舞台はアフリカ 激化する“資源争奪戦”

貧困や紛争など課題が山積する一方で、豊かな天然資源に恵まれ、「最後のフロンティア」とも呼ばれるアフリカ。いま、このアフリカを舞台に資源の争奪戦が繰り広げられている。アフリカ各国への巨額の支援を背景として存在感を示す中国に、日本はどう巻き返しを図るのか。その資源外交の現場を取材した。
(経済部記者 山田賢太郎)
(経済部記者 山田賢太郎)
“重要鉱物外交”アフリカへ
8月6日から13日までの1週間、西村経済産業大臣はナミビア、アンゴラ、コンゴ民主共和国、ザンビア、マダガスカルの5か国を訪問した。

日本から約1万キロ以上も離れたアフリカ各国を訪れた最大のねらいは、基幹産業の将来を左右する「重要鉱物」だ。
いま、世界で急速に進む“EVシフト”。
欠かせないのがバッテリーの材料として使われる、リチウムやコバルト、ニッケルといった重要鉱物だ。
いま、世界で急速に進む“EVシフト”。
欠かせないのがバッテリーの材料として使われる、リチウムやコバルト、ニッケルといった重要鉱物だ。

その需要は今後も大きく伸び、およそ20年後にはリチウムは12倍余り、コバルトやニッケルは6倍余りに拡大するとみられている。
各国ともその確保にしのぎを削る中、注目を集めているのがアフリカの資源国だ。
各国ともその確保にしのぎを削る中、注目を集めているのがアフリカの資源国だ。
コンゴ民主共和国の現状
私が、今回の訪問で同行したコンゴ民主共和国は、コバルトの産出量で世界一、そのシェアは実に全世界のおよそ7割を占めている。
日本としても、資源外交の重点国と位置づけている国の1つだ。
首都・キンシャサに降り立った私は、行き交う人や車、バイクの多さにとにかく圧倒された。
日本としても、資源外交の重点国と位置づけている国の1つだ。
首都・キンシャサに降り立った私は、行き交う人や車、バイクの多さにとにかく圧倒された。

その活気の一方で、ほぼ信号がない道路や町並みから、貧困や都市インフラの未整備など、この国が抱える課題を感じずにはいられなかった。
そうした中で、目を奪われたのが「中国援助」という旗が掲げられた公共施設らしき建物の工事現場だ。
そうした中で、目を奪われたのが「中国援助」という旗が掲げられた公共施設らしき建物の工事現場だ。

ホテルでも「あなたは中国人か」と何度も声をかけられ、中国の存在感の大きさをまざまざと見せつけられた気がした。
資源開発の分野でも、隣国のザンビアとの国境沿いに広がる「カッパーベルト」と呼ばれる銅やコバルトなどの鉱山が集まる一帯などで中国企業が権益を獲得するケースが相次いでいて、日本が出遅れているのは否めない現状だ。
資源開発の分野でも、隣国のザンビアとの国境沿いに広がる「カッパーベルト」と呼ばれる銅やコバルトなどの鉱山が集まる一帯などで中国企業が権益を獲得するケースが相次いでいて、日本が出遅れているのは否めない現状だ。
ザンビアでも“中国の存在”
続いて訪問したザンビア。
ニッケルなどの産出拡大が期待されるこの国でも、中国の存在は大きかった。
ニッケルなどの産出拡大が期待されるこの国でも、中国の存在は大きかった。

空港やスタジアムなど、大規模なインフラ整備は中国の支援のもとで行われてきた。
現地の中国商工会議所によれば、ザンビアに進出している中国企業は600社余り、1万人以上の中国人が働いているという。
現地の中国商工会議所によれば、ザンビアに進出している中国企業は600社余り、1万人以上の中国人が働いているという。

現地の人に中国の印象を聞くと、「中国がザンビアでしてきたことに感謝している」「多くの若者が中国からの投資によって仕事を得ている」などという声が聞かれた。
中国企業は今後、ザンビアでも鉱山などの権益確保を加速させるのではないかとみられている。
中国企業は今後、ザンビアでも鉱山などの権益確保を加速させるのではないかとみられている。

中国商工会議所の会頭は「中国が発展するにしたがって、ザンビアの鉱物資源はますます重要になってきた。これからも投資は拡大していくだろう」と話す。
アフリカ各国で、中国に大きく遅れを取る日本。
ただ、日本政府は、巻き返しは十分可能だとみている。その理由が、各国の外交姿勢の変化だ。
中国による巨額の融資でインフラ整備などを進めてきた結果、その返済が滞って中国の影響力が増す「債務のわな」と呼ばれる事態が問題視されるようになってきている。
こうしたことを受けて、「中国一辺倒」を見直す国が相次いでいるのだ。
アフリカ各国で、中国に大きく遅れを取る日本。
ただ、日本政府は、巻き返しは十分可能だとみている。その理由が、各国の外交姿勢の変化だ。
中国による巨額の融資でインフラ整備などを進めてきた結果、その返済が滞って中国の影響力が増す「債務のわな」と呼ばれる事態が問題視されるようになってきている。
こうしたことを受けて、「中国一辺倒」を見直す国が相次いでいるのだ。

