けるロシアと戦うため、国民の団結を呼びかけました。

ゼレンスキー大統領 “ウクライナの独立は手放さない”

8月24日は、去年2月にロシアが軍事侵攻を始めてからちょうど1年半にあたるのと同時に、1991年にウクライナが旧ソビエトから独立した独立記念日でもあります。

これを記念して、ウクライナのゼレンスキー大統領は、首都キーウの中心部で演説しました。

この中で、ゼレンスキー大統領は「われわれはウクライナの独立は手放さないという思いで結ばれている。世界で何が起きてもみずからの力で自国を守らなければならない」と述べ軍事侵攻を続けるロシアと戦うため、国民の団結を呼びかけました。

その上で「われわれは必ず勝利すると実感している。わたしたちの孫の世代や、さらにその先の世代も、この日を祝うだろう」と述べ、反転攻勢が苦戦しているとの見方も広がるなか、粘り強く戦う必要性を訴えました。

また「世界はウクライナを支持し、多くの国々がわれわれに連帯し、支援してくれている」と述べて各国からの軍事的な支援や復興に向けた支援があれば勝てると国民を勇気づけました。

独立記念日に合わせてウクライナの首都キーウでは中心部の通りに、戦闘で破壊したロシア軍の戦車などおよそ20両や、迎撃したミサイルの破片などが展示され大勢の人が訪れています。

9歳の娘を連れて通りを訪れていた女性は「子どもたちの世代が平和な空の下で暮らせるよういま私たちが戦わなければならないと思います」と話していました。

プーチン大統領 結束を呼びかけ

ロシアのプーチン大統領は23日、ウクライナと国境を接するクルスク州を訪問し、第2次世界大戦で旧ソビエト軍とドイツ軍の戦車部隊が激戦を繰り広げた「クルスクの戦い」から80年の節目に開かれた式典に出席しました。

プーチン大統領は式典で、開始から1年半となるウクライナへの軍事侵攻に戦車部隊として加わった軍人などを前に「君たちの任務に感謝し誇りに思う。特別軍事作戦に参加するすべての者は祖国への献身と軍人としての誓いへの忠誠によって団結する」と述べ結束を呼びかけました。

ロシア軍 “ウクライナの無人機が攻撃”

ロシア国防省は24日、ウクライナ側が無人機による攻撃を仕掛けてきたと主張し、いずれも撃墜したと発表しました。

このうち1機の無人機は、首都モスクワ南西のカルーガ州でそして、2機の無人機がウクライナと国境を接する西部のブリャンスク州で、それぞれ上空を飛んでいたとしています。

ロシア国防省は、23日未明もモスクワに向けて無人機による攻撃が仕掛けられ、1機がビジネス街の「モスクワシティ」にある建設中のビルに衝突したとしていてロシア側は相次ぐ無人機の飛来に警戒を強めています。

ウクライナ駐日大使 “無人機による反撃強化へ”

ロシアによる軍事侵攻が始まって1年半となる中、ウクライナの駐日大使がNHKの取材に応じ、ウクライナ軍の反転攻勢は来年にかけても続く可能性があるとした上で無人機などによる反撃が大幅に強化されていくとの見方を示しました。

ロシアによる軍事侵攻が24日で1年半となるのを前に、22日、ウクライナのコルスンスキー駐日大使がNHKの取材に応じました。

この中で大使は、8月、ゼレンスキー大統領、軍のザルジニー総司令官、それに各国に駐在する大使らが一堂に会する本国での会議に自身も出席したとした上で「会議では、戦場の状況や、今後の数か月で何を達成しなければならないかといった点が共有された。戦争の終結へとつながる非常に明確な軍事や外交の方針が示された」と述べました。

会議で示された方針の詳細は明かせないとしつつ、今後の戦闘の見通しについては「目標はクリミアへと続く補給路を分断し、ロシア軍を孤立させて撤退を迫ることだ。冬までには防衛線を突破したいが、冬の間も戦闘は続ける」として、反転攻勢でロシア軍がウクライナ南部や東部に築いた防衛線を突破するなどの試みは来年にかけても続いていく可能性があるという見方を示しました。

