視覚障害者の声から生まれた! 「雨音の静かな傘」とは

雨の日、傘をさしながら歩いていて、隣の人の声が聞き取れなかったという経験、あると思います。
視覚障害がある人の悩みの声をきっかけに、大阪のメーカーが「雨音の静かな傘」を開発しました。

(大阪放送局 アナウンサー 後藤佑季)

雨に見立てて実験!

上の写真が「雨音の静かな傘」です。

本当に音が静かになるのか? 一般的な傘と比較して実験しました。

雨に見立てた水量のシャワーをかけました。立つ位置も同じにしました。

まずは、一般的な傘。

傘にあたる水の音と、地面に落ちる水の音。いつもこれくらいの音がするなぁ、という感じの音です。

一緒に実験をした吉田浩アナウンサーに「後藤さん、聞こえますか?」と話しかけてもらったのですが、1回目の呼びかけでは気づかず…。

2回目で気がついたものの、何を言っているのか聞き取るのに必死になる状況でした。

続いて「雨音の静かな傘」。

かなり、音が小さくなりました。

傘にあたる水の音がほとんどしなくなり、地面に落ちる水の音だけがよく聞こえるように。

再び「後藤さん、聞こえますか?」と話しかけてもらいました。

呼びかけられてすぐに反応することができました。

何を話しかけられているのか、クリアに聞こえるので、聞き分ける努力をしなくてもよくなりました。

実際にどんな音の違いなのか、下の動画で聞き比べてみてください。

きっかけは視覚障害者の“声”

この「雨音の静かな傘」を作ったのは、大阪にある傘の製造卸メーカーです。

手作業で生地の裁断や縫製、骨と生地の組み立てなどを行い、オリジナルの傘を作っています。

「雨音の静かな傘」の開発のきっかけについて、常務取締役の川口博文さんは、こう話しました。

川口さん
「視覚障害者の方から、音のしない傘を作ってくれないかとご連絡をいただいたんです。なんでそういう傘が必要なのかと思っていたら、視覚障害の方は、雨の日は音が反響して、外を出歩くのがすごく不安なんだそうです。雨音が良い傘というのはあるけど、しない傘なんて発想がなかったんで、最初はすごく大変でした」

さまざまな生地を試した結果、“洗濯ネット”から着想を得て、メッシュの生地を使うことに。

メッシュだけでは濡れてしまうので、一般的な傘の生地と2層にしました。

傘の生地の外側に、隙間をあけて、メッシュの生地を張ります。

雨粒がメッシュの生地を通ることで、その下の傘の生地にあたる衝撃が和らぎ、雨の音が小さくなるんです。

しかし、生地が2層ということは、2本分になるということ。

このため、傘の骨の軽量化を図りました。

視覚障害の人の味方に

傘の利用者の1人、丸谷賢司さん。全盲で、視覚支援学校の教員です。

視覚に障害のある人は、車の走っている音などを聞いて、その音と並行して歩くことで、まっすぐ歩いているといいます。

しかし、雨の日には、雨音などが反響することで、聞きたい音が聞き取りにくくなります。

丸谷さんも、雨の日に音が聞き取れず、道に迷ったり、自転車にぶつかったりしたことがありました。

丸谷さん
「雨が傘をたたく音、それから自動車の車輪が路面をこすっていくジャーという音、いろんな雑音がふだんより大きくなるので、雨の日は外出がおっくうになるというか、面倒くさいというか、そんな感じでした」

丸谷さんはことしの春から、「雨音の静かな傘」を使っています。

聞きたい音をクリアに聞き取ることができるようになりました。

おっくうだった雨の日の外出の、心の負担も減ったといいます。

丸谷さん
「耳の周りでする雨音が静かになるだけで、本当に楽になるのかと思っていたら、それはそれは楽で。こんなに楽なんだと感動しました。強い味方を手に入れたなという気がします」

広がる「雨音の静かな傘」

「雨音の静かな傘」は、視覚障害の人だけでなく、聴覚障害の人も「会話が聞き取りやすくなる」と購入しています。

聴覚過敏のある娘がいる母親から、「傘にあたる雨の音が苦手で、学校に行くのを嫌がっていた娘が、この傘を買って、雨の中登校することができました」という連絡があったということです。

障害のない人からも「雨音が気持ちよく聞こえる」という声が集まっているそうです。

傘を作っている川口さん
「こんな傘を作ってくれてうれしいという言葉をいただいて、私もすごくうれしくて。作ることに誇りが持てたというか。雨の憂鬱な日を支えてくれるような傘になれば、一番いいですね」

この傘、1本が1万9800円しますが、今は1か月待ちだということです。

それほど、「雨音がしないこと」でふだんの生活が楽になる人がいるのだと、取材してわかりました。

“当たり前”だと思っていたことが、視点を変えると、多くの人の幸せにつながることが、まだまだあるかもしれません。