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なでしこジャパン “思い1つに” 築いた一体感【解説】
サッカー女子ワールドカップで、なでしこジャパンは今大会、この共通の思いを胸に23人全員が同じ方向を向いて一つになりました。誰が出ても結果を残すチームとしての強さを見せてベスト8まで勝ち進みました。
(スポーツニュース部 記者 福島康児)
池田監督が目指した“一体感”
池田太監督は、おととしの就任以来、積極的に前線からプレスをかけてボールを奪い、素早く攻めるサッカーをコンセプトにワールドカップまでチームを作り上げてきました。
しかし、今大会は場合によっては相手に合わせて柔軟に戦い方を変えて臨みました。
1次リーグの第3戦でパスワークが武器のスペインを相手にした際は、ディフェンスラインを整えて引いて守り、数少ないチャンスを得点につなげる戦略で世界ランキング6位の強豪を4対0で破って日本の強さを世界に印象づけました。
特徴の異なる選手を適材適所で登用し、5試合を通じてゴールキーパーの控えを除く21人が試合に出場し、実に7人の選手がゴールを決めました。
大会中、池田監督はチームの一体感に自信を示していました。
池田太 監督
「ピッチ内でもピッチ外でもコミュニケーションをとって、どういうふうに戦っていくか話ができているし、チームとしての共通理解もしっかり持って同じ方向を向くことができている。本当に1つになって戦えているなという実感がある」
“日本の女子サッカー界への危機感”
その一体感を生み出した源は、“日本の女子サッカー界への危機感”でもありました。
2011年、日本がワールドカップで初優勝を成し遂げたときは、国内でサッカーを始める女子が増えたり、当時の国内リーグ、なでしこリーグの観客数が大きく増加したりして女子サッカーの人気が飛躍的に高まりました。
しかし、その後、主要な国際大会で結果を残せない時期が続くと人気はかげりを見せ、今大会も開幕前の関心は決して高いとは言えませんでした。
代表メンバーで唯一、2011年の優勝を知るキャプテンの熊谷紗希選手は…。
熊谷紗希 主将
「自分たちの姿が日本の女子サッカーの未来につながる。結果を出せるように準備していきたい」
当時中学生だったミッドフィルダーの長野風花選手は。
長野風花 選手
「2011年の大会を見てすごく心が震えて夢中になった。そういう結果の積み重ねが女子サッカーの未来のためになる。もう一度強い日本を見せたい」
準々決勝のスウェーデン戦では先に2点を奪われる苦しい展開になりましたが、ベンチスタートの選手を含め、誰ひとりとして下を向く選手はいませんでした。
途中交代で入った遠藤純選手がサイドからキレのあるパスでチャンスを作ると、同じく途中交代の林穂之香選手がこぼれ球に反応して1点差に迫るゴールを決めました。
同点に追いつくことはできなかったものの、選手全員で最後まで諦めずに戦う姿は、まさに今大会の「なでしこジャパン」を象徴する姿でした。
来年のパリ五輪へ 課題克服を
一方で気持ちだけでは乗り越えられない課題もありました。
世界のトップと比較したときの「強度」の差です。
準々決勝のスウェーデン戦、前半から体格で上回る相手に厳しいプレッシャーをかけられ、ボールを奪ってもすぐに奪い返され、自分たちの時間を作ることができませんでした。
また、プレッシャーがかかる場面での決定力にも課題を残しました。
後半は、再三相手のゴールに攻め込んだものの1点にとどまりました。
司令塔の長谷川唯選手は「何度もチャンスがあった中で決めきれなかったことがすべてだ」と悔しさをことばに込めました。
体格で優位に立てない日本の生命線は、試合を通じて一貫して規律のとれた攻守を継続することにあります。
「なでしこジャパン」への注目度は、今大会の快進撃で間違いなく高まりました。
この上昇気流を一時的なもので終わらせないためにも、来年のパリオリンピックに向けて再びチーム一丸となって課題を乗り越えていく“なでしこたち”の姿を見せてほしいと思います。