原発の処理水 午後1時ごろ海洋放出を開始へ 影響懸念も 東電

東京電力は福島第一原子力発電所にたまる処理水について、海への放出に向けて大量の海水を加えてトリチウムの濃度を測定した結果、想定どおり薄められていることや気象条件に問題がないことが確認できたとして、政府の方針に基づき、24日午後1時ごろに放出を始めると発表しました。

事故の発生から12年余りを経て、懸案となってきた処理水の処分が動き出しますが、放出の完了には30年程度という長期間が見込まれ、安全性の確保と風評被害への対策が課題となります。

福島第一原発では、事故の直後から発生している汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含む処理水が1000基余りのタンクに保管され、容量の98%にあたる134万トンに上っています。

政府は22日の関係閣僚会議で、基準を下回る濃度に薄めた上で、きょうにも海への放出を開始することを決めました。

これを受けて東京電力は放出に向けた準備作業を始め、大量の海水と混ぜ合わせた処理水を「立て坑」と呼ばれる設備にためた上で、トリチウムの濃度を確認していました。

東京電力は24日午前記者会見し、分析の結果、トリチウムの濃度は1リットルあたり43から63ベクレルと、国の基準の6万ベクレルを大きく下回り、放出の基準として自主的に設けた1500ベクレルも下回っていて想定どおり薄められていることが確認できたと発表しました。

また、モニタリングを実施する船を出すための気象条件も問題ないことから、24日午後1時ごろに放出を始めると発表しました。

放出作業は、原発内の免震重要棟という施設にある集中監視室から遠隔で行われ、作業員が画面を操作してポンプを動かし、処理水を海水と混ぜたうえで「立て坑」に流し込みます。

そして、「立て坑」からあふれ出ると、沖合1キロの放出口につながる海底トンネルに流れ込んで海に放出されます。

最初となる今回の放出は、7800トンの処理水を海水で薄めた上で17日間の予定で連続して行うとしていて、今年度全体の放出量はタンクおよそ30基分の3万1200トンを予定しているということです。

ただ、処理水が増える原因である汚染水の発生を止められていないことや、大量の処理水を一度には放出できないことから、放出期間は30年程度に及ぶ見込みで、長期にわたって安全性を確保していくことが重要な課題になります。

東電の処理水対策責任者 「一段と緊張感を持って対処」

処理水の放出開始について、東京電力・福島第一廃炉推進カンパニーの松本純一ALPS処理水対策責任者は、記者会見で、「実際の放出が始まるので一段と緊張感を持って対処したい。直接操作にあたる運転員だけでなく、経営幹部や広報担当者も自治体や関係者に広く伝えるべく、情報の発信を速やかに遺漏なきよう実施したい」と述べました。

その上で、放出後の風評対策については、「政府とともに風評影響を最大限抑制すべく取り組んでいきたい。特に安全と品質を確保した上で海洋放出し、科学的根拠に基づき迅速で的確な情報発信を行っていきたい。そして、こうした対策を取っても風評被害が発生した場合は適切に賠償していきたい」と述べました。

漁港では風評被害を懸念「今までと変わらず安全だと証明して」

東京電力福島第一原発にたまる処理水の海への放出が、24日午後にも始まることについて、水揚げ量日本一の千葉県銚子市の漁港では、風評被害による価格の下落が起きないか懸念する声などが聞かれました。

24日朝の銚子漁港はキンメダイやイセエビなどが水揚げされ、漁から戻ってきた漁業者や仲買人などでにぎわいました。

イセエビやヒラメを水揚げした漁業者は「処理水の放出が決まった影響なのか、私が水揚げしたものはきのうから卸価格が3割ほど安くなってしまいました。旬でもあり高く売れる時期だけに、なぜこの時期に決定したのかと思います」と話していました。

キンメダイを専門に漁をする漁業者は「安全性が確保されていると言っても、どうしても風評被害は出てしまうのではないでしょうか。せっかく釣ってきた魚が安くなってしまっては、やる気が起きなくなります」と肩を落としていました。

