F16“念願の兵器”供与決定も反転攻勢厳しい見通し【詳しく】

オランダとデンマークは、ウクライナにアメリカ製のF16戦闘機の供与を決定したことを明らかにしました。F16戦闘機は、ウクライナ政府が強く求めてきた念願の兵器です。

しかし、実戦配備には多くの課題があり、欧米のメディアの間では年内の反転攻勢に厳しい見通しを示す論調が目立ち始めています。

「国際報道2023」の油井秀樹キャスターの解説です。

※8月21日の「国際報道2023」で放送した内容です
※動画は7分45秒、データ放送ではご覧になれません

オランダ ウクライナにF16戦闘機供与決定

20日、オランダを訪問し、ルッテ首相と会談したゼレンスキー大統領。ウクライナ大統領府は、会談で、オランダがウクライナにアメリカ製のF16戦闘機の供与を決定したと表明し、オランダの決定に感謝の意を伝えたということです。

(ゼレンスキー大統領)
「F16戦闘機は兵士や民間人に自信とモチベーションを与える。ウクライナとヨーロッパに新たな成果をもたらすだろう」

また、ゼレンスキー大統領は、SNSで供与される戦闘機の数について「42機だ」と投稿しましたがオランダ側は数について明らかにしていません。

デンマークも供与決定

また、ゼレンスキー大統領はこの日、デンマークでフレデリクセン首相とも会談。ウクライナへのF16戦闘機の供与については、デンマークもオランダとともに供与を決めたことを明らかにしました。

(フレデリクセン首相)
「本日、19機のF16戦闘機をウクライナに供与することを発表した。今後、他国も追随することを期待する」

ウクライナの軍事専門家“解決しなければいけない問題多い”

ウクライナの軍事専門家

ウクライナ・ユナイテッドニュースでは、ウクライナの軍事専門家が供与されるF16戦闘機の課題について次のように指摘しています。

Q.
F16戦闘機が来年以降、飛ぶことになるのでしょうか。反転攻勢に影響はあるのでしょうか。
A.
そのときの状況しだいでF16を使用するかしないかを決めます。ウクライナのパイロット、そしてスタッフも早く習得し、F16を操作できるようになるかが重要です。

Q.スタッフはどのくらいで習得できますか。
A.
短期間にF16の技術を習得できるかは疑問に思います。簡単な計算をすると、1名のパイロットに対して、操作や修理をするスタッフが5人から7人必要になります。

(ウクライナの軍事専門家)
「スタッフの問題に限らずウクライナ空軍のシステム作りの準備も重要になってきます。全く新しい兵器なので、操作や修理する場所も用意しなければなりません。ナビゲーションや保管する場所、燃料の入れ方なども全く別物です。F16を使用する前に解決しなければいけない問題がたくさんありますので、早く解決できるように取り組んでいます」

警戒強めるロシア ウクライナでは被害続く

一方のロシア側は、警戒を強めています。

ロシア国防省は21日、首都モスクワの西部近郊に無人機が飛来してきたものの阻止し、けが人など被害はないと発表。さらにモスクワの北西部近郊にも無人機攻撃が仕掛けられ、上空で破壊したと発表しました。

国営通信社は、この影響で複数の空港で一時、航空機の発着が制限されたと伝えていて、ロシア側は、無人機攻撃はウクライナによるものだとして相次ぐ飛来に警戒を強めています。

一方、ウクライナでは20日もロシアによる攻撃で被害が続き、▼ウクライナ東部ハルキウ州の知事は1人が死亡、10人がけがをしたと発表したほか、▼南部ヘルソン州の知事は2人が死亡、3人がけがをしたとしています。

F16はウクライナ政府“念願の兵器”

(油井キャスター)
F16戦闘機は、ウクライナ政府が強く求めてきた念願の兵器です。ゼレンスキー大統領は、ことし6月には「なぜF16が必要なのか」と題した、動画をSNSに掲載しました。

(動画のナレーション)
「ウクライナのミグ29戦闘機のレーダーは70~85km」
「一方ロシアのミグ31戦闘機のレーダーは155kmで巡航ミサイルも探知できる」

ウクライナが保有する戦闘機ミグ29は画面の左側。レーダーが古くて、敵の位置を把握できる距離が短いとして、画面右側のロシア空軍の戦闘機ミグ31に対抗できないと訴えたのです。

ロシアの軍事侵攻が始まって今週で1年半となりますが、ロシア軍は、陸軍こそ大量の戦車を失うなど大きな打撃を受けたものの、空軍はほとんど無傷と言われています。

それだけに、ウクライナ軍は、先週、反転攻勢を進める上でロシア空軍の存在が大きな障害になっていると主張しました。

(ウクライナ空軍報道官)
「敵の空軍の軍用機の数はあまりにも多い、どうすべきか皆知っているはずだ」
「これを抑えるためにF16戦闘機が必要だ」

強大なロシア空軍に対抗するのに必要なのが、F16戦闘機。今回、オランダから42機。デンマークから19機のF16戦闘機が供与されるとしていますが、実戦配備の時期は来年になる見通しです。

その時期についてデンマークの首相は「新年の頃に6機、来年に8機、そして再来年に5機をウクライナに送りたい」と述べていて、今後2年から3年かけて段階的に送る計画です。

ウクライナ政府は、当初、ことしの秋にもF16戦闘機を投入し、年内の反転攻勢を後押ししたい意向でしたが、非常に厳しい状況です。

その反転攻勢をめぐっては、欧米メディアの間では、年内の反転攻勢に厳しい見通しを示す論調が目立ち始めています。

▽「アメリカの情報機関はウクライナが反転攻勢の重要な目標を達成できないと主張」(ワシントン・ポスト)
▽「ウクライナの苦戦で焦点は来年の戦闘に」(ウォール・ストリート・ジャーナル)など

欧米の一部の間では、ウクライナが年内の反転攻勢で領土の多くを奪還できれば、年内にもロシアとの和平交渉に持ち込めるという見方もありました。

しかし、戦闘は来年以降も続く見方が広がっていて、犠牲者の増大が懸念されそうです。