さらに「ウクライナ軍は、モスクワなど、国境から700キロ先へも到達できる無人機の攻撃能力を手にした」と述べ、今後、オランダなどからのF16戦闘機の供与を待たずに無人機などによる反撃が大幅に強化されていくという見通しを示しました。

一方、ことし6月に始まった反転攻勢の遅れが指摘されていることについては「われわれは兵士を大切にしている。思うような速さではなくても一歩ずつ前進していて、いくつかの重要な町をすでに解放した」と述べた上で来年の夏までには戦闘を終結させたいとの姿勢を示しました。

また、領土を妥協することも含めてロシアと停戦交渉を始めるべきかという質問については「絶対に受け入れられないし、ありえない。いま戦いをやめれば、国民がロシアの収容所に入れられ、殺されてしまうだろう」と述べ、ロシア軍の撤退なしには停戦はできないとの考えを強調しました。

国防次官も “この戦争では無人機が重要”

ウクライナのハブリロフ国防次官は、ロシアとの戦闘で双方が多数の無人機を使用していることについて、「この戦争は大砲やミサイル以外の手段がどれほど効果的かを示す最初の事例となっている」と述べて無人機が戦場で従来の兵器と同様に重要になっているとの認識を示しました。

ウクライナ軍によりますとウクライナでは国内製と外国製の両方の無人機が使われています。

このうち、国内製の無人機についてはウクライナ国防省はことし1月の段階でこの1年に16社から日本円でおよそ79億円分の無人機を調達すると発表しています。

さらに国内の無人機産業の活性化のため、ゼレンスキー大統領はことし6月無人機の部品を国外から調達する場合の関税の免除を決めていて、より強力な無人機の開発を進めたいとしています。

一方、国外からはトルコのバイラクタルTB2と呼ばれる機種がウクライナの主要な攻撃用の無人機として使われています。

7月下旬には、ウクライナ国防省とトルコの無人機の製造業者が協定を結びバイラクタルTB2の修理やメンテナンスのための工場を国内に作ることで合意しウクライナ側としては戦闘で使われる無人機の運用を国内でより効率的に進めたい考えです。

さらにウクライナでは海での攻撃に使われる無人艇の開発も進められています。

ウクライナ保安庁のマリュク長官は8月、アメリカのCNNテレビに対して独自に開発した無人艇を使って先月、南部クリミアとロシアを結ぶ橋を攻撃したことを明らかにしています。

この無人艇は「シー・ベビー」と呼ばれマリュク長官は、クリミアの橋への攻撃のほかに今月、ロシア南部のノボロシースクの海軍基地でロシアの揚陸艦が損傷した攻撃やクリミア半島沖でロシアのタンカーが攻撃を受けた際にもこの無人艇を使用したことを明らかにしています。

ロシアも無人機攻撃を重視

ロシアのプーチン政権は、ウクライナへの軍事侵攻が長期化し、ロシア軍がミサイル不足に陥るなか、より安価な無人機を使用した攻撃を重視しているとみられています。

ロシア軍は、軍事協力を深めている友好国イランから自爆型の無人機「シャヘド」を導入して攻撃を続けているとされ、ウクライナのゼレンスキー大統領は、8月3日、ロシア軍がこれまでにシャヘドを少なくとも1961機使用して攻撃してきたと非難しました。

ロシア軍は、イラン製の無人機を使用し、冬の時期にはウクライナの電力施設などを標的に攻撃したほか、最近では、ウクライナ南部の農産物の積み出し港があるオデーサの穀物倉庫などへの攻撃にも使用しているとみられます。

ロシアは、イランから両国の間に位置するカスピ海を経由して海上ルートで無人機を獲得していると指摘されていますが、イギリス国防省は8月、ロシア軍がイラン製を基にした国産の無人機の配備を始めていて「数か月以内に無人機の自給自足を目指している可能性が高い」と指摘し、国内で量産しようとしていると分析しています。

