車の走行でタイヤ摩耗による粉じん 欧州で新たに規制する動き

自動車の走行中、タイヤと道路の摩擦で排出される、タイヤの摩耗による粉じんについて、ヨーロッパでは環境への影響が懸念されるとして新たに規制する動きが出ています。

イギリスの大学、インペリアル・カレッジ・ロンドンがことし2月に発表した報告書によりますと、タイヤの摩耗による粉じんは世界全体で年間600万トンに及ぶと推計しています。

その大きさは目に見えるサイズからナノレベルの粒子まで、さまざまだということです。

その上で、粉じんは大きさによって大気中に漂ったり、道路から側溝などを通じて川や海に流れ出したりする可能性があり、人の健康や生態系への影響が懸念されるものの、長期的にどんな影響をもたらすか十分な調査ができていないと指摘しています。

懸念の高まりを背景に、EU=ヨーロッパ連合の執行機関にあたるヨーロッパ委員会は去年11月、タイヤの摩耗による粉じんについて新たに規制する方針を示しました。

ヨーロッパ委員会は規制の策定に向けて、来年中にタイヤの摩耗の測定方法などを検討することにしています。

タイヤの粉じんについて研究しているインペリアル・カレッジ・ロンドンのステファニー・ライト博士は「タイヤの摩耗が問題なのは、タイヤ自体がさまざまな化学物質が組み合わさってできているからだ。こうした化学物質は環境に放出される可能性があり、一部は極めて毒性が強い」と指摘しています。

その上で、「環境にとって問題になることは最近わかってきたばかりだ。人々の健康を守るためにも、知ってもらうことが欠かせない」と強調しています。

イギリス 「粉じん」の問題にいち早く取り組む企業

タイヤの摩耗による粉じんの問題にいち早く取り組む企業がイギリス ロンドンにあります。

この企業では、自動車の走行中にタイヤと道路の摩擦で発生する静電気を利用して粉じんを回収する装置を開発しています。

装置は車体のタイヤに近い場所に取り付けられ、粉じんは静電気で引き寄せられます。

さらに、企業では、回収したタイヤの粉じんを新しいタイヤの材料などに再利用することも目指しているということです。

この企業を設立したメンバーの1人で、技術部門のトップを務めるヒューゴ・リチャードソンさん(28)は大学院の研究過程でタイヤの粉じんの問題について知ったといいます。

ロンドンの最も長い路線のバスは一日でおよそ300グラムのタイヤの粉じんを排出しているということで、大きさはグレープフルーツ1個分に相当するということです。

その量に衝撃を受けたというリチャードソンさんは、今の車に後付けできる装置を開発することで、即効性のある解決策につなげようと、3年前、2人のメンバーと共に起業しました。

開発した装置は去年、環境問題の対策に力を入れる、当時、皇太子だったチャールズ国王が設立した賞にも選ばれ、リチャードソンさんたちはタイヤの粉じんの問題や自分たちの装置について、直接、チャールズ国王に説明しました。

また、去年、3か月間にわたり、ロンドンに拠点を置く物流会社と実証実験を実施するなど、粉じんの回収率を高め、再来年の実用化を目指しています。

リチャードソンさんは「タイヤが摩耗することは誰もが知っているのに、その粉じんがどこに行くかを考えている人はいませんでした。私たちの長期的な目標は、自動車メーカーと協力して、すべての車両に自分たちの製品を装着させることです」と話していました。

EVにとって課題になるとの指摘も

タイヤの粉じんは、環境に優しいとして利用が広がっているEV=電気自動車にとって課題になるとも指摘されています。

自動車の環境への影響を分析する調査会社「エミッションズ・アナリティクス」によりますと、EVはガソリン車などと比べてより大きいバッテリーを搭載し、車体が重いため、タイヤの摩耗による粉じんの排出量がおよそ20%多いとしています。

調査会社のニック・モールデンCEOは「より大きく、より重いEVへ移行することで、タイヤの粉じんの排出量が増え、問題は大きくなる。安全性を損なうことなく、環境への影響を低減させるのは技術的に非常に難しい。有害な化学物質の利用を減らしてタイヤを製造することが重要だ」と話しています。

日本でも対策進められる

タイヤの摩耗による粉じんについては、日本でも対策が進められています。

日本国内の主要なタイヤメーカーなどで構成する「日本自動車タイヤ協会」によりますと、日本でも安全性を確保しつつ、摩耗しにくいタイヤの開発が長年、進められているということです。

また、規制の導入を視野に、タイヤがどのくらい摩耗しやすいかを計測する国際的な試験方法の確立に向けて、各国政府の協議が始まっていて、タイヤメーカーも参加しているとしています。

「日本自動車タイヤ協会」の倉田健児専務理事は「国際的な規制を導入するとしたら、試験方法をどうするかということは非常に大きな議論の対象になる。全世界が納得する試験方法の開発を進めたい」と話し、積極的に関わっていく考えを示しました。

その上で、「環境負荷のひとつとなる粉じんを減らしていくことは、以前から大きな課題だ。タイヤの製造や利用、廃棄のプロセスで発生する環境負荷を低減することは、規制の有無にかかわらず、果たしていかなければならない」と話し、粉じんの対策に取り組んでいくとしています。