市場拡大「トレカ」人気の最前線

トレーディングカード、通称「トレカ」。子どもから大人まで幅広い人気で、市場が急拡大。一部のレアカードは高値で転売され、事件に発展するケースも相次いでいる。ますます熱を帯びるトレカ。その最前線を取材した。

(経済部 谷川浩太朗 サタデーウォッチ9 井上聡一郎 長野幸代)

白熱!トレカ大会

7月下旬、都内で開かれたトレカのゲーム対戦の大会。

参加者およそ300人。夏休み中の小学生に混じって大人の姿も目立ち、親子で参戦するプレーヤーの姿も見られた。

トレカには、アニメやゲームなどを題材にした絵柄と、技、体力、攻撃力といった能力や数字がそれぞれ印刷されている。これらを使って、ルールに従い、対戦して遊ぶ。

この日は人気アニメ「ポケットモンスター」のトレカの大会。

プレーヤーは、事前に用意した60枚のカード(これらのカード1組を「デッキ」と呼ぶ)を山札として机の上に置き、いざ対戦開始。

山札からひいたキャラクターのカードや、キャラクターの能力を強化したり相手を妨害したりするカードなどをうまく使いこなして、勝利を目指すのだ。

印象的だったのは、手札を見つめ、カードを切るプレーヤーたちの真剣なまなざし。目の前の相手と対じする中で、将棋やスポーツと似たような快感が得られるのが、やみつきになるというのだという。

小学生
「事前に一生懸命準備して、最後に『バッ』って決めて勝つのが楽しい!」

小学生に同伴した父親
「ずっと考えながらプレーしてるんですけど、相手が自分の考え通りの手を打って、思いどおりにいった時が一番気持ちいいみたいです」

さらに、参加者にとってだいご味なのが、対戦後、相手と一緒に試合を振り返る時間だという。将棋でいう感想戦だ。

大人も子どもも年齢に関係なく、対戦の流れを変えた一手を褒め合い、次の対戦に向け学び合う場になっている。

中には、大会を通じて知り合い、日常的に交流を深める間柄になることもあるという。

小学生
「大会は、いろんな人のデッキが知れるのでとても重要な場なんです。小学生どうしだけでなく、中高生や大学生、大人の人とも話せるので、とても楽しいです」

会社員
「この『構築』(デッキの組み合わせ方)いいね、とか、戦略性を話したりします」

会社員
「切磋琢磨(せっさたくま)するところが、部活動みたいな感じです」

トレカ人気の背景は

日本玩具協会によると、トレーディングカード・カードゲームの国内市場規模は、昨年度は2348億円で、3年前の2倍以上に急拡大している。

おもちゃ全体の市場規模は、昨年度は9525億円で過去最高となったが、そのうち4分の1がトレカなどの販売によるもので、今やトレカがおもちゃ業界全体をけん引する存在となっている。

トレカ市場拡大の背景について、ゲームなどの業界に詳しい専門家に聞いた。

東海東京調査センターの福田聡一郎シニアアナリストは、トレカの特徴は“対戦”と“収集”ができる点にあるという。

そして、希少性が高く強いカードを集め対戦を有利にしたいという消費者の欲求を引き出し、中身が伏せられたカードを買ってもらうのが、カードメーカーの戦略だと分析する。

その上で、次の3つの要因が複合的に影響していると指摘する。

1.年齢層の拡大
かつて遊んでいた子どもが大人になり、いわゆる“大人買い”需要。子どもと一緒に2世代で遊ぶことで、愛好家の数も増加傾向に。

2.換金手段の多様化
全国にトレカの中古買い取り・販売店が広がり、商品の購入や現金化がしやすくなって、流通がさかんに。

3.インターネットによる情報拡散
YouTubeなどで関心を集め、プレーヤーの新規参入や復帰につながる。

それにしても、スマホや家庭用ゲーム機が人気の今、なぜ、トレカの対戦ゲームが支持を得ているのか。

東海東京調査センター 福田聡一郎シニアアナリスト
「デジタルな対戦では得られない、対面ならではの対戦のおもしろさが要因だと思います。緊張感や駆け引き、勝ったときの喜びなどは対面の方がより体感できます」

