ゴールドラッシュ?生成AI投資ブームを追う

ゴールドラッシュ?生成AI投資ブームを追う
革命的とも言える生成AIの登場は今、関連スタートアップ企業への投資ブームを巻き起こしている。その中心地、アメリカ・シリコンバレーはさながらゴールドラッシュとも言える様相だ。資金の出し手はその多くがアメリカのベンチャーキャピタルなどだが、そのなかで、ある日本のベンチャーキャピタルが存在感を示している。今、何が起きているのか、日本はどうすればいいのか、その代表に聞いた。
(経済部記者 名越大耕)

日本発AI特化のベンチャーキャピタル

AIに特化したベンチャーキャピタル「DEEPCORE(ディープコア)」。

2017年に設立し、これまで関連ビジネスのスタートアップ企業に総額180億円余りを投資運用している。
多くがアメリカ発となるAI関連のベンチャーキャピタルの中で、日本発のベンチャーキャピタルとして異色の存在感を示している。

スタートアップ企業全体への投資が停滞するなかでも、生成AI関連のスタートアップ企業への投資は活発化しているという。
DEEPCORE 仁木社長
「生成AIまわりにお金がじゃぶじゃぶつぎ込まれていて、そこだけを見ていると、めちゃめちゃバブルみたいだなということを感じます。アメリカの生成AI関係の会社は、ほぼシリコンバレーにしかないのですが、昔は結構AIといえばカナダと言われていて、トロント大学などに研究者が多くいたり、AI企業も集積していたりしていました。今の生成AI系の会社を見ているとアメリカ、特にシリコンバレーが中心という感じになっていますね」

アメリカが群を抜く 生成AIスタートアップ

生成AIでビジネスを立ち上げようとするスタートアップはシリコンバレーに集まり、投資家の資金も集中しているという。

それはなぜなのか?生成AIはアイデア勝負で案外、参入障壁が低いということも背景にありそうだが、その事情を聞いた。
仁木社長
「日本では、事業会社や自治体が主催者となりスタートアップ企業との協業や出資を目的として開催されるアクセラレータープログラムなども多く開催されていて、ようやく生成AIに関するプロダクトが出てきたという段階ですが、アメリカは、アイデアをすぐに物として作ってしまっている。アメリカのスタートアップって、AI系のスタートアップではなくて、全然違うことやっていたスタートアップが急に生成AIに競合し始めているんですよ」
DEEPCORE 雨宮CFO
「エンジニアが多いから、起業家が多いからというのもそうかもしれないですけど、結構気軽に物を作る。まず作るんですよね」
仁木社長
「根底には、日米で技術の受け入れ方が違うことも要因の1つだと思うんですよ。今はだいぶ変わってきましたけど、アメリカって最初からKindle(電子書籍)なんですよね。おじいちゃんも。飛行機に乗っていても、おじいちゃんでもKindleとかiPhoneとかすごく使うし、技術の適応の早さが全然違うなと感じていて、新しい物に対しての取り組み姿勢は違うのかなと思います」
若者たちが気軽にスタートアップ企業を立ち上げる。

その意識と文化は大きな強みになる。

日本でもこのところ生成AIを活用しようという動きが企業の間で広がりつつあるが、日本にはチャンスはないのだろうか。
雨宮CFO
「日本は、生成AIのためのデータの活用がしやすい環境にはあるんですよね。アメリカだと学習データ活用に関する規制というか法的な規制が日本よりも厳しくて、環境的にデータ活用しやすく、割と海外のプレーヤーもそれに気付いているという部分もあると思います。あとは、日本にはデータをたくさんもっている企業もあるので、パーツパーツはそろっているので、それをレバレッジできるというのがあれば、キャッチアップはできるのではないかと」
仁木社長
「(日本企業にも)めちゃくちゃ投資したいですよ。日本で生成AI系のところが出てくれば投資したいんですけど、どういうところが出てくるのかさえもわからない状況で」

投資したスタートアップ企業Omneky

そんななかで、DEEPCOREが投資しているスタートアップ企業がある。

広告プラットフォームを手がける「Omneky」(オムニキー)。

日本人社長が経営していて、その拠点はシリコンバレーだ。
生成AIを使ってSNS広告のための画像や文章などを自動で作成し、広告の効果の分析や運用などもシステム化したプラットフォームを提供するのが特徴だ。

広告の効果を測定するためのテストをAIを活用して繰り返し行い、最適な効果を生み出す広告は何かを提示する。

その結果、年齢層や性別など細かく分類された効果にぴったりと合う広告が提供できるという。
Omneky 千住光CEO
「日本へのビジネスもこれから集中して成長する。成長している最中ですよね。生成AIを使った広告関連事業はものすごい大きいマーケットだと思っていて、それは日本でも大きいし、アメリカでも大きいので、同時にやっていかなければいけない。日本人として、最新のシリコンバレーの生成AIの技術を日本にも持って行きたい」
仁木社長
「Omnekyは、あくまでもコアの事業は広告主のデータ管理プラットフォームであって、その競争力を高めるために生成AIの機能を活用している。生成AIって、そういうところには受けがいい。こうした使い方をしている人たちがさらに出てくればおもしろいなと思います」

日本にもチャンスはまだある

仁木社長は、日本の生成AIの活用の幅としてロボティクス分野を挙げています。
仁木社長
「ロボティクスの領域は、日本はものづくりが強いから活用できるのではないかと思います。AIと相性もよく、より複雑なダイレクションをロボットに対してできることなので、ロボット制御のところで、LLM(=大規模言語モデル)を活用することで、人間の感覚的な指示をロボットが理解できる作業命令に翻訳することができるなどLLMを活用できる要素は大きいと思うので、今後チャンスかなと」
また、今後の生成AIの活用の流れは、データ量の少ないLLMを活用したもの、つまり、法務に強い、医療に強いといった領域に特化したLLMを自社で開発し、ビジネスに活用していく流れになると仁木さんは予測しています。

さらに、一般的なLLMに独自のデータベースを加えて活用する流れです。

この2つの方向性にチャンスがあると考えています。

そのうえで、今後生成AIを活用する企業やスタートアップが増えていくためには、アイデアを形にする力が求められているといいます。
仁木社長
「AIじゃないところに答えがあるんですよね。僕らはもともと技術で世界を変えられる志を持ってる人たちに投資をしたい。そこに行き着くんですよ。普通のAIにしてもインターネットにしても、どういうスタートアップが出てきたかっていうと、その技術をうまく社会実装した人たちが出てきているわけですよ。われわれが出てきてほしいと思うのも社会の課題を解決することのほうが先で、その手段として技術をうまく使おうとしている人たちが僕らの投資対象なんですね」
雨宮CFO
「別にインターネット企業とか、生成AI企業に投資したいというよりは、例えば医療領域で画像診断を使って解決する企業であったり、音声認識を活用してオーダーを簡単にしていくみたいな。課題解決をしてくる企業に結果的に投資をしているというのがあって、そういう企業にこれからも投資をしていくんだろうなと思います」

取材後記

インタビューで仁木社長は「生成AIの関連企業が日本でも出てきそうだという感覚を少しずつ持っている」とも語った。

日本の大手企業の間では、生成AIを自社の事業に活用しようという機運が高まっているのも事実だ。

生成AIブームの火付け役となった「ChatGPT」の登場からわずか9か月。

その短期間の間にアメリカではもうここまで投資ブームが起きている。

世界に広がるこの機運に乗ろうというスタートアップ企業が日本でも続々登場する景色を思い浮かべた。
経済部記者
名越大耕
2017年入局
福岡局を経て現所属
情報通信業界、AIなどを担当