また、ロシアは、ウクライナの軍事侵攻ですでに使用している自国製の自爆型無人機「ランセット」の製造にも力を入れる方針を示しています。

ロシアメディアによりますと、ランセットは、2019年に初めて公開され、攻撃や偵察などに使うことができ、航続距離は、およそ40キロだということです。

プーチン大統領は8月、国営軍事企業「ロステク」のトップとの会談でランセットなどについて「とても効果的だ。強力な打撃力で、外国製を含めたいかなる装備も単に燃やすだけでなく爆発させることができる」と誇示したうえで増産を指示しています。

ロシア軍に詳しい国営タス通信の軍事ジャーナリスト、ビクトル・リトフキン氏はNHKのインタビューに対し、ランセットなどの無人機について「ロシア軍は積極的に使用し、効果が出ていて、増産している。ウクライナ軍の反転攻勢で、ロシア軍はウクライナの戦車など、2500以上の目標をせん滅した。ロシアが勝利するかは無人機次第だともいえる」と述べ、ロシア軍は、国産の無人機を一層重視するという見方を示しました。

ロシアで大規模な兵器の見本市

ロシア国防省が主催する国内最大の兵器の見本市が、8月14日から20日までの7日間の日程で首都モスクワ近郊で開かれました。

国防省によりますと、ことしはロシア国内外からおよそ1500の軍事関連企業や団体が参加し、兵器などあわせて2万8000点以上が展示され、7日間で来場した人数は100万人をこえたということです。

会場には、ロシア軍がウクライナの戦場で使っているとする最新鋭の主力戦車T90Mや無人偵察機オルラン30などが展示されていました。

会場を訪れた東アフリカのウガンダの国防・退役軍人相は、「われわれはテロ問題などに直面しているので特に狙撃銃の新しいモデルを必要としている」と述べ関心を寄せていました。

インドの軍事関連企業の社員は「ロシアとは長年協力しており、深い友好関係がある。何ごとも妨げにならない」と述べウクライナ情勢の影響はないと強調していました。

また、ロシア人の訪問者は「非常におもしろく、美しい。気に入った。われわれにはすばらしい戦闘機があり、とても誇りに思う」と話していました。

一方、会場では、中国やインド、イランなど6か国が個別にブースを設け、各国の兵器が紹介されていました。

初日の14日にはロシアのショイグ国防相がこれらのブースを訪れ、担当者から無人機の性能などについて説明を受けていました。

ウクライナ侵攻が長期化するなかロシア軍はイラン製の無人機なども積極的に使っているとされ、ロシアは各国の兵器などにも強い関心があるとみられます。

ウクライナ侵攻に使われている兵器も展示

この見本市では、ウクライナ侵攻で使われている最新鋭の兵器が数多く展示されました。

ロシア側は、自国製の兵器の性能は高いとして国内外にアピールするねらいがあるとみれます。

このうち展示会場でひときわ注目を集めていたのが、ウクライナ侵攻で多用している「無人機」「オルラン30」です。

ロシアメディアによりますと、この無人機は主に偵察に使われ、地上部隊による砲撃の精度を高めるためレーザー計器が新たに搭載されているということです。

ロシア国防省は、ウクライナでも「オルラン30」を活用していると発表し、ショイグ国防相は7月11日この無人機について「供給された数は去年の初めと比べて53倍に増加した」と述べています。

また、会場には、ウクライナ侵攻で使われているという戦車も並べられ、なかでも「アルマータ」という名称を持つ主力戦車「T14」は会場の中心部に展示されていました。

国営通信社によりますと、「T14」はすべての部品が国産で、装甲の側面には、車体を隠すための特殊なカバーで覆われているほか、内部にも熱を感知されにくい特殊な加工が施され敵の偵察などから検知されにくくなっているということです。

また、最新鋭の「T90M」は125ミリ砲や誘導ミサイルが搭載されているほか強力なエンジンと最新の通信手段が導入され、戦闘能力と走行能力が大幅に向上したとしています。