トレカを商機に、企業も熱視線

高まるトレカ人気。その“対戦の場”に着目したのが、古本販売店を展開するブックオフコーポレーションだ。3年前から、店の一角にトレカの対戦コーナーの設置を始めた。

このうち東京・品川区の店舗では、ことし5月に、売り場面積を200平方メートル余り拡張し、トレカ販売の専門コーナーを新たに設けるとともに対戦スペースを併設した。

実は会社の業績は、電子書籍や動画配信サービスの定着の影響などで苦戦が続き、2015年度から3年連続で最終赤字に陥っていた。

経営立て直しを模索する中で、会社が新たな商材として目をつけたのがトレカ。それも、ただ商品を売るだけでなく、こだわったのが対戦コーナーだった。

全国800店舗中、すでに70店舗に対戦コーナーを設け、今後100店舗まで広げる計画だという。その狙いについて、担当者は。

ブックオフコーポレーション トレカアニメホビーグループ 
杉山祥啓グループ長
「新規ユーザーの開拓や、ヘビーユーザーの来店率を高めるきっかけにつなげようと、対戦コーナーの設置を始めました。対戦する中で負けると強くなりたいと思って、カードを購入していただける。そうするとまた戦いたくなるから、店に来ていただける。また、親子で一緒に来店するなどお子さんが増えていて、将来的に主要なお客様につながることを期待しています」

こうした取り組みも奏功し、赤字体質から脱却した会社は、ことし5月までの1年間のグループ全体の決算で、最終利益が27億円と過去最高になった。

トレカ関連ビジネスへの参入は、ほかの企業でも相次いでいる。

7月には日本郵便が、フリマアプリでトレカを売買する人向けに、専用の配送サービスを開始。

さらに、8月1日には、デパートを運営するJ.フロント リテイリングがトレカ専門店を運営する会社に出資。

9月から、傘下の名古屋市内の商業施設に、トレカショップを展開することを決めている。

「換金性」重視に課題も

まさにトレカブームの様相だが、その一方で、一部のレアカードが1枚数十万円以上で売買されるなど高騰する中、転売目的で不正にカードを入手しようとする窃盗事件も、全国で相次いでいる。

背景にある極端な高値での取り引き。この現状について、前出の福田氏は次のように指摘する。

東海東京調査センター 福田聡一郎シニアアナリスト
「とりわけ昨今、大きなファクターになっているのが換金という点ですが、カード売買で利益を得ようとする人が増えると、投機性が増してカード購入が困難になり、本当に遊びたいプレーヤーの離脱を招いて、ブーム終焉(えん)につながる可能性があります」

その上で、投機的な取り引きを抑え、市場が今後も成長を続けるための鍵について、以下の点が重要だと提案している。

▽カードメーカーは、極端なレア商法にならないよう、市場を見ながら商品の供給量を調整していく。

▽カードの販売店は、転売目的の禁止を店頭で打ち出したり、利ざやが高くなりすぎないような値づけを検討したりする。

▽「収集」だけでなく「対戦」への興味を引き出す仕掛けづくりを企業側が積極的に取り組む。

トレカ人気を地域活性化に

トレカの存在感が高まる中、国内では各地で、地域の活性化に生かそうという動きも出始めている。

地場の水産業や農産物をアピールする「漁師カード」や「農カード」も登場。

なかでも注目を集めるのが、新潟県燕三条地域で誕生したトレカ。その名も「匠の守護者」。燕三条のものづくりを守る者たち、という意味が込められている。

描かれているのは、地域の企業を擬人化したキャラクター。

地元のアニメ専門学校の学生が企業を訪問し、取り扱う商品の特長などを取材して作り上げた。

例えばキッチン用品を手がける会社の場合、キャラクターの手元の武器が、泡立て器に。

メッキ加工の会社は、全身ピカピカのたくましいキャラクターだ。

現在、このプロジェクトに参加している企業は92社。10月にはさらに35社増えるという。

燕三条匠の守護者プロジェクト 結城靖博代表
「遊びながら、地元の企業を覚えてもらいたい。集めている子どもたちがカードを見て、この企業に行ってみたいと知ってもらうきっかけがいっぱい作れたら」

参加企業の1つ、老舗刃物メーカーのタダフサ。

キャラクターのモチーフになったのは、会社の会長。右手には、パン切り包丁が描かれている。

タダフサ 曽根忠幸社長
「ザ・職人という親父をモチーフにして、しっかりもの作りをやっていますよというのがなんとなく伝わるように表現しました」

すでに第2弾の新しいキャラクターの投入も考えているそうだ。

なぜ、このカード事業に参加しているのか尋ねた。

曽根忠幸社長
「次の世代にいかに引き継ぐか。興味をもってもらって僕らの仲間になってもらえるか。この産地を残すことが1番のミッションだと思っています。例えば工場見学なら、どちらかというとこちら側に興味がある人たちへのアプローチ。でもカードは、こちらに興味がない人にもアプローチすることができる。こういう新しい可能性にかけているんです。興味を持ってもらえるきっかけがあるなら、何でも取り組もうと思っています」

マンガやアニメ、ゲームなど多くの人気作品を生み出すコンテンツ大国の日本にとって、伸びしろが大きいとの見方もあるトレカ。

一過性のブームに終わらず、今後もファンのすそ野を広げて、日本経済を盛り上げる”切り札”となるか。

トレカにかける人たちの、熱い戦いは続く。