タイ新首相にセター氏が選出

ことし5月の総選挙後、政治の空白が続いてきたタイの議会で次の首相を決める投票が行われ、9年前の軍事クーデターで政権を追われたタクシン元首相派の「タイ貢献党」が擁立した党幹部のセター氏が、新たな首相に選出されました。

タイの次の首相に選出されたセター氏は61歳。

タイの不動産開発大手「サンシリ」の元経営者として知られています。

これまで政治家ではありませんでしたが、ことし5月の総選挙の直前にタクシン元首相の次女のペートンタン氏らとともにタイ貢献党の首相候補となり、党の顔の1人として選挙にのぞんでいました。

セター氏はタクシン元首相に近い人物とされています。

タイでは、ことし5月の議会下院の選挙で第1党となった民主派政党が、連立政権の樹立を目指しましたが、保守派の強い反発で首相の選出を阻まれました。

これを受け、タクシン元首相派の第2党「タイ貢献党」が政権づくりの主導権を握り、民主派政党を排除した形で対立関係にあった軍に近い保守政党との大連立にかじを切り22日、議会の上下両院で首相指名の投票が改めて行われました。

その結果、タイ貢献党が擁立した党幹部のセター氏が482票を獲得し、選出に必要な過半数の支持を固め、新たな首相に選出されました。

タイ貢献党は、軍に近い保守政党との大連立について早期の政権発足を実現するためだとしています。

しかし、これまで軍の影響力の排除を掲げて支持を集めてきただけに、国民からは反発の声もあがっていてセター氏は難しいかじ取りを迫られそうです。

新首相 セター氏「全力で取り組む」

次の首相に選出されたセター氏は、首都バンコクにある「タイ貢献党」の本部で会見に臨み、「首相に選出されて光栄だ。私を選んでくれたすべての国民と議員に感謝を申し上げたい。首相としての仕事に全力で取り組み、国民の生活を向上させたい」と述べました。

会見はわずか1分足らずで終わったため、詰めかけたメディアが会場をあとにするセター氏を取り囲むなど一時、騒然としていました。

新政権発足までの経緯

9年前の軍事クーデター以降、軍に近い政権が続いてきたタイでは、ことし5月の総選挙で、変化を求める幅広い世代から支持を集めた民主派政党の「前進党」が大方の予想を覆して、第1党に躍進しました。

前進党は、タクシン元首相派の第2党「タイ貢献党」など合わせて8党で連立政権を目指すことで合意し、議会下院で6割を超える312議席を確保したものの、首相に立候補したピター党首は政権を樹立することができませんでした。

前進党が主導する形での連立政権の構想が失敗に終わった要因は、議会の制度に軍や保守派が権力を維持するための“仕組み”があるからです。

クーデター後に制定された憲法では、首相を決める投票は総選挙で選ばれた500人の下院議員に加え、軍政下で任命された250人の上院議員が合同で行うと定められています。

上院議員の多くは、軍や王室に近い保守派とされ、王室への中傷を禁じる不敬罪の改正や、軍の影響力の排除などを主張する前進党は急進的だとしてピター氏の首相選出を阻みました。

その後、主導権を握ったのは第2党の「タイ貢献党」でした。

前進党の二の舞を避けるため、これまでともに連立政権を目指してきた前進党を排除したうえで、長年、敵対関係にあった軍に近い保守政党を含む合わせて11党からなる大連立にかじを切ったのです。

一方、こうした方針転換に、はしごを外された形となった前進党の支持者だけでなく、タイ貢献党の一部の支持者からも反発の声が上がっていますが、タイ貢献党は、「政治空白が続く中、早期の政権発足を実現するためだ」と述べています。