日本に巻き返す余地
各国は中国との関係も維持しながら、日本やアメリカなどとも上手につきあう「経済の多様化」を模索していて、そこに日本が巻き返す余地があると見ているのだ。
各国との関係を強化したい日本政府は、今回の訪問に、アフリカでのビジネスに興味を示す、商社や自動車メーカーなど日本企業の参加も募った。
企業による投資拡大や技術支援によって、日本は中国とは違ったウィンウィンの関係を築ける、と各国にアピールするねらいだ。
一方で参加した日本企業も、アフリカでのビジネス展開を見据え、今回の訪問に期待を寄せてきた。
ザンビアでの鉱山視察には、金属系の専門商社の担当者も参加した。
各国との関係を強化したい日本政府は、今回の訪問に、アフリカでのビジネスに興味を示す、商社や自動車メーカーなど日本企業の参加も募った。
企業による投資拡大や技術支援によって、日本は中国とは違ったウィンウィンの関係を築ける、と各国にアピールするねらいだ。
一方で参加した日本企業も、アフリカでのビジネス展開を見据え、今回の訪問に期待を寄せてきた。
ザンビアでの鉱山視察には、金属系の専門商社の担当者も参加した。

この商社では自動車メーカー向けに、これまでインドネシアやオーストラリアなどからニッケルを調達してきたが、調達先の多角化を図ろうと、今回参加を決めた。
担当者は、視察を通じてアフリカの将来性を強く感じ、今後は内戦や汚職などのリスクへの対応策など、実際に投資する場合の課題を整理していきたいとしている。
担当者は、視察を通じてアフリカの将来性を強く感じ、今後は内戦や汚職などのリスクへの対応策など、実際に投資する場合の課題を整理していきたいとしている。

阪和興業 竹迫隆一常務執行役員
「見てエキサイティングだと感じたと同時に、やるべき課題も大きいと思った。当社としても貴重な鉱物資源であるニッケルを確保するためにいろいろ考えていきたいと思っている」
「見てエキサイティングだと感じたと同時に、やるべき課題も大きいと思った。当社としても貴重な鉱物資源であるニッケルを確保するためにいろいろ考えていきたいと思っている」
今回、西村大臣は訪問した各国で、首脳クラスや閣僚クラスの要人と会談し、資源開発や投資拡大に日本が協力していくことを表明。

これに対し各国の要人からは、自国の産業の高度化につながると日本への強い期待が示された。
ザンビア ヒチレマ大統領
「今後は、日本との間で包括的な投資や貿易の枠組みを締結し、資源を単に輸出するだけではなく、付加価値をつけられるようにしたい。そのためには日本の技術や資本が必要で、この国の若者の雇用にもつながっていくと考えている」
「今後は、日本との間で包括的な投資や貿易の枠組みを締結し、資源を単に輸出するだけではなく、付加価値をつけられるようにしたい。そのためには日本の技術や資本が必要で、この国の若者の雇用にもつながっていくと考えている」
西村経済産業相
「今回訪問した国々とは、中長期的な視野で、総合的な協力関係を広げていく。まさにウィンウィンの関係を構築していきたい。そうした中で、わが国として必要な重要鉱物についてもしっかりと確保していきたいというふうに考えている」
「今回訪問した国々とは、中長期的な視野で、総合的な協力関係を広げていく。まさにウィンウィンの関係を構築していきたい。そうした中で、わが国として必要な重要鉱物についてもしっかりと確保していきたいというふうに考えている」
今後の日本の対応は
日本政府は今回の訪問を通じて、各国との関係強化に一定の道筋はつけられた、としている。
ただ、民間企業の立場から考えれば、ビジネス環境が整っているとは言い難い。アフリカでのビジネスには、それなりの時間がかかることが想定され、重要鉱物の安定確保にすぐにつながるとは言い難いのが実情だ。
アフリカに眠る重要鉱物は、日本の基幹産業である自動車産業の浮沈を握るとも言えるだけに、今後も日本と中国をはじめとする各国との間の争奪戦に注目して取材をしていきたい。
ただ、民間企業の立場から考えれば、ビジネス環境が整っているとは言い難い。アフリカでのビジネスには、それなりの時間がかかることが想定され、重要鉱物の安定確保にすぐにつながるとは言い難いのが実情だ。
アフリカに眠る重要鉱物は、日本の基幹産業である自動車産業の浮沈を握るとも言えるだけに、今後も日本と中国をはじめとする各国との間の争奪戦に注目して取材をしていきたい。

経済部記者
山田 賢太郎
2002年入局
自動車や電機メーカー、経済3団体などの財界の担当を経て、経産キャップ
山田 賢太郎
2002年入局
自動車や電機メーカー、経済3団体などの財界の担当を経て、経産キャップ