魚の買い付けに訪れた仲買人は「放出はしかたのないことだと思うが、しっかり検査をして、今までと変わらず安全なんだということを何らかの形で証明してほしい。そうすれば、胸を張って売ることができます」と話していました。

香港にホタテを輸出する水産加工会社「頭を抱えるしかない」

宮城県産のホタテやカキなどを国内外に出荷している宮城県石巻市にある水産加工会社「ヤマナカ」は海外向けとしては現在、アメリカや香港など7つの国と地域に輸出しています。

この会社の売り上げの8割以上を占めるのがホタテで、2014年から輸出を始め、香港向けとして、現在も週に1回、ホタテの貝柱を生の状態で出荷しています。香港へのホタテの輸出量はまだ多くありませんが、香港は市場規模が大きいため、会社では重要な輸出先と捉え、今後の販路を拡大させたいと考えていました。

こうした中、日本政府が福島第一原発にたまる処理水を薄めて海に放出すると決めたことを受け香港政府は、福島や宮城など10の都県からの水産物の輸入禁止を24日から始めると明らかにしました。香港の取引先からは、処理水を海に放出する日が決まる前から、今後、宮城県産のホタテを受け入れることはできないという連絡が入り、宮城県産から北海道産に切り替えることができないかという問い合わせも来ているということです。

この会社では、北海道産に切り替えた場合採算が合わなくなるため、香港へのホタテの輸出自体が難しくなるおそれがあるとしています。

水産加工会社の千葉賢也社長は「宮城県産の水産物の安全性は何も問題ないと思っているのにどうして規制が強化されるのか疑問だ。いち事業者が対応できる話ではないので、頭を抱えるしかない」と話しています。

立民 衆参両院の予算委員会で閉会中審査を自民に要求

自民党の高木国会対策委員長と立憲民主党の安住国会対策委員長は、24日午前、国会内で会談しました。この中で安住氏は、福島第一原発にたまる処理水を薄めて海に放出することについて漁業者などが懸念を持っており、国会として政府から説明を聴き、質疑を行う必要があると指摘しました。

その上で、衆参両院の予算委員会で関係省庁の閣僚や東京電力の関係者などに出席を求めて閉会中審査を行うよう要求しました。

これに対し高木氏は「モニタリングなどの状況を見ながら政府と相談をして考えたい」と述べ、政府と対応を検討する考えを示しました。

自民 高木国対委員長「しばらく状況を見ることが必要」

自民党の高木国会対策委員長は記者団に対し「何らかの形で閉会中審査を行うことはやぶさかではないと思うが、政府と相談しながら判断していきたい。しばらく状況を見ることが必要で、閉会中審査を行うことになれば9月に入ってからだと思う」と述べました。

立民 安住国対委員長「岸田首相が前面に立って説明を」

立憲民主党の安住国会対策委員長は記者団に対し「科学的根拠に基づく安全性の信頼は高まりつつあると思うが、地元の漁業者をはじめ、大変な懸念を持っている人や反対している人がいて、包括的な審議が必要であり、衆参両院の予算委員会の開催を正式に要求した。岸田総理大臣が前面に立って説明し、科学的根拠に基づいて安全と証明することが、風評被害を防いで問題解決の一歩につながる」と述べました。

委員会の開催時期については「モニタリングを何日間か見ながら、風評被害の影響も勘案して委員会を開催すべきで、現実的には来月初めごろが、最もふさわしいと思う」と述べました。

また、立憲民主党の長妻政務調査会長は、記者会見で「政府は福島県漁連に対し、『関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない』という方針を示したが、今も全漁連や福島県漁連は反対の姿勢を崩していない。政府は『理解を得られた』というような解釈をしているようだが、約束が果たされなかったことに真摯に向き合い、説明するよう求めていきたい。そして、万全の風評対策や徹底した情報公開と丁寧な説明、それに被害が起こった時に補償を行うべきだ」と述べました。