ファミコン発売40年 任天堂社長に聞く

ファミコン発売40年 任天堂社長に聞く
「子どもが街から消えた」

その爆発的ヒットがこんな表現で例えられたのが、1983年に任天堂が発売した家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」、通称「ファミコン」だ。

日本のゲーム産業に大きな影響を与えたこのゲーム機が、世に出てことしで40年。会社はこれから、どのように、どんなゲームを送り出そうとしているのだろうか。そのヒントを探るべく、古川俊太郎社長に話を聞いた。

40年たった今でも

8月1日から31日まで大阪府阪南市で開かれているレトロゲームの展示会。

過去に販売されたおよそ500種類のゲームやその関連商品が展示されている。

中でも入り口の一番目立つ場所に置かれているのが、「ファミリーコンピュータ」、いわゆる「ファミコン」だ。
夏休み中の家族連れなど多くの人が、懐かしそうに足を止めていた。
家族で訪れた30代男性
「懐かしいです。子どもの時はだいぶ遊びました。当時はゲームしかしてなかったですね」
20代男性
「今のゲームみたいに容量がいっぱいあって何でもできるということでなくて、限られた中、単純なゲーム性でとっつきやすいところがいいんです」
40年前に任天堂が発売したこのゲーム機は、累計約6200万台、関連するソフトは累計5億本以上を世界で売り上げた。

その魅力はいったい何だったのか。

展示会の主催者で、ゲームリサイクル業を営むゲーム愛好家の石井豊さんはこう語った。
展示会を主催 石井豊さん
「一番の功績はカセットをさしていろいろなゲームが遊べるということとコントローラーの操作性のよさだと思います。それまでのゲーム機は形が定まっていませんでしたが、ファミコン以降は似たような形になりました。ゲームの源流、基礎になっていると言えると思います」

会社のDNA“独創の精神”

会社はこれから、どのように、どんなゲームを生み出していこうとしているのだろうか。

8月3日、そのヒントを探るべく任天堂の古川俊太郎社長(51)に話を聞いた。

「ファミコン世代の真ん中」だという古川社長。

中学1年生の時、自身のお年玉でファミコンを買い、友人たちと遊んでいた光景を、いまでもよく思い出すという。
任天堂 古川俊太郎社長
「私の家では、ファミコンはリビングではなくて和室のちょっと離れたところにつないであったのですが、いつもそこに友人と集まっていましたね。中学時代に友人と和室で遊んでいた光景はいまでも本当によく思い出します。思い入れのあるソフトはたくさんあるのですが、もちろんスーパーマリオブラザーズはたくさん遊びました」
「3年は他社に追随されないものを、お客さまが求めやすい価格で実現する」

こうテーマを掲げ、開発が推進されたというこのゲーム。

瞬く間に人々をとりこにし、一時は「子どもが街から消えた」とも言われた。
発売当時、会社を率いていたのは、3代目社長の山内溥氏。

創業者のひ孫で、社長在任期間は50年以上に及んだ。

その山内氏が語っていたということばがある。
「娯楽というものは、いわゆる生活必需品とは根本的に違うものである。必需品であれば仮に2番手であっても安くすれば売れるかもしれないが、娯楽においては二番煎じはだめだ」
古川社長は、山内氏のことばが表すこの「独創の精神」こそが、会社がものづくりのDNAとして長年大切にしていたものだと語った。
古川俊太郎社長
「われわれの娯楽のビジネスは、何か決まった市場があって、毎年そこにものを出していけば売れるというものではない。ゲーム自体の遊ばれ方は、オンラインプレーができるようになるなどいろいろ進化していますが、常にお客様に『これはほしい』と思ってもらえるようなものを生み続けなければいけないという娯楽ビジネスの本質は変わっていないと思っています。だからこそ『独創の精神』をこれからも大切にしてきたい」
8月に発表された任天堂のことし6月までの3か月間の決算は、売り上げ、最終利益ともに、この時期としては過去最高となった。

5月に発売された人気シリーズの最新作が好調だったことや、会社が権利を持つ人気キャラクター「マリオ」の映画のヒットで、知的財産関連の収入が伸びたことなどが要因だ。

しかし古川社長は、決して現状を楽観していない。
古川俊太郎社長
「本当にほしいと思ってもらえるものを生み出し続けないと飽きられてしまうということは常に肝に銘じているところです。いまはビデオゲームだけではなくて、さまざまなエンターテインメントがあります。そうした中で貴重な時間をビデオゲーム、しかも任天堂のゲームに割いてもらうには、本当に競争は厳しいと思います。いつ何時『もう任天堂のゲームはいらない』と思われてもおかしくないと、そのくらいの覚悟を持って常に臨んでいるところです」

遊び自体を変革する

一方、主力のゲーム機「ニンテンドースイッチ」の販売も好調だ。

ことし6月までの3か月間の販売台数は、前の年の同じ時期より13%多い391万台に上った。

後継機の開発動向も気になるところだが、やはり明確な回答を得るのは難しく、「常にいろいろなハードウェアの開発は行っているのですが、この場で具体的に申し上げられることはありません」とのこと。

それではいま、どんな技術に注目しているのだろうか。

古川社長に尋ねると、こんな答えが返ってきた。
古川俊太郎社長
「いま特別に注目している技術はありませんが、最新技術に関していろいろな研究開発を行っています。ただ最新の技術を追い求めるというよりは、当社が非常に重要だと思っているのは、何かの技術を導入する時に『遊び自体がどう変革するのか』ということだと思っています。この技術を採用したら、お客様に新鮮な驚きを体験いただけそうだと、何か確信できるものがあれば、より貪欲にその技術を研究しますし、必要な時は投資を行っていくという考えです」

競争激化 どうなる今後のゲーム産業

国内外では、スマートフォンアプリや動画配信サービス、そしてメタバースを活用したゲームなど新たな娯楽が次々と生まれている。

ゲーム産業はいま、人々の遊ぶ時間の奪い合いという新たな競争に直面しているのが現状だ。

こうした厳しい環境の中で、これからどんなゲームやゲーム機が日本から生まれ、世界に広がっていくのだろうか。

今後も注目していきたい。
京都放送局記者
櫻井亮
2012年入局
宇都宮局・経済部・ニュース制作部などを経て現所属
好きなゲームジャンルはRPG
京都放送局記者
山崎麻未
2017年入局
松江局を経て現所属
好きなゲームジャンルはアクション