プーチン大統領はことし6月「世界最高の戦車だ。より正確でより安全だ」と述べ欧米がウクライナ軍に供与している戦車よりも優れていると誇示しました。

さらに、最新鋭の戦闘機「ミグ35型機」や攻撃用のヘリコプター「カモフ52」など航空戦力についても展示されました。

このうち「カモフ52」は、機関砲や対戦車ミサイルなどが装備でき、厚い装甲で覆われていることから「空飛ぶ戦車」とも呼ばれています。

戦車などを攻撃するためウクライナ東部ドネツク州や南部ザポリージャ州などで使用していると伝えられています。

ウクライナ民間人 少なくとも1万人死亡

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから1年半となるなか、ウクライナ国内の民間人の死者数は少なくとも1万人近くにのぼり、犠牲者は増加の一途をたどっています。

国連人権高等弁務官事務所は、軍事侵攻が始まった2022年2月24日以降、8月13日までに、ウクライナ国内で確認できただけでも9444人の民間人が死亡したと発表しました。

けがをした人は1万6940人にのぼるということです。

激しい戦闘が続く地域での死傷者の数はまだ確認が続いているとして、実際の数はさらに大きくなるとの見方を示しています。

また、ウクライナ検察当局は、8月22日までに503人の子どもが死亡、1115人以上が負傷したと発表しています。

死傷した子どもたちのうち、地域別では
▼ドネツク州で最も多く485人
▼ハルキウ州で299人
▼キーウ州で129人
▼ヘルソン州で121人などとなっています。

両国兵士の死傷者数 “計50万人近く”

また、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、アメリカ政府当局者の話としてウクライナ側の兵士の被害について、死者がおよそ7万人、けが人が最大およそ12万人にのぼるとの見方を伝えています。

一方、ロシア側の兵士の死傷者数も増加を続けていて、双方が正確な兵士の死傷者数を公表していないものの、両国の兵士の死傷者数はあわせて50万人近くにのぼるとしています。

人的な被害に加えて経済的な被害も甚大となっています。

首都キーウにある経済大学の発表によりますと、7月までのウクライナでのインフラなどの被害総額は推定1505億ドル、日本円にしておよそ22兆円になるということです。

このうち、最も被害が大きいのは住宅で、全体の37.1%を占め、軍事侵攻以降、被害額は559億ドル、日本円にしておよそ8兆円にのぼります。

続いてインフラ関係の被害は24.3%を占め、366億ドル、日本円にして5兆円余りになるとしています。

またウクライナでは6月、南部のカホウカ水力発電所のダムが決壊して大規模な洪水が発生し、これによって1万ヘクタール以上の農地が浸水して穀物や野菜などの作物の被害は数十万トンに及ぶということです。

今後の戦況は

領土奪還を目指すウクライナ軍は、6月上旬から反転攻勢を始めました。

ドイツ製の戦車レオパルト2など、欧米から供与された戦車や歩兵戦闘車も投入して南部ザポリージャ州や東部ドネツク州などで戦闘を続けています。

しかし、ロシア軍は、占領地域に地雷原やざんごうなどを組み合わせた防衛線を築いていてこの2か月半、ウクライナ軍の反転攻勢は当初想定されていたような大きな成果が出ていないと見られています。

ウクライナ軍は引き続き、砲弾などが不足しているほか、ウクライナ側が期待しているF16戦闘機についても兵士の訓練など配備計画に遅れが生じています。

ウクライナ軍は今後ザポリージャ州の主要都市メリトポリなどの解放を目指し、追加の部隊も投入して部隊を南下させるねらいとみられますが、アメリカのメディアは当局者の話として年内にメリトポリまで到達するのは困難だという見方を伝えています。

一方、ロシア側は、占領地域を維持するため当面は、防御に重点を置くとみられます。

長期戦に持ち込むことで、ウクライナに対する欧米側の軍事支援の動きを鈍らせるねらいもあるとみられます。

ロシアでは来年3月、プーチン政権が極めて重視する大統領選挙が控え9月には統一地方選挙も行われる予定で、政権側は、国内世論の動向もにらみながら侵攻を続けていくとみられます。

双方の軍の犠牲者も拡大していて、アメリカの有力紙は、複数のアメリカ当局者の話として、双方の死傷者数は、あわせて50万人近くに上るという見方を示しています。

停戦に向けた兆しすら見えないなかで、双方の犠牲が拡大し、消耗戦が続く可能性が指摘されています。